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I'll always be with you.
6



「あ、お前こんなめんどくさい計算したのかよ」

「にゃーん」

「え、じゃあどうすればよかったの」

「みゃー」

「だから、この公式をこう変形して……」

「にゃー」

「あーそれか。先生言ってたかも」

「みゃーん」

「そうそうそれ使ってそう……うわ! コメット邪魔すんな!」

「にゃーー!!」

「あーコメット、こっちおいで」

「にゃぅー」




 まさにぃの膝の上へジャンプして乗っかった我が家の愛猫──コメットを自分の所へ座らせる。頭をなでなでして軽くキスしてやると、喉を鳴らして顔を舐めてきた。このかまってちゃんめ。




 今は、まさにぃの作った夕食を食べ終え風呂に入った後で、ダイニングテーブルでまさにぃに課題を教えてもらっている。




 この猫はおれが15歳の時に、まさにぃが友人からまだ子猫だったのをもらった。種類はサバトラで、性別はオス。サバトラは陽気でフレンドリーか、警戒心が強いかになるんだけどこいつは完璧に前者の方。甘えたがりだし、いつも家に着くとうれしそうに鳴きながら出迎えてくれる。




「ん。出来てんじゃん。あとは自分でやりな。後の問題は出来るよ。次は? 英語?」

「んー……長文問題……」




 英語のプリントを取り出す。英語は苦手だ。まさにぃは嫌々言うことなくまた丁寧に教え始めた。





 まさにぃは頭がいい。まさにぃは、おれと同じ高校に通ってた。おれは普通クラスだけど、まさにぃはめちゃくちゃ頭のいい特進クラスにいて、学年1位を何回も取って、生徒会にも入っていた。そして有名私大に現役で合格して、それから俳優活動を始めた。まさにぃは大学をきちんと出て、就職するのだろうと思ってたけど、俳優活動をずっと続けることになった。親は何も言わなかった。




 親は……仕事とかそういうのにあまり干渉してこない。自分がやりたいと思ったことを好きなだけやりなさいと言っていた。ありがたいと思う。でも、そう言う親も自由奔放で、今だって、どこにいるのか何をしているのかわからない。もうずっと会っていない。まさにぃは親が今どこにいるのか知っていると思う。けど、おれはあまり知りたいと思わない。なんというか、親は少し苦手だ。中学校に入ってから、直接面と向かって話したことないと思う。今度の卒業式だって、来るのか来ないのか。親はおれのこと、どんな風に思ってんだろ……。




 もうずっと前からまさにぃと、このマンションで2人暮らしだ。ずっとずっと。




 まさにぃに依存しているとは思う。おれにはまさにぃがいればいい……って。でもずっとこのままじゃダメだっていうのもわかってる。でも…………




「けーい。ペン止まってるぞ。……もう眠いか?」




 ハッとする。言われてみれば、ちょっと眠いかもしれない。時間は11時を過ぎている。コメットも、膝の上で丸くなって眠っていた。




「んー……眠いかも……」

「じゃあもう寝ろ。明日は学校ないんだろ? また教えてやるから」

「うん。まさにぃありがと。おやすみ」

「はいよ、おやすみ」




 眠っていたコメットをごめんごめんと言いながら膝から床に降ろし、課題をまとめてリビングを出る。自分の部屋に行きベッドにダイブし、目を閉じる。一気に眠気が襲ってきた。




 あー……明日は1日中舞台の稽古だっけ。ドラマは2週間後に撮影始まるんだよな。台本読まないと。




 …………柳井さん。柳井さんと初めて会った……。夢みたいだ。柳井さんと会って話したなんて。




 一生手に届かない人だと思っていた。テレビとか、雑誌とかで見るたびに。おれなんかの俳優とは、縁のない人だと。そう思ってたのに、おれの名前と顔を知ってた。うれしい。すごい、うれしい。




 柳井さんにまた会えるかな。会いたいな。もっとたくさん話しとか、したいな………………




 そんなことを考えてるうちに、おれは寝てしまった。





 柳井さんへのこの気持ちが、変わっていくのを、知らないままで。





 雨はまだ降り続いている。



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