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姦しい+1


お泊り会を発足するわ、と高らかに宣言したハルヒは妙に生き生きしていた。
発足――ほっそく。意味、団体や組織などが新たに作られ、活動を始めること。はっそくとも言う。ならばその団体とは何を指し示すのか。SOS団は既存の団だから、新しく何かを作らねば、発足とは言わない。

「勿論、SOS団です」

人に説明をするときに限り妙に敬語調になるハルヒは、俺の顔を見て心底楽しそうに笑った。俺が何らかの疑問を口にするよりも早く、次の言葉を吐き出される。

「裏SOS団。今作ったわ。裏SOS団は、お泊り会を発足します。拒否権はないわよ」

ないのかよ。
しかし何だ、その裏SOS団っていうのは。
既にSOS団全員が揃った部活に、ひと時の緊張が走る。ハルヒが何かを思いつくたび、俺たちは次は何が来るのだろうかと、ひとつしかない心臓を酷使させなければならなくなるからだ。特に見ろ、朝比奈さんなんて、何がくるのかとドキドキした面持ちで震えているじゃないか。なんて愛らしい。
一方のニヤケハンサムこと古泉も、さすがに裏SOS団なんてものは予想していなかったらしく、そのニヤケ顔をいつになく緊張で強張らせていた。かすかにしかわからないような微細な変化だが、すっかりこのメンバーに慣れてしまった俺にはわかってしまう。
そしてさらにもう一方の長門と名前は、恐ろしいほど普通だった。長門はわかるとして、なぜ名前は平気なんだ?心持ち楽しそうにしているようにも見える。
たっぷり含みを持たせて口角を上げたハルヒは、右手人差し指を軽やかに上下させて、つくりだけはいい表情を和らげた。

「裏SOS団のメンバーは、あたし、有希、みくるちゃん、名前よ。お泊り会の日付は今週末の土日。持参物は下着と着替え、あとはなんでもいいわ。泊まるのは有希の家ね。いい?有希」

「構わない」

もうちょっと計画性を持て、と言いたいのだが、ハルヒにそんなことを言っても無駄の極みだろう。だいたいそれぞれのメンバーの予定も聞かないで何をそんなこと。しかし、悲しいかな、誰も用事が入っていないのだ。次々と、了承を知らせる声が上がる。
ハルヒはそれを聞き遂げると、満足そうに椅子から立ち上がった。
ばたばたとせわしない足音が部室から遠ざかっていくのを確認して、俺は「今回は自分に被害が及ばないようだ」という安堵感から、朝比奈さんがいれたお茶を飲み干す。
困ったような笑顔の古泉の横で、朝比奈さんも困ったようにふにゃりと眉を垂れ下げた。

「えーと……、その、今週末の土日って……」

今回ばかりは俺がノータッチなので、朝比奈さんには悪いが諸手を振って喜ばざるを得ない。仕方がない、とでも言うような朝比奈さんの笑顔は、長門と名前に向けられていた。

「………明日から、ですよね………」







と言うわけで土曜日である。
集合時間は昼の1時。お昼ごはんは有希の家で作るらしい。必要最低限の用意しか入っていない鞄を肩にかけなおして、すっかり見慣れてしまったマンションを見上げる。
時計を見ると、まだ12時30分だった。こんな時間に来てしまったけど、多分ハルヒはもういるんだろうなあ。こういうイベントごとにはとくに気合を入れる子だから、誰よりも早く準備をして、誰よりも早く目的地に向かうに違いない。

「有希、いる?」

『そこで待っていて』

問いかけとは全く違った返答をされて、だけど私はそれに従った。数分もしないうちに有希がマンションの玄関まで下りてくる。そのままタッチパネルの操作をして中に入れてくれた。
ドアを開けた向こう側にはやっぱりハルヒがいて、遅かったじゃない、と私に笑いかけてくる。太陽みたいな笑顔だなと、いつも思う。遅くなってごめんね、と言いながら隣に腰掛けた。
まだみくるちゃんは来ていないらしい。
ハルヒは私とは違って、大きな鞄を膨らませて部屋の隅に置いていた。いったい何を入れたらそんなに膨らむのか、と言いたくなるような大きな鞄。若干コスプレ衣装がはみ出ているように見えたのは私の気のせいだろうか。見間違いだろうか。

「ね、ハルヒ。なんでお泊り会なんてやろうと思ったの?」

有希から出された緑茶を飲みながら問いかけると、ハルヒは楽しそうに人差し指を上下させる。

「女子同士でお泊り会、定番じゃない。ベタよ、ベタ。あたし、一度くらいは経験したいと思うのよね。女子数人でお泊り、姦しい様子、夜のガールズトーク!まさに格式美!うん、実にいいわ」

何の番組に影響されたかな。

「遅れましたあ〜」

対応に困っていると、タイミングよくみくるちゃんがやってきた。私の荷物より少し多いくらいの、でもみくるちゃんが持っているとなんだか重そうに見える鞄。

皆が揃ったのを確認して、昼食作りを開始する。というか主にハルヒが作ったようなものだけど。ハルヒの作る料理はおいしいから、私もみくるちゃんも有希も、ほとんど補助に回った。食卓の上に飾られた色とりどりのパスタやスープ。写真とってキョンに送りつけてやろうかな。そう言えばキョンは、お昼ごはんちゃんと食べたかな。

とりあえず、ハルヒの持って来た荷物の詳細がわかった。全部、遊び道具だ。ツイスターまで持ってくるって。相当荷物がかさばったろうに。
私たちと遊ぶ、それだけのために、プレステとか、ツイスターとか、人生ゲームとか、そんなものを鞄に詰めて持って来たハルヒがなんだかとても可愛くて。私は勿論、ゲームが苦手なみくるちゃんまではりきって、有希も心持ち楽しそうに遊んでいた。
罰ゲームを設定して遊んだり(でも罰ゲームをやったのはたいていみくるちゃんだった)、スーパーに買出しに出かけたり、本当にハルヒの言うところの「姦しい」「お泊り会」だったと思う。

そして、女子同士のお泊り会と言えば、深夜のガールズトークだ。とは言っても、みくるちゃんや有希なんかはそんなに話のネタがなくて、ハルヒが面白く無さそうだった。ハルヒもハルヒで、自分のことを語るよりは人の話を聞きたいタイプだし、私はこの世界であったことじゃないからむやみに語れないし。
しかしガールズトークは続行したいのか、折衷案とばかりに人差し指をたてたハルヒの言い出した言葉はこうだ。

「じゃあ、今好きな人はいる?」

リボンカチューシャを外した、珍しい姿になったハルヒが、やっぱり太陽みたいな笑顔を浮かべる。有希は無表情、私は苦笑、みくるちゃんは赤面して、ハルヒを見返した。

「有希は?」

「いない」

まあそうだろうと思っていた返答だ。
ハルヒもハルヒで、まあそんなこったろうと思ったわよ、とさらりと言って矛先を変える。

「みくるちゃんは?」

「ふえっ、う、いませんよぅ」

「………」

うーん、本当かなあ。
私と同じような感想でも抱えているのか、ハルヒはからかうような笑顔でみくるちゃんを見返しただけだった。

「名前は?」

「そういうハルヒは?」

問いかけに問いかけで返すと、ハルヒは不機嫌な顔をする。多分ここで私が返答をしてしまうと、そう、じゃあ寝ましょう、と言って話を切ってしまうだろうと思ったから。
とがった唇が呟く。

「あたしはいないわよ。あんたはどうなの」

うそつき。そう言いたい気持ちになりながらいないよと返した。ハルヒがまた不機嫌そうな顔をした。







翌朝、日曜日。親に呼び出されたから、と言ってハルヒが帰ってしまったので、自然に解散する流れになった、と言って、名前が昼前に帰ってきた。
聞くところによると随分楽しい時間を過ごしたそうだが、俺はいったいどうしたらいいのか考え物である。
ハルヒから送られてきたメール。宛先は俺と古泉。なんでCCなんだよせめてBCCにしろよ。いや特に理由はないけど。

『名前って好きな人いないんですって。本当かしら』

いないんですってじゃねえよ俺にどうしろっていうんだよ。
日曜昼前の出来事。意図の読めないハルヒからのメールに、俺は困惑することしきりだ。恐らくは古泉も同じ気持ちになっているとは思うのだが、さて俺はこのメールをいったいどうしたらいいのか、先ほどから考え中である。






姦しい+1






高月里亜さん、
リクエストありがとうございました!






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