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『頼る-1-』※切甘 ※ルフィ視点


「ただいまー」
誰もいないはずの部屋にむかって、そう呟く。
靴を脱ごうと視線を下げると、あるはずのない靴が一足乱暴に散らばっていた。

(あれ?エース今日バイトのはず…)

ーーなんだか、イヤな予感がする。
「エース! いるのかー?!」
軋む床の上をバタバタと走りながら、リビングへ向かう。
でも、机の上に空のコップが寂しそうに置かれているだけで、エースはいない。

(部屋かな?)
靴はあるのに、姿がなかなか見えない。

「エース??」
エースの部屋のドアノブに手をかけ、返事を待たずにドアを開ける。
部屋にはバックやケータイが散乱し、ベッドの上には力尽きて倒れ込んだような格好のエースがいた。

「エース?!大丈夫か?!」
散らばる荷物の間をぬって、ベッドにかけよる。

「…っ、ルフィ帰ってたのか?」
熱を含んだかすれた声なのに、心配かけまいと笑顔を自分に向けるてくる。
こんな弱々しいエースをみるのは初めてで、心がざわつく。

「帰って来たら、エースバイトだからいないはずなのに靴あって、しかも倒れてるし、めちゃくちゃびっくりして…!エース、どっか具合悪いのか?!」
焦り過ぎて、伝えたいことを上手くまとめられない。

そんなオレの気持ちを落ち着かせるように、エースの普段より火照った手が、ふっと優しく頭に触れる。
「びっくりさせて、ごめんな?ルフィ。ちょっとダルくってバイト代わってもらったんだ。寝てたら治るから、お前移んないように早く部屋でろ。」
そう言った途端、頭に触れていたエースの手がさっと離れて、ひらひらとオレを部屋から追い出すように動く。


それがなんだかすごく切なくって、もどかしくって。


「オレ、風邪ひかないから平気だって!エースなんか食うか?食わないと薬も飲めないだろ?」
なんにもせずになんていられない、エースの為になにかしたい。
そんな思いで頭の中がいっぱいになる。


「うーん、じゃあコンビニで、お粥買ってきてもらってもいいか?」
心配をかけまいと明るく振る舞ってるけど、無理してるのが目に見えて分かるくらい辛そうだ。
こんな時位、自分のこと一番に考えて欲しいのに。
エースらしいっちゃエースらしいけど、たまにはオレにも頼ってほしい。

「わかった!急いで買ってくるから!」
「急がなくっていいから、気をつけて行ってこい」
そう言ったエースの顔をみて胸がきゅーっとなる。
足早に部屋を出ると、自転車の鍵を乱暴に掴んで玄関を出た。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


自転車を息を切らして必死に漕ぎながら、自分が昔、風邪をひいた時のことを思い出した。
怠くて、熱くって、自分の身体なのに自分のモノじゃなくなってしまったような感覚が、なんだかすごく心細かったのをよく覚えてる。

でも、エースがずっと隣にいてくれたから、
そんな不安なんてすぐどこかに消えてしまった。


エースはいつだって、側にいてくれた。

嬉しいとき、幸せなとき。
エースと一緒だと、喜びが何倍にもなった。
辛いとき、哀しいとき。
エースが側にいてくれると、心が軽くなった。


そして、ふと、
ある想いが頭を過る。


(じゃあ、エースは…?)


エースが嬉しいとき、哀しいとき、誰か側にいてくれた?

兄弟二人っきりで今まで生きてきた。
唯一の家族のオレの前でも、エースは弱音なんか絶対吐かないし、いつも一番にオレのことを考えてくれてるのが凄く伝わってくる。
他人に弱さを曝け出すような性格じゃないことも、百も承知だ。

じゃあエースは、
今まで全部全部、
独人で抱えて生きてきた…?


なんで、今まで気付いてあげられなかった?
こんなに大好きなのに。
愛してるのに。


エースの優しさに、
愛に、
甘えてた。


自己嫌悪なんて、生易しいモノじゃなくて
自分自身に、
殺意が湧いた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


増々ペダルを漕ぐ足に力が入る。
息が上がる。
心が迫る。


一秒でもはやく、触れたい。

甘ったれでダメな弟でごめんって謝って

エースの全部を

今までも

これからも

全部全部受け止めて

気が遠くなるほど抱き締るんだ。






恐いほど紅く染まった夕日が、涙でぼやけるのを感じた。






『頼る-2-』に続く



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あきゅろす。
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