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shooting star
Reliance




ジェシカが戸惑っているので、ラバーは言ったことを少し後悔した。

「…悪かった。忘れて」

笑って帰ろうとするラバーに、ジェシカの胸は痛む。

「ま…待って」

呼び止めたジェシカは、ドアの直前で振り返ったラバーの目の前にいた。

「……っ…」

「!」

震える手でラバーの肩つかみ、少しだけ背伸びした。
ジェシカの唇がラバーのほっぺに。

「…あなたは…嫌いじゃないの…」

「!」

アメリカではこんなの挨拶程度だが、ラバーはちょっとテレてほっぺをなでる。

「…でも、私はこんなキスでさえ、やっとなの。あなたはきっと色々…我慢することになる」

「ジェシカ…」

「…だから、私はあなたにふさわしく…ないわ」

ジェシカは震える手を、震えるもう一方の手で押さえた。

「あなたは…スターだもん。スターはスターと付き合わないと」

ジェシカが笑顔でそう言うと、ラバーは驚いて…少し悲しそうな顔をして出ていく。

「…ジェシカには…そう思ってほしくなかった…」

「!」

ラバーが出ていったバーは静まりかえる。


「……っ…」

ジェシカだって、あんなことは言いたくなかった。
ジェシカ自身、ラバーの人柄に徐々に惹(ひ)かれていた。
でもウィルのことがあり、迷惑をかけるのがわかりきってる。
信じるて傷つくのも恐かった。ジェシカは声を殺して泣いた。








「ライル〜!」

ジェシカが公園に迎えに行くと、今日はスコールと2人で遊んでいた。

「こんにちは、スコール」

ジェシカがハニカむと、スコールはテレていた。

「こんにちは、ライルのお姉さん」

「ジェシカでいいわ」

ジェシカがクスクス笑う。

「ジェシカ、もう帰るの?」

ライルが心配そうに聞く。

「…まだいちゃダメ?」

ライルがチラッとスコールを見た。スコールの迎えが最後なんてめずらしい。
ライルはスコールを1人にするのが心配なようだった。スコールも少しそわそわしている。

「んー…」

ジェシカが少し考えるフリをした。
すると、ライルは必死に頼む。

「ジェシカ、お願いだよ!」

必死に頼むライルがかわいくて、ジェシカはライルを抱きしめた。

「いいわ。買い物を先にしてくる」

「ホント!?」

「それでもまだ2人で遊んでたら、2人とも連れて帰るからね」

「!」

スコールもちょっと笑顔になる。





「ジェシカじゃない」

買い物帰り、駐車場に向かって歩いていると、ブースターのチアもやっている、ルーナがいた。

「ルーナ!久しぶりね」

ルーナは高校の同級生。パーマもかけた長い髪が特徴。

「ちょっと…聞いたわよ」

「?」

「とぼけないの〜!」

ルーナは、昔からウワサ話とかが大好きなタイプ。

「ラバーよ」

「!」

「話題になってるわ」

「話題?」

「そうよ。うちのチームは選手との恋愛は禁止だけど、そんなの無視してねらってるコいっぱいいるんだから」

ルーナも買い物帰り。一緒に歩いた。

「…どんなウワサか知らないけど、根拠のないものだわ」

「でも先輩がバーでラバーが口説いてるの見たって」

「!」

ジェシカは初めて来た日のチアの誰かだろうか…と思った。

「あ、あの…」

2人で歩いていると、後ろから声がして振り返る。

「ルーナ、一緒に写真いい?」

「えぇ、もちろん」

男は嬉しそうに飛び跳ねる。
ルーナもブースターファンの間では、かなり有名な方。

「じゃ、シャッター押してあげる」

ジェシカが男からカメラをあずかり、シャッターを押す。




「ルーナもすっかり有名人かぁ」

カメラを男に返して、また2人になりジェシカがしみじみ言った。

「努力してここまで来たのよ」

「知ってる。いつも最後までチアの練習してたもの」

ジェシカが言うと、2人はまた笑い合う。

「…久しぶりに会えて、元気そうで安心したわ」

「うん…」

ジェシカは一瞬、顔が引きつる。

「ジェシカ…」

ルーナは、言うべきか迷いながら言った。

「言うべきか…わからないけど…」

「何?」

「…3日くらいらしいけど…この街に…ウィルが来てる」

「!」

ルーナは昔、ウィルの近所に住んでいた。

ジェシカとウィルのことも…知っていた。
ジェシカがウィルの家から逃げ出し、助けを求めたのが近くに住むルーナだった。

「すぐ隣街に戻るって…でも知らないで会うよりは…」

「うん…教えてくれてありがとう」

ジェシカは平静をよそおったが、手が震えていた。

「でも、今はラバーがいるし平気よね!」

「…うん」

ジェシカは、ラバーがいれば確かに平気な気がしたが、ラバーに知られたくない気持ちの方が大きかった。





ライルを迎えに行くと、スコールは迎えが来たようで帰っていた。

「ライル…帰ろう」

「うん!」

ライルの優しさに、いつも感心するジェシカ。




家に帰ると、玄関に男物のくつがあった。
嫌な予感がしたので、ライルを玄関で待たせた。



「母さん?」

ジェシカがリビングに入ると、また男が替わっていた。

「ジェシカ!い〜とこに来たわ。彼と…ゆっくりしたいから、また1週間ほど出ていってくれない?」

「!」

先週まではフラれて泣いていたくせに勝手だとジェシカは思った。

「…ジェシカか…美人だな。一緒に楽しむか?」

今度の男は、視線がヘビのようでなんとなく嫌で無視した。

「母さん、お願い…今は…出ていきたくないの。3日だけは…お願い」

「ワガママ言わないの」

「母さん!」

ジェシカは初めて本気で頼んだ。
ウィルが街にいると知り、ウィルの知り合いがバーの場所も知っている今、出歩きたくなかった。

「私、ここまでワガママ言ったことないでしょ?今回だけ…お願いよ」

ジェシカが泣きそうになりながら言うと、母は鼻で笑った。

「だったら、今回もおとなしく従いなさい」

「!」

ジェシカは、悔しくて涙が出た。母は娘より男が大事なのだ。
ウィルが街にいる…ジェシカに安らげる場所なんてなかった。



「ライル…また出ていかなきゃないわ」

ライルは車イスに置かれたジェシカの手が震えているのに気づいた。
笑顔にも力がない。それでも、ライルに心配をかけないようにした。

「…準備してくるから、車に乗ってて」

「うん…」




ライルは車に乗って…少し考えてから、携帯から電話をかけた。

『…どうした?』

「ジェシカが…ジェシカが壊れちゃうよ!」







ジェシカが車に乗った。手は相変わらず震えていた。

「…ジェシカ?」

「!」

ライルが肩に触れると、ジェシカは体がビクッとした。
ライルが驚いていたので、謝るジェシカ。

「ごめん…ライル」

「…大丈夫?」

「うん…」

ジェシカがハンドルを両手で握り、頭をくっつける。
ライルはジェシカが心配でたまらない。

「…行くあて…あるの?」

「………。」

ジェシカが無言でいると、ライルが言った。

「ごめん…ジェシカ。公園に忘れ物しちゃって…連れてって」

「忘れ物?」

「うん。ボール。スコールが持って帰ったと思ったんだけど、持ってないって今電話が…」

「…いいわ」

行くあてのないジェシカ。車を走らせた。






真っ暗になっていた。

「あった?」

ジェシカが公園のコートの外で聞くと、ライルはコートの中から言った。

「ないよ…ホントはないんだ。スコールが持って帰った」

「!」

「ジェシカ…ウソついてごめんね」

すると、後ろから聞き覚えのある車の音がした。
ジェシカは振り返らなかった。


「ジェシカ…」

「!」

聞き覚えのある声に、ジェシカは涙がでそうだ。
今、振り返ったら甘えてしまいそうで、ジェシカはライルの方へ歩いた。

「…帰るわよ」

「ジェシカ!」

無理やり車イスを押そうとするジェシカをライルは手で車イスを押さえ、全力で止めた。

「ボク達、行くとこなんてあるの?」

「ライル!」

「ジェシカは!」

めずらしくライルも引かなかった。

「もっと周りを頼るべきだよ」

「!」

「ボクだってジェシカを守りたいんだ」

ジェシカの力が抜け、その場に泣き崩れた。
ジェシカは、誰も信じられなくなっていたことに今気づいた。ライルにさえ、一線を引いていた。
いつも強くて、いいお姉ちゃんでいなきゃ…と。

頼るのが恐かった。誰かを信じるのも…恐かった。

ライルはこんなに自分のことを考えてくれていると思うと、それだけでジェシカの涙は止まらなかった。

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あきゅろす。
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