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shooting star
Gratitude



ジェシカはバックをロッカーに突っ込んだ。

「全然違うわ」

「…ウワサすごいよ。昔から付き合ってるとか、色目使ったとか」

ジェシカがため息。

「…人並み以上にモテる24歳が、私みたいなただの大学生を相手にすると思う?」

「…ジェシカならあり得ると思う…」

ジェシカは教科書を持って、あきれながらも講義を受けに教室へ。

「…だったら…」

「?」

ナディアはジェシカを追いかけるように小走り。

「…あの人には悪いけど、そういうことにさせてもらうわ」

「え…?」

「そうすれば、私によってくるような男もいなくなるし」

ジェシカが教室に入ると、ちょっとザワつく。
ナディアと並んで座ると、何人かの女子が話しかけてきた。

「ジェシカ〜、あのラバーと付き合ってるって本当?」

「ん〜…秘密」

ジェシカは不適な笑いで、知りたくてたまらないという表情の女子達をジラす。

「秘密にするって…決めたの」

女子のキャーキャー騒ぐ声に教室中がざわめいた。

ジェシカは、こんなことを勝手に言ってしまい、なんとなくラバーに罪悪感があった。
しかし、モテるラバーはそんな小さなこと気にしないと思った。









バーで生活して何日かが過ぎた。母から連絡がないのでジェシカとライルはまだ帰れないでいた。

ジェシカの仕事中、ライルはスタッフルームでテレビを見ていた。


「ジェシカ〜ビール追加」

「は〜い」

今日はものすごく忙しかった。
ほぼ満席。常連客のオジサン達もブースターが勝ったらしく、盛り上がっていた。


そんな中、カランカランとドアが開く音がした。

「…ごめんなさい。今…」

近くにいたジェシカが、カウンターしかないと言おうとしたが、来た人を見てやめた。
帽子をかぶったラバーだ。

「どうして…?」

「来週、来てって言ったのはジェシカだろ?」

「あ…」

確かに言ったが、今日は別の州での試合があったはず。
来るなんて思ってなかった。
たまたま来ていた女性客がラバーに気づき始めた。

「あれって…」

ラバーの長身はかなり目立つ。
ジェシカはバレないように急いだ。

「お金は用意してあるけど、今忙しいから仕事終わってからでいい?」

「わかった。ライルは?」

「え…?」

「ライルから聞いた。ココにいるんだろ?」

「あ…裏に」

「了解。近くで時間つぶして待ってる」

ラバーはそのまま一旦バーを出ていった。





「ライル、テレビおもしろい?」

忘れ物を取りにきたスタッフがライルに話しかけると、ライルは笑った。

「うん」

「そう…よかった」

スタッフがいなくなると、またボーッとテレビを見る。
ブースターの試合が終わってからヒマだった。

するとライルの携帯が鳴る。ライルは画面に出た名前にはしゃぎながら電話に出る。

「シド!?」

いつの間にか、ファーストネームで呼び合う仲に。

『ライル、メールくれたのに返信しなくて悪かった』

「そんなのいいよ。今日も大活躍だったね!シドが活躍してくれるのが一番嬉しい」

『…今どこにいると思う?』

「…?試合あったから…」

ライルが考えて答えようとすると、先にラバーが言った。

『裏口から出て来いよ』

「え…?」

『ジェシカには怒られそうだけどな…遊ばないか?』

「!」

ライルは電話を切ると、急いで義足をつけて、裏口のドアを開けた。
すると、階段の下にラバーがいた。

「シド!」

笑顔で走るライルを、笑顔で迎えるラバー。

「転ぶぞ」

「平気…ほらね」

階段を降りて、転ばなかったことを自慢気にアピールするライル。
まだ慣れない義足は歩きづらい。

「…近くに小さなコートがある。行かないか?」

「いいの!?あ…でも…」

ライルがジェシカのことを気にする。
ラバーはそれに気づいて、ライルの頭をなでる。

「ジェシカには、後でオレがちゃんと説明する」

「!」

ライルの笑顔がキラキラ光る。








「お疲れ、ジェシカ」

スタッフ達が帰る中、ジェシカは後始末。

「お疲れさま。また明日」

ふと携帯を見ると、ライルからメールがきていた。

〔シドと出かけてきます。心配しないで〕

ジェシカはメールを見て表に飛び出した。もう夜中の2時だ。

すると、目の前の駐車場に車を停めていたラバーが静かにするようにジェスチャー。

「?」

ジェシカが静かに近づくと、車の中でライルが寝ていた。
すごく楽しそうに笑いをうかべながら。

「ごめん…ヒマそうだから、少しだけ遊んでた。11時には寝たと思うけど…」

最近色々あったので、ライルが心から穏やかに寝ていて、ジェシカはホッとした。

「謝らないで。ライル、すごく楽しかったのね…お礼を言いたいくらい。ありがとう」

ジェシカは思わず涙が流れて、慌ててぬぐった。

「…ごめん。すぐ運ぶわ」

ジェシカが車から降ろそうとすると、ラバーが腕をつかんで止めた。

「いや、せっかく寝てるんだ。毛布持ってきて…シート倒せば広くなるから」

「でも…明日とか…忙しいんじゃ…」

「明日は午後から」

ジェシカは、このまま甘えていいのか迷っていた。
ラバーに腕をつかまれて、拒絶するほどの嫌悪感はもうなかった。

「今日は祝杯まだなんだ…付き合ってよ」

ジェシカは毛布をライルにかけて、ラバーとバーに戻った。





「…これ…」

ラバーにチケット代の入った封筒を差し出す。

「…あぁ」

「ファンの人に聞いたから…金額は合ってると思うけど」

ラバーが中身を見て笑った。

「多すぎ」

「え?」

「関係者は、安く手に入るから」

そう言ってラバーは3000ドルを返した。

「でも…」

「ジェシカは強情だな。プレゼントするって言ったのに」

「…もらう理由がないわ」

とりあえず、返されたお金を受け取るジェシカ。
ラバーはジェシカを見て微笑む。

「オレもプレゼントのつもりだったしな…よし!」

ジェシカがラバーにビールを出す。

「このお金、このバーでの飲み代にする」

「!」

「ジェシカに…会いに来る」

ラバーがビールを手に、見つめてくる。真剣な眼差しに、ドキッとした。

「ジェシカも…飲もう」





カウンター越しじゃなく、隣に座ってラバーと飲んだ。

「ジェシカは酒強いな」

「そう?」

クスクス笑うジェシカ。飲んだのは久しぶりだった。


「…バスケット、楽しい?」

「もちろん」

「ライルも同じこと言うわ」

ジェシカがビールの3杯目を作りに行く。

「…オレは…気づいたら孤児で…」

「!」

「誰かに存在を認めてほしかったんだ」

ラバーの分もビールを持って行く。

「バスケだけはうまくてさ…みんなの視線が集中するのが…快感だった」

ジェシカはラバーの隣に座って話を聞いた。

「…自分を認めてくれたのがバスケだった」

「………。」

楽しそうに話していたラバーの表情が曇る。

「…でも、世界が急に広くなりすぎた」

「?」

「プロになって…酒も女も車もほしいときに手に入った」

ジェシカはビールを少しずつ飲んだ。

「それから…何を言っても…しても許されると思ってた」

ラバーはビールを一気に飲み干す。

「だから思い通りにならなかったジェシカ…君に興味を持った」

「!」

「プレゼントも…何一つほしがらない…」

ラバーがジェシカの手をつかみ、目を見つめた。
ジェシカが恥ずかしがってうつむくと…

「ジェシカ…」

ラバーの手が顔に伸びてくる。ジェシカがぴくっと反応して、顔を上げるとラバーと再び目が合った。
真っ赤な顔をしたジェシカは、ラバーの視線にしばられたように動けなくなった。

「……っ嫌…」

「!」

唇が近づいて、かすかに触れると、ジェシカがラバーを突き放す。

「ごめんなさ…」

ジェシカの手が震えた。
ジェシカがポロポロ泣くので、ラバーは手を離してジェシカから離れた。

窓際で静かに飲む。






「…きっと…あなたはいい人なんだと思う…ライルにもすごくよくしてくれてるし…」

ジェシカがカクテルをラバーに持っていき、向かいに座る。

「でも…前に…ね、優しいと思ってた人に…ちょっと…」

ジェシカが震えながらも話そうとすると、ラバーが止めた。

「ジェシカ、いいよ。無理するな…」

「でも…今あなたを傷つけた」

ジェシカが泣きそうになると、ラバーが言った。

「傷つけたのはオレだよ。勝手に思い上がって、強引に…」

ラバーはジェシカと目を合わせないように、外を見て苦笑い。

「…それなのにジェシカは優しいな」

「そんな…全然…」

「さすがライルのお姉ちゃん」

「!」

ラバーがジェシカを見て笑った。

「ライルがあんなに真っすぐに育ったわけだ」



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