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shooting star
Game




「チケットを拝見します」

「はい」

…結局2人はラバーの招待してくれた試合に行くことに。
ジェシカがチケットを出すと、ライルが聞いた。

「車イスで入れますか?」

「そうですね…」

チケットを確認していた女の人が少し慌ただしく動く。

「ザック!」

会場のスタッフを呼ぶ。
2人のもとに大柄な男、ザックが来た。2人は耳打ちで話す。

「シドの客よ。案内して」

「…了解しました。こちらへ」

「?」

わけもわからず、ジェシカはライルの車イスを押して、ザックの後ろをついていく。
ライルは会場の雰囲気だけで楽しいみたいで、楽しそうにしている。

「ジェシカ…すごいな」

「そうね…」

廊下を奥まで歩くと、ザックがドアを開けた。

「こちらです」

「!」

ジェシカもライルも驚いた。
ジェシカは見たこともない世界。ライルは夢にまで見た世界。

「どうぞ」

固まっていると、ザックが先導してくれる後を歩く。

「すっげぇ!カーターにワイズにルークまでいる!」

間近でスター選手を見れて、かなり興奮気味のライル。
ジェシカは、明らかに関係者ゾーンを自分達が通っていることに困惑していた。
今は試合前の練習中。

「キャー!ラバー!」

「しっかりやれよ!」

ファン達からは、熱い声援が飛びかう。

「あ、ラバーだ」

ライルが言うのでジェシカが見たら、確かにラバーがいた。
太ももの半分くらいまでの低いフェンスの向こうで、ラバーは練習に打ち込む。

今までバスケットを見たことがなかっただけに、ジェシカはラバーのしなやかさに見とれた。
真剣にバスケットに打ち込む姿は確かにかっこよく、みんなが騒ぐのも少しわかった。

すると、ラバーがこっちに気づいた。
ライルが手を振ると、こっちに来た。

「ライル、よく来たな」

握手をすると、ライルは上機嫌。

「ラバー、ありがとう。頑張って!」

こんなに嬉しそうなライルは見たことがないジェシカ。
ラバーと目は合わせなかったが、

「…招待してくれてありがとう」

お礼は言った。
感謝しなきゃないのは頭ではわかっているが、ジェシカはラバーが怖くてたまらない。

「…来てくれてよかった。おわびのつもり…って言ったらおかしいけど、チケット…おごりだから楽しんで」

「え…?」

「…じゃ、行かないと。今日は2人のために勝ってみせるよ」

「ちょ…!?」

「ラバー最高!」

ジェシカは約束が違うと言いたかった。自分の分はお金を払う約束だったはず。
しかも、それから案内された席は最前列のほぼ真ん中。

「ジェシカ、すごいよ!」

ライルは興奮しっぱなし。
ジェシカは、周りからの少し冷ややかな視線に戸惑っていた。

「ラバーの関係者?」

ひそひそ話す声も少し聞こえた。

「見たことない顔…」

「きっとラバーは優しいから…障害者も招待してあげたのよ」

「!」

これにはジェシカも頭にきたが、ライルはまったく気にならないほど楽しんでいたので、ほうっておくことにした。










「見た?あのカーターのリバウンドからの速攻!」

試合も終わり、帰る車の中でライルは興奮したままずっと試合の話をしていた。
ジェシカは嬉しそうにそれを聞いていた。

「確かにすごかったわ」

「ラバーなんか最高だろ?ディフェンスとオフェンスのバランス!ラバー以上はいないよ」

「!」

はしゃぐライルにジェシカは戸惑った。

「そう…ね」

確かに感謝しなければないが、どこかでそれを拒む自分がいた。
ジェシカにとって思い出したくない記憶を思い出させられたラバーとの夜。

「ジェシカ…やっぱり変だ」

浮かない顔をするジェシカにライルが言った。

「ラバーと…何かあった?チケットもあんないい席…」

「……何もないわ。ただ…今まで見たことのない世界で頭がついていけてないだけよ」

ジェシカは試合を思い出すと、楽しくて初めての世界にドキドキした感情を思い出し、ラバーをかっこいいと思ってしまいそうだった。
チアのコや、ファンのコみたいに。

「ジェシカはおかしい」

「おかしい?」

「もっと簡単に考えればいいのに。楽しいことは楽しい!」

「!」

「試合中、ジェシカ楽しそうだったよ?」

ライルが笑うので、つられて笑った。

「そうね…」

ライルの頭を撫でてくしゃくしゃにするジェシカ。









「ジェシカ…どうしたの?」

大学の講義が終わり、帰ろうとしていると、ナディアが話しかけてきた。
ナディアは背が高くて、体型はモデルのよう。

「何が?」

ジェシカが聞き返すと、ナディアは心配そうに言った。

「元気なさすぎ〜!バスケ見に行ってから!」

「そう見える?」

「見える!何かあった?」

「……あのね…」

ジェシカが落ち込みながら、ラバーとのことと…チケット代のことを相談しようとすると…

「ジェシカ!」

見知らぬ男に呼び止められる。
振り返ると、同じ学年だけどよく知らない男がいた。

「何?」

ジェシカが見つめながら言うと、男は目が泳ぐ。

「…あの…オレと付き合って…」

「嫌」

ジェシカは即答して、また歩いた。
聞こえたみんなは、日常の光景だとスルーしていた。

「ジェシカも悪気はないからさ」

ナディアはフラれて動けない男の肩を優しくたたく。



「ジェシカ〜」

先に行ってしまったジェシカを、ナディアが走って追いかけてきた。

「冷たすぎだよ。ちょっとかわいそう」

「わかってるけど…優しくする理由なんかないもん」

「ジェシカは本当に男嫌いだね〜。高校で何かあった?」

「!」

ナディアのするどい指摘に、ジェシカの足が止まる。
すると、大学前の通りに人だかりが。ざわざわしているので、ナディアがジャンプしてのぞきに言った。

「何〜?」

ジェシカはゆっくり歩いた。誰かに何かあったような雰囲気。
わぁっ…と歓声。何があったのかジェシカが困惑していると、

「ジェジェ…ジェシカ!」

ナディアが人混みの中心から戻ってきた。

「どうかした?」

「来て!」

すると、ジェシカの手を引いてまた人混みの中へ。

「ナディア…痛い」

手をがっちりつかまれているので、少し痛かった。

「!」

人混みの中心に来ると、ナディアが足を止めた。

「連れてきました!」

ナディアがいつもよりテンションも声も高めに話していた。
前に誰かいるのかとのぞき込む。

「ジェシカ…」

「あ…」

ラバーが愛車のハマーでお迎えに来ていた。
ジェシカの名前をラバーが呼ぶと、周りからの反応は様々。

「迎えに来た。デートしよう」

「!」

ジェシカが驚く以上に、周りが驚く。

「何でジェシカ?」

「ずる〜い!」

ジェシカは、人が多いことにも戸惑う。
ラバーは笑顔で返事を待つ。

「………。」

ジェシカも即答で断らなかった。
そのことに大学の人達は驚いた。さすがにラバーだから迷っているんだとみんな思っていた。

「バイト…あるから」

そう思われたくなくて、ラバーに言うと、

「送ってくよ」

あっさり言われた。
2人きりにはなりたくないが、この囲まれた状況も嫌だ。

「…わかりました。行きます」

「ホント!?」

ジェシカがデートにOKを出したと、みんなが騒ぐ。

明日、大学に来たくなくなったジェシカ。今日のことを聞かれるに決まってる。







「………。」

ラバーの車はさすが高級車。乗り心地がいい。

「…試合楽しかった?」

「あ…はい」

「そっか…つまんないって言われたらどーしよーかと思ってた…」

「…ルールとかはわからないけど…結構激しいスポーツなんだな…って思った」

ジェシカはまっすぐ正面の道路を見ながら話す。
ラバーは、時々ジェシカを見ていた。

「よかった…あれでバスケ嫌いになったらオレのせいだしな」

すると、ジェシカがハッと思い出したようにラバーの方を見たので、ラバーと一瞬目が合う。
ラバーがそらした。

「あ、チケット!あんないい席の…」

「あぁ…あれは…」

「あんなの受け取れない」

「いいんだ。ライルのことを知って、会って友達になったんだ。あれは友達への招待」

信号でラバーが停まると、ラバーがこっちを見て笑った。
今度はジェシカが視線をそらす。

「…でも、私のは…お金払うから」

「いいって」

「ダメ!」

ジェシカが叫んだ。
信号が青になり走りだす車。

「…受け取ったら…あの夜のことを許さなきゃない」

「!」

「それだけは…できない」

ジェシカの手が震える。
ラバーはそれを見て、自分のしたことを後悔した。



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あきゅろす。
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