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shooting star
Fear




「ちゃんと歩いて」

「歩いてるって」

バーの戸締まりをしてラバーと裏口から出た。
階段はさすがにジェシカも支えるのに苦労した。


「ベルトして」

ジェシカの車に乗せた。
結局、送って行くハメに。





「ジェシカ〜ありがとう」

「何が?」

車を走らせるジェシカに、ラバーは楽しそうに話しかけた。

「送ってくれて。お礼しないと。ブランド物?ネックレス?」

「…そんな高いのいらないわ」

「…え?」

ラバーは今まで贈り物を断られたことがなかった。

「あ…でも…」

「何?何?」

ジェシカが何かを言おうとすると、ラバーは興味津々。

「…試合の…チケット…とか」

「は?」

「無理にとは言わないけど…ダメ?」

「バスケに興味持った?」

嬉しそうに言うラバーは子どもみたいでかわいい。
信号で車が停まる。

「弟がすごく見たがってて…」

「弟?」

「そう。連れて行ってあげたいんだけどチケットの買い方もわからないし、時間もなくて…」

「全然いいよ。2枚?」

「うん。一番安い席でいいから」

「了解」

「ありがとう。私の分はお金払うから、弟の分だけでいいから」

間もなく信号が変わりそうだ。

「弟はあなたの大ファンで、いつも話を聞かされるわ。あなたの招待だったらきっと喜ぶわ」

「!」

ラバーは自分に向けられたジェシカの笑顔に見とれた。
ジェシカは嬉しそうに車を走らせる。ラバーを案外いい人だと見直していた。

「…ジェシカの弟は愛されてるな」

「!」

ラバーが窓の外を見ながら言った。声に力はなかった。







「…着いたと思うけど…ここ?」

ジェシカが寝かけているラバーを揺り起こす。
大きな一軒家の門の前まで来た。

「んー…?うん…」

ラバーは眠そうにしながら、門をボタンで開けた。




「…起きて。着いたから」

「あぁ…」

降りようとしたラバーはベルトもうまく外せない。

「もー…」

ジェシカは車のエンジンを止めて、ラバーのベルトを外して、助手席へ。

「ほら、家だから」

「本当だ〜」

ラバーを支えて歩く。

「…飲みなれてるくせに…何でつぶれてんのよ」

「え〜?」

ラバーは楽しそうにヘラヘラ笑っている。
ジェシカはあきれながらも玄関の前まで支えて歩いた。

「鍵は?」

「内ポケット」

「………。」

「なはっ…くすぐったい」

ジェシカはポケットをさぐって、鍵を取り玄関ドアを開けた。

「…あと歩ける?」

「あぁ、大丈夫」

ラバーはそう言うが、玄関に座り込む。
ジェシカは葛藤(かっとう)していた。

「……っ…!」






迷ったが、放っておけずに結局ラバーを運ぶことに。

「寝室は?」

「あっち〜」

ラバーが指差す方へ連れていく。
ドアを開けるとベッドが見え、ジェシカはもう少しだ…とホッとしながら歩くと、

「きゃ…っ!?」

ラバーが急に重くなり、よろけた。
倒れた先は、ラバーの広いベッドだった。

「…った…」

起き上がろうとしたジェシカだが、ラバーが上に乗っかり重くて動けない。

「どいて…」

ジェシカは声が震えた。
ラバーは顔をあげてニッと笑うと、

「…っや!」

あっという間にジェシカを組み敷く。
身動きがとれず、腕も押さえつけられた。

「やめて…お願い…」

ジェシカは心から頼んだが、ラバーには届かなかった。

「まさか…少しは期待してたんだろ?」

「…違っ…」

「スターとの一夜をさ…」

「!」

襲いかかるラバーにジェシカはただ怯えた。
酔っていても、スポーツマンのラバーに力ではかなわなかった。









「………!」

夜中、目を覚ましたジェシカ。裸だ。隣に眠るラバーに、体が震えた。

何をされたか思い出すと、恐怖で体が思うように動かないが、着ていた服を静かに集めて着ようとする。

「……っ…」

ベッドの上で泣きながら、音を立てないように服を着る。

「ジェシカ…?」

「!」

目を覚ましたラバーに腕をつかまれた。

「もう…帰るの?」

ラバーが起き上がると、ジェシカは尋常(じんじょう)じゃないくらい怯えた。

「嫌ぁぁっ…!」

ベッドから降りて小さく丸まる。体が見た目にもわかるほど震えた。

「嫌…お願い…なんでもする…から…もうやめて…っ」

「ジェシカ?」

涙をうかべて、腕をつかむラバーの手をつかむ。

「お願い…お願い…っ」

ラバーが手を放すと、ジェシカは這(は)うようにフラつきながら、ラバーの家を出ていく。

「………。」

半分酔ったフリをしていただけのラバーは、ジェシカの怯えた様子にすっかり目が覚めた。

ふと近くにあった携帯を見ると、カーターとスミスからメールが来ていた。
どちらも、ジェシカとどうなったか練習で教えろよ〜というもの。

ラバーは、ジェシカの態度が気になり困惑した。









「ライル、今日はまだ姉ちゃん来ないのか?」

夕方になって、バスケットをしていたメンバー達は次々帰って行く。

「うん…ジェシカ、頭いいからな。きっと勉強してるんだ」

ライルが笑う。

「スコール、迎え来たんだろ?またな」

「…おう!」

ちょっと心配そうなスコールだったが、ライルが笑っているので帰った。

「ジェシカ…今日、元気なかったな…」

ライルが心配しながらもボールで遊ぶ。
ライルは片足が義足のため、車イスでバスケットをしているが、全く歩けないわけではなく、そのためにリハビリをしていた。
立ち上がり、ドリブルをする。

「…君がライル?ライル・カーティス?」

「?」

声をかけられて、振り返ったライル。

「…あ……!」

驚きすぎて、ライルが言葉を失った。









「ライル!ごめんね…」

ジェシカが走りながら大きな声で言うと、ライルは嬉しそうに手を振る。
怒ってなくてホッとしていると、もう1人いるのに気づいた。
ジェシカの足が止まる。

「ジェシカ!すごい…夢みたいだ!」

ライルが嬉しそうにはしゃぐ横で男が振り返る。
帽子にサングラスだが、誰かはすぐわかった。

「ラバーが…ボクにバスケット見せてくれて…」

嬉しそうに話すライルの言葉は、ジェシカの耳に入らない。

「…ライル!帰るのよ!」

ライルにすぐ来るようにジェシカが言うと、

「え?嫌だよ…ラバーともっといたい」

ライルがだだをこねた。
すると、ラバーに対する恐怖からジェシカが怒鳴る。

「勝手にしなさい!」

ジェシカがライルを置いて行こうとすると、ライルは車イスで追いかけた。

「待って!ジェシカ!」

背中を向けて歩いていたジェシカに昔の記憶がよみがえった。

ライルの事故は、3年前…自分が遊びたくて追いかけるライルを置き去りにして起こった。

ジェシカの足が止まり、その場で泣き崩れた。

「泣かないでジェシカ…」

ライルがそばに来る。
ジェシカはライルを抱きしめた。

「ライル…」

「ごめん。ボクが悪かった」

ライルは優しいコだ。ジェシカがあたり散らしても、優しく受け止めてくれた。
事故も一度も責めなかった。

「あなたは悪くないわ…ごめん……っ…」

泣きじゃくるジェシカに、ライルが言った。

「ジェシカ、すぐ行くけどラバーにお礼だけ言ってくる。遊んでもらったのに、黙って帰っちゃ悪いコだろ?」

ライルが笑って言うと、ジェシカはうなずいて車へ歩いた。



「ラバー、ごめん。帰らなきゃ…ありがとう。楽しかった!また来てくれる?」

ライルが言うと、ラバーはボールを手に持ち笑った。

「あぁ、オレも楽しかった。ライル」

手を差し出したラバー。2人は握手をする。

「…お姉ちゃん、どうしたんだ?」

ラバーが聞くと、ライルの表情が曇る。
心配そうにジェシカの車を見つめる。

「3年前みたいだ…」

「3年前?」

「ジェシカ…元彼にヒドいことされたみたいで…」

「え…?」

「詳しくは知らないんだ…誰も教えてくれないし」

ライルは、再びラバーを見て笑った。

「ジェシカ待ってるから、行くね」

車イスをこぐライルをラバーが呼び止めた。

「ライル!」

「!」

振り返ったライルにボールが飛んできた。
ボールにはラバーのサインと、封筒が。ライルが開けると、中には来週の地元開催のブースターのチケット。

「すげぇ!」

ライルが喜ぶと、ラバーも笑った。

「友達になったから、見に来てくれ。それと…」







「…ジェシカ」

ライルがノックをしたので、車で頭をかかえていたジェシカは起き上がり、ドアを開けた。

「…ごめんね。ライル」

ジェシカは車を降りて、ライルの車イスをトランクに入れて運転席に戻る。

「気にしないよ。ボクはジェシカが大好きだから」

「!」

笑顔で言うライルをジェシカは抱きしめた。

「あ…ラバーが試合のチケットくれたんだ」

「!」

「…連れてってくれる?」

ジェシカは迷った。ラバーには会いたくない。

「それとラバーが…ごめん…だって」

「え…!?」

ジェシカが驚くと、ライルがのぞき込む。

「知り合いなの?」

「そんなわけ…!」

ライルにまた怒鳴りそうになりやめた。

「…バーに来ただけよ。試合…行きたい?」

「もちろん」

ライルのキラキラ笑顔に迷うジェシカ。
ジェシカ自身、ずっとライルを連れて行きたかった。


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