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shooting star
Sick



「へぇ…いい女になったな」

ジェシカは震えて振り返ることすらできなかった。

「今からでも…オレの女にならない?」

髪を触られて、鳥肌が立ったジェシカは、

「触らないで…っ!近づいたら…大声出すわ」

触っていた腕を振り払って、距離をとった。

「つれないなぁ…」

振り払われた手を見て不気味に笑う…ウィルと。

振り払ったはずみでリンゴを落とすと、ウィルが拾って差し出す。

「…いらない…」

ジェシカがガタガタ震えると、ウィルはリンゴを丸かじり。

「一度はホレた男なのに…ヒドい扱いだな」

「…用がないなら…私は帰るわ…」

ジェシカが車に乗ろうとすると、ドアを押さえられて開かなかった。

「!」

ジェシカが驚くと、ウィルが近づいて小さな声で言った。

「お前のおかげで、しばらく豪遊できるよ…」

「!?」

「あのDVD…売ったりしなくてよかったよ…ジェシカなら必ず大物をつかまえると思ってた」

ジェシカは意味がわからず、震えながらもウィルをにらむ。

「…知らないのか?」

「…何の話?手…どけて。車に乗れないわ」

ウィルは鼻で笑った。

「ハッ…傑作だ。50万ドルも出したのにな。別れたって噂は本当か」

「!」

「お前のDVD…高く買ってくれるやつが現れて、感謝してるよ」

そのまま立ち去ろうとするウィル。

「…誰の…!…こと?」

ジェシカは振り返らないことを願って聞いた。

「…シド・ラバーだよ」

「!」

ジェシカは驚きのあまり、腰が抜けたように崩れた。
ウィルは高い声で笑いながら去った。

ジェシカは頭が混乱した。
あのDVDをラバーが全部買い取った…ジェシカには到底用意できない金額で。

何のために?いつウィルから買ったのか?

ジェシカの頭の中で、答えのわからない疑問がどんどん湧き出てきた。









「…チケットを」

「あ、はい…」

メガネと髪を束ねて、ジェシカは変装しつつ、一番後ろの席でラバーの試合を見に行った。


「今日もスタメン!?いい加減、監督も見限れよ」

後ろでも、ラバーに対するヤジはひどかった。

「まったくだ…連勝より連敗が多いのは、ラバーの力不足だ」

「………。」

ジェシカが複雑な気持ちでそれを聞いて、ラバーを探すとベンチ近くで準備運動をしていた。
久しぶりの姿にドキッとした。少し…やせた。

いろんな選手に声援が飛ぶが、ラバーにはほとんどない。

試合が始まると、それはすぐにわかった。

前のシーズンのような動きのキレがない。
バスケットに詳しくないジェシカでもそれはわかった。
何かがおかしい。

「何やってんだ!ヘタクソ!」

リバウンドからの速攻で何度も抜かれた。

「あ…」

ジェシカも思わず声が出た。
何度か交代でベンチに戻るたび悔しそうだ。ヤジも飛ぶ。
やめちまえ!出るな!…ジェシカは改めてラバーがいる世界の厳しさを知った。

「……っ…」

ジェシカは涙が流れた。
あんなにバスケットが大好きなラバーが思うようにプレーできずに、どんなに苦しいか考えただけで泣いていた。





「またかよ…これで何連敗だ!?」

試合が終わると、みんなが怒る。
出待ちをしている女の子達も、ラバーをからかうような発言で出てくるのを待っていた。

「ラバー!私がなぐさめてあげるわ〜」









ジェシカは心中が複雑だ。
もう連絡しないと思っていただけに、今の心配な気持ちをどうしたらいいかわからない。

「………。」

かと言って、出待ちをする勇気もない。
きっと誰かがジェシカに気付く。




そのままジェシカは車に戻って考えた。
いつの間にか2時間が経過。

「………。」

ジェシカは思い切ってラバーに電話した。






試合後、1人残って練習をしていたラバー。

今はロッカールームに戻ってきたが、タオルを頭からかぶり、動かなかった。もうみんな帰っていた。
すると、携帯が鳴る。

「!」

最近あまり鳴らない携帯。
ちょっと驚きながらも、ラバーは携帯を取った。

「…!?」

名前を見て混乱した。電話はジェシカから。









『…ジェシカ?』

「あ…」

ジェシカは自分からかけたものの、ラバーが出ると動揺した。

「久しぶり…」

『そうだな…どうかした?なんか嫌なことでもあった?』

「!」

ラバーは今は他人を気遣う余裕なんて絶対ないのに、それでも優しい言葉をかけてくれた。

『…泣いてる?』

その優しさに涙が流れた。

「…っ…平気。ずっと連絡しないで…突然でごめんなさい。迷惑じゃない?」

『…ジェシカの電話は迷惑じゃないよ』

ジェシカが涙をこらえると、ラバーがクスッと笑ってくれた。

「シド…」

『何?』

「大丈夫?」

『!』

ラバーが少し黙った。

「なんだか…調子良くないって聞いたわ」

『………。』

そしてゆっくり答えた。

『その通りだよ…ふがいない…』

「…シド…」

『だからジェシカ…もう君には会えない…』

「!」

『せめて君の中では、カッコよくて自信に満ちたオレでいたいんだ』

「シ…」

『弱いとこは…見られたくない』

「!」

『だから…ごめん。君をちゃんと守れないのに…そばにはいられない』

「待っ…」

『熱愛報道のときも…君を苦しめた。ごめん』

そして、最後の一言でジェシカは目の前が真っ白になるほど、ショックを受けた。

『…さよなら、ジェシカ』

「!」

電話が切れた音がすると、ジェシカは電話を持っていられなかった。

「……っ…」

ジェシカはとめどなくあふれる涙をこらえることができなかった。
叫ぶように泣いた。

ラバーのためにも、離れたくて仕方なかったのに、実際にさよならを言われると、想像以上に苦しかった。

「シド…シド…っ…」

色々思い出すと、どれだけラバーが大切な存在になっていたか思い知った。










ジェシカは決めた。
泣くだけ泣いたら、心が決まった。

「ライル、10時までには寝るのよ?」

「うん!ジェシカ、いってらっしゃい」

ライルが嬉しそうに手を振る。
ジェシカも笑顔でハグをして家を出た。





そして来たのは…ラバーの家の前。
近くでキョロキョロして、カメラがいないか確認していると、投げ込まれたペットボトルやゴミが入り口の門付近には転がっていた。

「………。」

ジェシカは門を前にもらったカギで開いて閉めてから、車を降りてゴミを拾った。

それからラバーの家に向かう。
ライルに聞いて、2日は移動も試合もないからたぶん家にいるだろう…と判断。

予想は当たったようだ。
リビングに灯りがついている。
ジェシカは深呼吸して呼び鈴を鳴らした。

しかし、何の反応もない。
仕方ないのでドアに手をかけると、カギが開いていた。

「…シド…?」

ジェシカが中に入ると、家の中は静かだった。

「?」

ジェシカが勝手に入っていいのか迷いつつ中に入ると、電気がついていたのはリビングだった。

しかし、ラバーの姿はない。

「?」

リビングのテーブルには、書類が散乱していた。
ジェシカが一枚手に取る。

「………軟骨…骨炎…?」

専門用語らしく、読み取れなかったが、病院の手術の同意書だった。
内容を読むと、どうやら膝(ひざ)の手術らしい。




「ジェシカ…!?」

お風呂をあがったらしいラバーが上半身裸でハーフパンツに肩にタオルの姿でリビングに。

「………。」

「どうして…?」

「ふざけないで!」

ラバーが近づくと、ジェシカは読んでいた同意書をラバーに投げつけた。

「何よコレ…手術って…」

「…あ…」

ラバーは少し動揺したが、すぐに冷静になり、まだサインをしていない同意書を拾った。

「君には関係ない。勝手に見るな」

「!」

冷たいラバーの言葉にジェシカは涙が出た。
でも、引き下がらない。

「…シドは…っ!ずるい…」

「何が?」

背中を向けたまま淡々と話すラバー。

「街で…偶然…ウィルに会ったわ」

「!」

ジェシカの手がかすかに震えた。

「あなたが…DVDを買った…って」

「………。」

「…見たんでしょ?全部…」

ラバーは何も言わない。

「……っ…最低よ…」

ジェシカは泣きながら、ラバーの背中をたたいた。
ラバーは黙ってうつむいていた。

「私は…あなたには絶対知られたくなかった…見られたくなかった!」

「………。」

「それを勝手に見といて…自分の弱いことは少しも見せないなんて…ずるい」

「!」

ラバーが振り返ると、ジェシカは涙で顔が濡れていた。

「私はあなたの重荷になりたくなかった…だから、連絡もとらなかった」

「ジェシカ…」

「でも…声を聞いてわかったの」

ジェシカは震える手でラバーの腕をつかんで言った。

「私はあなたと離れたくない。そばにいて力になりたいの」

「!」

「だって私…」

そこまで言うと、タイミングよく呼び鈴が鳴る。
ハッとしたジェシカが離れてラバーに背中を向けると、ラバーはしつこく鳴る呼び鈴にイラ立ちながら、インターホンを取る。

「誰だ?」

すると、スピーカーから聞こえたのは、女の声。

「ひっどーい!シドが来てって言うから来たのにー」

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