宵闇
妬
「初めまして」
メイが笑うと見とれるグィン。麗蘭が頭をたたく。
「護衛が雇い主の女に見とれてどうする!」
パコッといい音。
麗蘭とグィンはまたにらみ合い。
「も…戻ります?確か家にもお酒はあったし。グィンさんも一緒に…ね?」
メイが言うと、グィンは慌てたように立ち上がる。
「いえ!Kには必要以上にメイ様にはかかわらないように言われていますので」
「当たり前よ〜」
麗蘭が言うと、場の空気がピリピリしている。
「…ちょっと!麗蘭!も〜ごめんなさい」
「いいえ…」
「でも、せっかくだし…ね?これからよろしく…の意味も込めて…」
メイが誘うと、グィンは迷ってるようだ。麗蘭はその様子がおもしろくてささやいた。
「こんなに頼んでるのに断って…後は大丈夫かしら」
グィンは更に迷ったようだ。
しかし、Kの女の頼み…。
「わかりました…ですが、メイ様。Kの許可を取って頂けますか?」
「どうして?」
「私の役目はあくまで護衛。それを越える場合は許可なしには動けません」
「K〜」
嬉しそうに走ってくるスタイルのいい背の高い女。長いパーマの髪は、ふわふわ揺れている。
「久しぶりだな」
そのまま腕にしがみつく女=ステラ・チャン。イギリスとのハーフで、今をときめく映画女優。
「も〜なかなか連絡くれないから、忘れたんだと思ってた」
「…でも、今日来ただろう?」
Kが自信たっぷりに笑うと、ステラはメロメロ。
「もう…ずるい」
「お前の情報網は他にないからな…」
「欲しいのは情報だけなの?」
少しムッとしたステラに、Kはキスをしようとした。
すると、Kの携帯が鳴る。ステラを待たせて少し離れて出た。
「…何だ?」
『あ…メイです』
「どうした?」
Kの顔がわずかにだが緩む。ステラはそれを見逃さなかった。
『…今、ご飯食べて家に戻ったんですけど…置いてあるお酒…少し飲んでいいですか?』
「飲めるのか?」
Kはクスクス笑った。
『一応、18歳です。飲んだことはないけど…麗蘭もいるし…』
「そうだな…好きに飲めばいい。ただし紹興酒には手をつけるなよ」
『どうして?』
「初めてじゃ飲めないさ」
『…はい』
ここでメイが切り出した。
『あの…グィンさんも一緒に飲んでいいですか?』
「何?」
Kの口調が少し変わった。
「ダメだ。あいつは護衛としてはプロだが、酒に弱い」
『でも…せっかく外に付き合ってくれたし…そのお礼に…』
「女癖も悪い…ダメだ。早く追い出せ」
『ちょっとくらい…』
黙り込むメイ。ちょっとスネていた。
すると、ステラがちょっと大きな声で言った。
「K〜先に部屋に行ってるから」
「わかった」
『!』
ステラの声は電話越しにメイにも聞こえた。
メイは胸がきゅっと苦しくなり、また気分がもやもや。
『また…別の人…』
「え…?」
メイがボソッと言ったのでKには聞こえなかったようだ。
『なんでもありません…切ります…』
メイの声に力がなくなる。
「グィンはダメだからな」
『…やだ。一緒に飲むもん』
スネたメイはわがままを言った。
「ダメだ。命令だ」
『いいもん。いいって言われたって言うから』
めずらしくメイが従わない。Kはちょっとイラついていた。
「つまらないことで困らせるな!」
『!』
Kが怒り気味に言った。
メイはなんだか泣きそうになったが、今日は負けなかった。
『Kさんだって…!』
メイは胸が苦しくなり、言葉につまる。
Kはエレベーターに乗り込み、ステラの待つ部屋へ。
「…なんだ?」
『なんでもないです…』
「言いたいことがあるなら言え」
Kがちょっとめんどくさそう。
メイは、そう思われているのがわかっているが言った。
『シンのそばには…いつも色々な女の人がいる…』
「!」
『私なんか…必要ですか?』
メイが言うのと同時に、エレベーター到着。
扉が開くと、ステラが飛び込んでくる。
「K〜」
「!」
Kが携帯を落とす。
メイは電話を切った。ステラの嬉しそうな声を聞くのがつらかった。
すでに飲み初めようとしている麗蘭とグィン。
振り返って2人のもとへ。
「どーだった?」
「いいって」
「Kが?」
「うん。紹興酒?はやめといた方がいいって」
「じゃーさ、ワイン飲んでみよーよ」
盛り上がる2人にグィンはちょっと不安を感じながらも、付き合い程度に軽く飲むことに。
「あんた、大人なんだから、色々教えなさいよ」
相変わらず、麗蘭とグィンはケンカ腰。
「…っK!」
ベットでイチャつく2人。ステラが一旦止める。
「急がないで…満足させてくれるんでしょ?」
「…うるさい。急いだって…満足させてやる」
「あ…」
Kは、またベットがきしむほどに激しく動いた。
「………。」
翌朝。早くに戻ってきたK。
昨日はメイにかけなおしても電話に出なかった。
不安になったKはまっすぐに帰ってきた。
「メイ?」
鍵を開けて中に入ると、テラスへと出る窓が開いていた。
テラスに人影が見えたが、麗蘭が寝ていた。
風になびくカーテンを押さえて振り返ると…ソファーに寝るメイ。
「!」
メイの他にKの目に飛び込んで来たのは、グィンだ。
メイは座ったまま寝るグィンの肩に寄り添うように寝ていた。
カチャ…という聞き慣れた音を聞いたグィンが目を覚ます。
「…K!」
Kは銃口をグィンに向けたまま、声を出すなと合図し、外へと誘導しようとした。
グィンはメイが倒れないように、そっと肩を抜いた。
2人で出ようとすると、
「…K…さん?」
メイが目を覚ます。ぼーっとしていたが、足音はわかった。
「メイ様…」
目をこするようにしながら立ち上がると、なんだかKの雰囲気が違う。
無言のまま出て行こうとするKに、メイはなんとなく嫌な予感がした。
「…待って!グィンさんは悪くないから」
私は慌ててKを引き止めるため、後ろから抱きついた。
「職務を越えることはできないって言ったのに、無理やり引き止めたの」
「………。」
「悪いの私だから…グィンさんは怒らないで…ね?」
メイが必死に訴えると、Kの怒りも少しはおさまったようだ。銃を下ろす。
「…メイの友達を送って行け」
Kが言うとグィンはすぐに麗蘭を起こしに。起きないと、背中におぶった。
2人が出ていくとKはメイの手を引いて、自分の部屋へ。
「…Kさ…っ!」
ベットに座らされ、押し倒されてKの気配を上から感じる。
「…何で言う通りにしなかった?」
「…ごめんなさい」
謝って顔を背けると、Kが両手首を抑えた。
「謝罪はいい。理由を言え」
メイには、Kの口調が冷たく…怒っているのがわかった。
Kの顔も近い。
「…だって…嫌だった…」
「何が?」
「シンのそばに女の人がいるのが…」
「!」
シンが手首を放すと、メイはうつぶせになり、枕で顔を隠す。
「携帯なんかもらわなきゃよかった」
「?」
「シンが誰といるかなんて知りたくない」
Kの下で小さく丸まるメイ。
「…だって…そのこと考えると…なんか苦しい…」
枕から少しだけ顔を出して、胸を押さえながら聞いた。
「…きゅっておかしいの。私…病気ですか?」
Kはそれを聞いて笑った。
「はははっ」
笑われたことで、メイは余計に恥ずかしくなってまた枕で顔を隠す。
すると、Kが言った。
「メイ…」
穏やかで優しい声。
「メイ…隠れないで」
髪を先まで撫でられる。そして、先をつかんで匂いを嗅がれている。
「やだ…また笑うんですか?」
Kは今までにない喜びで、顔がどうしても緩む。
「笑ったのは…今、嬉しかったから」
「?」
「メイは…確かに病気かもな」
Kがクスッと笑った。
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