宵闇
謝
「…わかった。リックには引き続きその件を調べさせろ」
Kの答えに幹部達がざわつく。
ジェイは今にもキレそうだ。しかし、Kはジェイが何か言う前にマイクを使ってリックに言った。
「しかし、シグの件はどう落とし前をつける?お前は潜入してシグに顔をさらした…もう一度はない」
幹部達の視線が一気にモニターへ。
すると、リックは不気味に笑った。
「K…考えがあります」
会議が終わり、みながそれぞれ出て行く。
その中でジェイがKに食ってかかる。
「K!なぜリックを許した!」
「………。」
「あいつはミスを犯した!許すのか!」
ジェイは机をおもいっきりたたいた。
「落ち着け…ジェイ、お前は冷静に考えられないのか?」
「…考えられるか!」
ジェイは誰より腕っぷしは強いし、カンもいい。
だが、私情をはさみやすい。
「リックはまだ利用できる。仮にも元U(セカンド)の称号を持っていたお前の部下だ」
「だが…あいつは…っ!」
引こうとしないジェイにKは渋々言った。
「…わかった。この件がすべて片付いたら…ジェイ、お前にリックの処遇を一任する」
「!」
その言葉が聞きたかった!と言わんばかりにジェイは喜んだ。
「K、感謝する!」
肩をポンッとたたき嬉しそうに会議室を出ていく後ろ姿に向かってKは言った。
「あくまでもこの件が片付くまでは手を出すな」
ジェイはヒラヒラと手を振り軽快なステップで去っていく。
「…なぜKがあんな男にJ(ジャック)の称号と地位を与えて新界支部をまかせるのか…理解しかねます」
そう言いながら、最後まで残ったクイーン。
クイーン=Q(クイーン)の称号を持つ。
「あいつはあの通り、マフィアのくせに感情を出す人間臭い男だ。そのくせ誰より仲間想いだ…だから、慕ってついていく者も多い」
「K、あなたの補佐なら私一人で充分ですのに」
クイーンは自信たっぷり。
「お前はいつも頼もしいな」
Kはクスクス笑った。
すると、クイーンは持っていた書類を渡す。
「…あなたに頼まれていたものよ」
「…あぁ、悪いな」
「この女…九龍の出身ではありません」
「そうか…」
「K、この女は誰ですか?」
クイーンが聞くと、Kはクスッと笑った。
「…クイーン、いい女は詮索はしないもんだろ」
「…失礼しました」
クイーンは一礼して、会議室を出て行った。
1人になった会議室で書類に目を通す。
書類はメイに関するもの。
出身、生い立ちはなんとなくわかった。
だが、メイを買った男の存在はまだ調査中とのこと。
情報網の広いクイーンで探れない相手…大物だ。
Kは書類を読むと、丸めて灰皿で燃やした。
「…まだかな…」
お腹がきゅるきゅる…と鳴った。帰ると言っていたので夕飯を食べていない。
Kは夕方には帰ると言ったのに、もう8時だ。
メイは、Kがいるはずないと思いながらもKの部屋のドアをノックした。
手にはクマのぬいぐるみ。
「K…さん?」
ドアを開けると、とたんにKがいるんじゃないか…というくらいのKの匂い。
しかし、真っ暗だし人の気配もない。
「遅いな…」
メイはKのベットに倒れ込む。バフッ…とふとんに体が沈む。
Kの匂いに包まれると、まるでここにKがいるみたいで安心した。
「なんで…Kさんってこんなに安心するのかな…」
「…メイ?」
帰ってきたK。メイがリビングにいなくて探した。
与えた部屋にも、テラスにもいない。
お風呂もわかしてあるが空。
まさか出て行ったのでは…と不安になり、Kは自分の部屋に着替えに行こうとすると、
「!」
電気をつけたら、ベットでメイが寝ていた。
すやすやと静かな寝息をたてて寝ているメイを見て、Kはホッとした。
「メイ…」
寝ている横に座って髪をなでる。
結構サラサラの髪。ちゃんと手入れをすればもっとつややかになる。
白いワンピースで白いふとんに寝ているメイは、Kにとって天使のようにさえ思えた。
「…ん…」
夢でも見ているのか、メイはもぞもぞと動いた。
そして、そのまま頭がKのヒザに。
「!」
ちょっと驚いたKだったが、メイが幸せそうに笑っているのでそのまま動かないでいた。
「こんな穏やかな時間…初めてだ」
すると、寝たままメイのお腹が…きゅるる…と鳴る。
静かな部屋に鳴り響き、Kは吹き出しそうなほど笑いそうなのを必死にこらえた。
こんなに笑えるのも初めてな気がした。
Kは笑いがおさまると、携帯を取り出して電話をかけた。
「……ん…?」
ふと、寝ていたことに気づいたメイ。目が覚めると、頭がなぜか温かい。
「…起きたか」
「!」
メイは上からKの声がすると、慌てて起き上がり、ベットに座った。
「あ…ごめんなさい…勝手に…」
勝手に部屋に入って勝手に寝て…しかも、勝手に膝枕までして…メイは恥ずかしくて仕方がない。
顔が真っ赤になる。近くにあったクマのぬいぐるみで顔を隠した。
「いや…気にするな。よく寝れた?」
Kがクスクス笑っている。余計に恥ずかしくなる。
「…はい」
「じゃあ、これからは一緒に寝るか?」
「!」
Kの言葉に驚くメイ。そして、クスッと笑った。
「Kさんも冗談言うんですね」
笑っているメイにKはマジメに言った。
「いや、本気だけど」
「!」
締まった感じのする空気に、メイはまた恥ずかしくなってきた。
「そんなの…想像できない…」
クマのぬいぐるみを抱えて小さく丸まるとKはメイのほほに手を伸ばす。
触れるとビクッとしたメイ。
「メイ、お前はいい女だな」
「…そんな…」
「俺を…怖いと思うか?」
Kが聞くと、メイは首を横に振る。
「…いいえ」
「今は…それだけでいい」
Kは手を首に回してつかんで引き寄せると、おでこがくっついた。
Kの息遣いまで聞こえそうな至近距離に、メイはドキドキして動けなかった。
すると、メイのお腹がきゅるるる…と鳴る。
「!!」
メイはハッとしてお腹をおさえた。恥ずかしい。Kがクスクス笑った。
「寝てるときも鳴ってたぞ」
「本当に!?どうしよう…恥ずかしい…」
恥ずかしがるメイの頭をポンっとたたき、Kが立ち上がった。
「夕飯…できてるから食べよう」
「え?」
「待っててくれたんだろ。ありがとう」
「!」
Kの言葉にメイは喜びを感じた。
ありがとう…あまり言われたことない言葉。
Kは思わず言ったありがとうの言葉。
「メイ…会いたい人はいないのか?」
食事をとりながら、向かいに座るKが言った。
メイは水を飲んでから言った。
「会いたい…?」
「いないのか?男でも、女でも…」
「………。」
黙り込むメイ。
だが、ゆっくり口を開いた。
「…麗蘭」
「麗蘭?」
メイはうなづいた。
「ずっと仲良くしてた友達…」
「そうか…」
「ちゃんと言えなかったことがいっぱい…」
メイの食事の手が止まる。
「さっきKさんに言われて気づいた…もっとありがとうって言っておけばよかった」
メイの目から涙がこぼれる。
「いつも明るく元気づけてくれて…あの家がつらくても…麗蘭がいたから頑張れたのに…」
Kがスッと手を伸ばして、涙をぬぐった。
「あ…ごめんなさい…」
自分の手で涙をぬぐったが、なかなか止まらない。
すると、Kが指先でメイの唇に触れながら言った。
「メイ、キスしていいか?」
「…キス…って…何?」
メイの唇を撫でた。ちょっとくすぐったいメイ。
メイは何も知らない。
「唇を重ねること…」
「!」
メイがちょっとためらう。
Kの唇が重なることを想像しただけで何だかドキドキした。
「それって…恥ずかしいことじゃない?」
メイが聞くと、立ち上がったKの吐息が近い。
「…試してみようか」
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