宵闇
恐
「………イ…?」
遠くで自分の名を呼ぶ声。メイはファイの手が伸びてくる恐怖の中、その声にすがりつくように起きた。
「…嫌っ!」
「!」
ガタガタ震えたまま誰かに抱きつくメイ。Kだ。
Kは優しく抱きしめた。メイも無意識の中でKの香りがするとホッとした。
「………あ…」
メイは意識がハッキリすると、Kから離れた。
「ごめんなさい…」
テレているメイに、Kは車を降りながら言った。
「いや…そのままでもよかったんだが…」
「!」
メイが真っ赤になると、Kはクスクス笑った。
そして、手をつかむ。
「着いたぞ。降りるんだ」
「はい」
メイが降りると近くにいた男が言った。
「ではK様、御用があればお呼びください」
「あぁ…」
メイはKの腕をつかみ、男の声のする方にお辞儀をしながら歩いた。
Kは何者なんだろう?とメイはずっと疑問だったが、聞かないままでいた。
聞いちゃいけない気がしていた。
マンションに帰ってきた。
お昼は外食。マナーを教えてもらいながら食べた。
「もう…夕方だな。お腹空いたか?」
ソファーに座りながらKが聞いた。メイも隣に座った。
「…まだ。お昼がおいしかったので…」
「…だな。俺もだ。誰かとあんなに楽しい食事したのは久しぶりだ」
「!」
メイは楽しいと言ってもらえて嬉しかった。
「でも…メイは食べ方キレイだな」
「え…?」
「教えればすぐ覚える」
「…食べ方は目が見えないことに甘えちゃいけないって…おばさんが…」
話していてメイの表情が暗くなるので、Kは話を変えた。
「メイ…目を開いてみないのか…?」
「!」
驚いたメイは首を横に振る。
「…昔…笑われたことがあって…」
「………。」
「気持ち悪いって…それからは一度も」
すると、Kはメイの顔に手を伸ばす。自分の方に向かせて言った。
「俺は笑わない」
「!」
Kの声があまりにも真剣だったので、メイは戸惑った。
「メイ…見せてくれ」
「でも…」
メイがうつむこうとすると、Kの手にも力が入る。
「お前の素顔が見たい…」
Kの言葉にドキドキした。この人に拒絶されたくない…と不安な思いもあったが、メイはKの言葉に従ってゆっくりと目を開けた。
「!」
Kの反応がない。
「………。」
何も言ってくれないので、メイは不安になった。
一方、Kは目の前のメイの瞳に見とれていた。
下を向いたまま、視線が合うことはないが、色素が薄くグレーがかった瞳。黒髪のせいもあり、よく映(は)える。
「…なんとか言ってください」
不安が頂点に達したメイは、Kに言った。顔が少し熱くなる。
「何も言わないなら笑ってくれた方が…!」
「いや…見とれてた」
「!」
Kの言葉にメイはビックリした。
そしてすぐに目を閉じた。
「か…からかわないでください。どうせ…変だと思ったんでしょ?」
メイが言うとKは優しくほほに当てていた手を髪へとすべらせた。
「…メイ…今後一切、目を開けるな」
「!」
メイは、やっぱり変だったんだ…とちょっと落ち込んだ。
すると、Kが耳元でささやいた。
「…俺の前以外では…だ」
「え…」
「素顔を…他には見せるな。いいな」
Kの甘い声が耳元ですると、メイはそれだけでなんだかクラクラした。
「どうして…?」
「お前の素顔は…俺だけのものだ」
「!」
強く言い切るK。メイはそんなことを面と向かって言われたことがなく、戸惑いながらも胸が高鳴る。
こんな感情をしらないメイは、動揺を隠しきれなかった。
「約束だ…いいな?」
「…はい」
メイは胸のドキドキがおさまらずに、下を向いていた。
「風呂…先に入る」
Kが言った。メイはニコッと笑ってうなずいた。
リビングはKがいなくなり、静かになった。
カーテンを閉めていないことに気づいたメイは、ゆっくりと窓へと歩き、カーテンを閉める。
「麗蘭…」
なんか色々ありすぎて、誰かと話したかった。
そこで一番に思い出したのは麗蘭だった。ちゃんとお別れも言えないままだったのが心残りだ。
「………。」
一方、Kは湯船につかりなんだか浮かない顔。
「……メイ…」
自分の手のひらを見つめて、メイを抱きしめた感触、声…そして瞳を思い出していた。
そして…異様なまでの怯え方も…。
「…ッ…!」
Kはお湯に手をたたきつける。
「…殺してやる…」
メイをあんな怯えるまで暴行した男…見つけたらKは許すつもりなんてなかった。
自分だって…見に覚えがない話ではないのに…。
そんなことは、下のものたちに自由にやらせてきた。
その結果、メイのように興味をそそる女があんなに傷ついた。
この件が片付くまでKはメイには絶対手を出さないつもりでいた。
すると、洗面台に置いていた携帯が鳴る。
「…はい」
Kはお風呂をあがり、携帯を取った。
『K、私よ』
「!」
バタン!とドアが大きく開く音にメイはビックリした。
「悪い…」
Kは謝ったが、なんだかバタバタと急いでいる様子。
「…どこか行くんですか?」
「…あぁ。夕飯は誰かに作らせる」
「あ…大丈夫です。お腹空かないし…ちょっと食べれば…冷蔵庫に色々あるので」
「悪いな」
「全然。いつ戻りますか?」
服を着て玄関へと急ぐKをメイは追いかけながら言った。
すると、靴を履いたKは振り返って言った。
「…明日の…夕方以降だな。それまで大丈夫か?」
「はい…買い物はいっぱいしてきたし」
メイは笑ってKに言った。
「いってらっしゃい」
メイが言うとKがメイの頭を撫でた。
そして手に何かを乗せられた。
「…メイ、これを受け取れ」
「?」
四角いものを触ったが、メイには何かわからなかった。
「これは…?」
「携帯だ」
Kがメイの手をつかみ、ボタンを押す。
「ココを押せば俺につながるようにしてある…」
「…はい」
「鳴ったら、ココを押せば話ができる」
簡単に説明をすると、Kは足早に出ていく。
「何かあれば電話しろ。いいな?」
「はい…あ…!」
そのまま出て行こうとするKの手をつかんだ。
「何だ?」
「…必ず帰ってきてください。いってらっしゃいって言われたらただいま言わなきゃないんですからね」
「…メイ…」
メイはKの焦りが不安だった。なんだか不思議と嫌な予感がした。
急がなきゃいけないのはわかっていたが、引き止めた。
すると、Kはメイの手を上から握った。
「…必ず帰ってくる。待っててくれるか?」
「!」
メイが手を離した。笑顔だ。
「はい…!気をつけて…」
メイは手を振ってKの足音がしなくなると、ドアを閉めた。
「………。」
また静かなリビング。
メイは買い物で買ってきたCDというものを探した。
メイはそれを開けて、Kに聞いた通りに、コンポへ。
前にかけかたは教えてもらったが、1人でしたことはなかった。
手探りでボタンを押す。
すると、トレイがオープンしたのでCDを乗せて閉めた。
「…!」
ゆっくりと聞こえるバイオリンの音。
買ったのはクラシック。優しい音楽に心が和む。
「こんなにきれいな音…あるんだ」
メイはクラシックという音楽を初めて聞いた。
Kも好きらしい。
「〜♪」
また自然と鼻歌。
音に合わせ歌っていると、メイはこんなに穏やかな時間が自分にあっていいのだろうか…と少し不安になった。
「K様、着きました」
Kが車を降りると、すごく華やかな建物。小さなお城のようだ。
「お待ちしておりました」
レストランだ。
フロアスタッフが会釈をすると、ドアを開けて中へ。
「あ!遅いわ。こっちよ」
Kの姿を見つけると手を振る女。真っ赤なドレスがよく似合う。
「劉は?」
Kが席に座りながら冷たく聞いた。
すると、女は笑った。
「パパなんか来るわけないじゃない」
「………。」
「私は…あなたに会いたかったの…」
女がクスッと笑った。
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