宵闇
永《終》
本部に戻ったジェイに、組員が報告。
「グィンは無事です。明日には目を覚ますと」
「そうか…よかった。Kに報告は?」
「…それが…報告はしたんですが…」
「K、入ります」
ジェイはKの自室を訪れる。
「メイ様、港まで送ってきました」
メイの名前には反応したが、どこか上の空。
「そうか…ご苦労」
「…よかったんですか?」
「…あぁ…」
Kは、メイのこれからを考えて決めた。もうマフィアには関わらない方がいい。
だが、腕にはメイを抱きしめた感触がまだ残っていた。
次の日。
Kは自宅には帰らず、本部に泊まった。
目が覚めてボーッとしていると、メイに持たせていた携帯が鳴る。
画面には『麗蘭』の文字。
Kは黙ったまま出た。
「………。」
『メイ!?ちょっとドコにいるの?昨日、1日待ってたんだからね!』
怒っている麗蘭。Kは驚いていた。
「…メイは帰ったんじゃないのか?」
『…誰!?あ…』
麗蘭は一瞬、Kのことがわからなかったが、すぐに気づいた。
『ちょっと!メイどこよ?』
「昨日、港まで送った…」
『嘘!?こっちにいないのよ!』
「!」
Kは電話を切り、外に飛び出した。
「…車を」
運転手に電話して、車を正面に呼んだ。
メイが消えた…まさかとは思うが、また誰かに…?と思うと、Kはじっとしてられなかった。
「聞きたいことがある」
昨日メイを送ったフェリー乗り場で、係員の女を呼び止めた。
Kのカッコよさに驚く女。
「な…なんでしょう?」
「昨日、白い服を着た盲目の女の案内を誰かに頼んだハズだ」
「あ…はい。私です」
「その女はフェリーに?」
「いえ…案内をしようとして、少し目を離しただけなんですけど…いなくなってしまって…」
「!」
「先に乗ったのかと…」
Kは、たまらなく不安になった。胸騒ぎがした。
また…メイにつらいことが起きそうで嫌だった。
それからいくら探しても、メイは見つからなかった。
「…K、今日は自宅で休んだ方がいい」
自室に泊まろうとするKに、ジェイが言った。
「明日、ちゃんと探そう」
「…だが…」
「冷静にならないと、見つかるものも見つからない」
「!」
ジェイの忠告に従い、自宅のマンションに帰ってきた。
車から降りると、
「ではK様、明日は8時に」
運転手が見送るが、振り返らなかった。
エレベーターで昇り、マンションの扉へと歩いた。
「!」
途中でKの歩みが、ゆっくりになる。
このフロアは龍成会の…Kのもの。
しかし、扉の横に小さく丸まった…人がいた。
Kがはっきりとその姿をとらえると、誰か確信した。
「…メ…イ?」
「!」
Kの声に反応して、顔をあげた。
しかし、いると思っていなかったのか、声がどこから聞こえたのかわからいでいた。
「シン…」
メイの声で名前を呼ばれて、Kは心臓がドクン…ッと脈を打った。
「シン…どこ?」
メイは泣いていた。昨夜は雨だった。濡れたままだ。
手探りで床を這(は)う。
「お願い…シン…お願い…」
「メイ…?」
「!」
今度は、声の方向がわかった。
「…私なんか…いらないのわかってる。あの男…ファイに…何度も触られた…でも…っ」
立ち上がり、フラフラと歩くメイ。
「嘘つき…!」
「?」
Kはメイに駆けより、支えた。
すると、メイがしがみつく。
「捨てないって言ったのに!」
「!」
「あんなに…私に逃げないって約束させておいて…自分がいらなくなったらすぐ捨てるなんて…ひどい」
泣きながらメイが言った。
「…シンのそばにいたいのに…」
「メイ…」
「一番じゃなくていい…一番…会いに来てくれなくてもいい…」
メイは涙をボロボロ流しながら、目を開けて、Kに訴えた。
「お願い…そばにいさせて…ぇっ」
メイの苦しいような叫びに、苦しいほど胸が締め付けられたKは迷わずメイを力強く抱きしめた。
「…こんなに濡れて…どうやって…?」
「一生懸命歩いたの。シンに…もう一度会いたくて…っ」
Kは迷うことなく、メイにキスをした。
今までになく、深く激しいキス。
手はしっかりと握られ、もうほどけることはなさそうだ。
「…いいのか?俺の女になれば…裏の世界に入ることになる。普通の生活には戻れない…」
唇を離すとKが言った。
メイは息があがったまま、笑顔で答えた。
「シン…私は元々闇の中に住んでいるの」
「!」
「だから、私にとってはあなたが光なの」
「!」
Kは驚いてから、今までにないほど無邪気にクスクス笑った。
「ははっ…そうか…」
闇の世界に生まれ、その世界しか知らないKにとって、メイは一筋の光だった。
だが、メイも暗闇の世界で生きていた。
お互いに同じように思っていたのが、Kには嬉しかった。
なぜKが笑っているのかわからないメイがきょとんとしていると、Kが優しい口づけ。
「メイ…今まで誰にも言ったことがない…」
「?」
「…お前を…愛してる…」
<<☆Happy End☆>>
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