宵闇
別
「でもグィンさんが…っ」
「グィンなら大丈夫。あなた達に…もうつらい思いはさせないと言っていた」
抱き合う2人の上からジェイが言うと、メイはホッとしたが、Kはジェイと目が合うと笑われた。
「ぷっ…ココ、ロビーですよ。Kにしては大胆な…」
「!」
いつも冷静なKのあんなに必死な姿を見たことがない組員はニヤニヤ。
「み…見るな!散れ!」
焦るKを皆が笑顔で見つめる。
「K、あなたの人間らしい表情が見れて、みんな嬉しいんです」
ジェイは吹き出しそうなのをこらえて言う。
「…黙れ」
メイはKが何をそんなに焦っているのかわからなかった。
だが、つないだ手を離さないでいてくれるのが嬉しかった。
「…シ…Kさん、ジェイさん…」
メイが呼び掛けた。
ジェイを始め、Kを取り囲む組員がメイの声を聞く。
「そして…ケガをした皆さん…ここにいる皆さん…」
メイは床に手をつき、頭を下げた。
「危険なこと…そしてケガをさせてすみません」
「メイ様…頭を上げてください」
慌てるジェイ。だが、Kはメイの行動を見守る。
「ジェイさんだって…血が…っ」
「!」
涙ぐむメイ。ジェイはケガをしたのは隠していた。
「時間と労力を使わせてごめんなさい」
メイが再び頭を下げた。
深々と下げてから、一番近くにいたジェイを見つめる。
「!」
メイはゆっくりと目を開き、笑った。
「来てくれて嬉しかった…ありがとうございます」
「!」
メイの目を初めて見たジェイは、視線が合ったりしてしまえば、吸い込まれそうなほど美しいと思った。
見えた者は皆そう思った。
「…何よりの誉(ほま)れです」
ジェイがヒザをつき、頭を下げると…皆がそれに続く。
「シ…シン?」
Kの自室でシャワーを浴びたメイ。
髪が濡れたまま、ドアから少しだけ頭を出してKを呼ぶ。
「どうした?」
「あ…来ないで!」
Kが近づくと、メイが叫ぶ。
「?」
メイは恥ずかしそうに言った。
「…服…どこにあるの?」
「!」
Kはクスクス笑った。
「それは見に行かないとわからないけど…」
「ダメ!は…裸なの」
真っ赤な顔をするメイに、Kは言った。
「タオル巻け。10秒だけ待つから」
「!」
メイはパタパタ慌てて急いでいる。Kはクスクス笑いながら、メイがいる幸せと喜びを感じていた。
「入るぞ」
「…!」
なんとかメイはタオルを巻いていた。
「バスローブで我慢してくれ。今、買いに行かせてる」
「はい…」
棚からバスローブを出して渡した。
受け取るメイの手首には生々しい傷。手錠の跡。
よく見ると、アザだらけ。
「…どうかした?」
それでも無邪気に笑うメイに、Kは心が和(なご)む。
「いや…タオル邪魔だな…って」
「!」
真っ赤な顔で、タオルを押えたメイ。
「取らないよ…」
Kはメイの頭を撫でる。
「…まだ…な」
メイはドキドキと同時に恐怖も感じた。
ファイが触ったと知っている体にKが前と同じように触れてくれるか…。
「シン…?」
Kの自室はオフィスと休憩室にわかれている。
普通のマンションくらいの広さはある。
リビングをうろうろ。
静かに流れるクラシックで、Kの気配がわからない。
「シン…」
急に孤独な気がして恐かった。
ぶつかりながらも歩く。
「シン…どこ…?」
すると、後ろからふわりと温かい感触。
「…ここにいる」
毛布をかぶったKがメイを包(くる)む。
「………。」
「………。」
2人はしゃべらないで、ただ毛布に包まってソファーに座る。
メイはKの心音に落ち着きを感じた。
眠くなり、そのまま寝てしまった。
スースー…と安らかに眠るメイをKはソファーに寝かせた。
オフィスに行くと、ジェイが待っていた。
「K、ファイが来た。条件はすべて飲むから、ブツを売って欲しい…と」
「そうか…」
「やっと…メイ様は自由ですね」
「…あぁ…」
Kの心境は複雑だ。
「シン…?」
目が覚めたメイはKがいないことに気づく。
「…お目覚めですか?」
「ジェイさん?」
いつの間にか車に乗せられていた。
「…どこへ向かっているの?」
「…あなたの…育った場所へ」
「!」
「ファイはあなたを手放しました。これで完全に自由だから…あなたのいるべき場所に帰るように…と」
「…K…さんが?」
「はい。港まで送ります。船に乗れば…九龍で麗蘭という女性が待っているそうです」
「!」
メイは、Kともう会えない気がしてきた。
「着きました…降りてください」
「………。」
「あとは係の者に案内を頼みます」
ジェイの手を取り、車を降りた。
「どうか…お元気で」
「…ジェイさん…も」
メイは力なく笑顔を向けた。係の者に導かれ、ジェイから離れていく。
「K…これで…いいのか…?」
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