宵闇
奪
「…グィン、ケガは?」
「…っ…任務には支障ありません」
「…無理は…するな」
「しかし、無理でもしないと…私のミスは…」
「…Kは確かにお前に怒りをぶつけた。だが…そうは思ってないさ」
「え…」
爆破の残り火の音がする。遠くからはまだ銃声も。
「すべて自分のせいだと…思ってる」
「!」
「メイ様は…怯えていたのに最後は抵抗しなかったらしい」
「ファイが…どんな男か知りながら?」
「あぁ…信じて助けを待ってる」
「!」
「Kに詫びる気持ちがあるなら…死なずに救い出せ」
「ジェイ…」
フッと笑い合う2人に無線が入る。
『ジェイ…ロックが1つ外れた』
「よくやった」
『だが…2つ目は…30ケタ以上ある』
「!」
コンピューター室でうなだれるハイド。
『僕には…』
自信喪失のハイドの後ろから声がした。
無線越しにジェイにも聞こえた。
『なぁんだ。この程度のセキュリティ。ま、フォースちゃんにはキッツイかな』
「!」
聞き覚えのある声に驚くジェイ。
ここにいるはずのない男。
持ち場であるマカオを離れるなんてありえない。
『ジェイちゃん。1分待っといて〜。開いたら1分以内にキーも開けなきゃいけないからね』
「…任せろ」
すぐに作業に取り掛かる男。ハイドは後ろに下がる。
コンピューター室だってロックされているのに、簡単に入ってきた。
「Kは不動のあんたまで動かしたか」
『ちょっと不本意だけど。まぁそこそこ楽しいからいいけど〜』
「…頼もしいな。エース」
一気に作業が進む。ハイドはエースの腕前に見とれていた。
『…あなたも。相変わらず現場向きの腕前ね〜。おかげでセキュリティ突破だけに集中できる』
「急いでくれ」
『は〜い。もうちょっとで…』
Aの称号を持つエース。
ハッキングの天才だ。侵入できないセキュリティなどない。
『はい完了〜あと頑張って』
「!」
ジェイはすぐに鍵開けにかかる。ピッキングに関しては達人。
「…よし、開くぞ」
ジェイがドアノブに手をかけた。
グィンは、残党を撃ちながら中に入る。
オートロックなので、グィンがドアを盾にしつつ閉めないように押さえてた。
「………。」
ジェイは、バスルーム、トイレと走り回りながら、メイを探した。
だが、全然見当たらない。
「どこに…」
ジェイが枕に血のついたベットのそばで考えていると、ふと目に鎖が入る。
ベットの足から、クローゼットへと伸びている。
ゆっくり歩いて、ゆっくりクローゼットを開けたジェイ。
「!」
そこには、差し込んだ光に驚き、うずくまる…
「メイ様…」
メイがいた。
メイはひどく怯えている。
外でわけのわからないまま大きな音が何度もすれば…当然だ。
「…メイ様」
「!」
怯えるメイに、ジェイは優しく言った。
「メイ様、ジェイです。Kの代わりに来ました」
「ジェイ…さん…?」
「そうです。Kが待っています。早く行きましょう」
「K…さん…?」
メイは久しぶりにKの名前を呼び、我慢していた気持ちがこみあげた。
どこかでもう会えない…と少しあきらめていた自分に気づいた。
「…っ…」
泣きそうになると、ジェイは手錠をすぐに外した。
「メイ様、涙はKに会うまでとっておいてください」
「!」
「俺の背中に。走ります」
足かせも外したジェイは、メイをおぶった。
「…そうか。よくやった…クイーン」
『言われた通り、交換条件も伝えました。あの様子だと確実にそちらに向かうかと』
「そうか…ご苦労。せっかくだ。好きなだけ深川を楽しむといい」
龍成会の本部であるビルの自室でクイーンからの報告を受けたK。
『あなたが隣にいれば楽しいものだけど』
「クイーンは俺の女になるにはもったいなすぎるだろ」
『…相変わらずお世辞がうまいわね。では、来週には戻ります』
「あぁ…」
クスッと笑いながらKは電話を切る。
すると、組員がノックをしつつも急ぎ、飛び入ってきた。
「K様!ジェイ様達が戻りました!」
「!」
「ですが…情報が錯綜(さくそう)していますが、負傷者が4名。1名は…重傷だと」
「…!」
Kは思わず部屋を飛び出した。
重傷患者がまさかメイでは…嫌な予感がした。
エレベーターで下まで降りると、医師のチームはすでにスタンバイ。
手術もすぐできる。
ストレッチャーもスタンバイ。
「…早くしろ!肺を撃たれた」
「!」
騒がしいロビー。ジェイの声が響く。
「絶対死なせるな!」
「ジェイ!」
Kは思わず、ストレッチャーについて行こうとするジェイを呼び止める。
「報告はどうした?」
「…!申し訳ありません。負傷者が…」
ジェイの両腕は血だらけだ。
「………。」
Kが不安そうな顔をしたので、ジェイは慌てて言った。
「ご安心ください。急所は外れたかと。撃たれたのはグィンです」
「グィン!?」
「はい。逃げるとき、俺とメイ様の盾に」
「そうか…」
グィンを責めたことを後悔したK。
すると、ジェイが背中をたたく。
「心配いらない。グィンは強い。芯も…信念も」
そして、車から毛布にくるまったまま、スタスタと歩く少女。
「!」
この場に不似合いな少女。
身なりは薄汚れ、裸足でいるのに、真っ白な少女。
「…K…さ…」
声が思うように出ない。
人の気配はたくさんするが、Kがいるのかわからない。
「シ…ン…」
震えた声で呼んだ。
「…いる…の?シン…!」
周りの組員達はKの本名を知らず、メイが誰を呼んでいるかわからなかった。
だが、人を惹きつけるかのようなメイの声に聞き入る。
「……イ…」
「!」
かすかに聞こえた。
メイが待ちこがれた人の声。もう…聞けないとあきらめかけた声。
「…っ…」
涙が流れて、その場に座り込む。全身の力が抜けて、もうそこから動けない。
すると、ふわりと包み込む懐かしい匂い。
「メイ…」
間近でするKの声に、しがみつくように抱きつく。
「シン…シン…ッ」
「すまなかった…」
首を横に振りながらメイはKに擦り寄る。
「…夢じゃない…」
「…あぁ…夢じゃない」
Kはメイを抱きしめながら震えた。
メイが無事に戻ってきた…それを実感していた。
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