宵闇
乱
「すぐに幹部をすべて集めろ!」
龍成会のビルに戻ったKが叫んだ。
すでに集まっていたクイーンとジェイとグィン。
「K!」
クイーンが安堵の表情。
しかし、Kは冷静さを失っていた。
「貴様!なぜ持ち場を離れている!?」
「え!?」
グィンにつかみかかるK。
「きゃ…!?」
車でファイに連れて来られたのは、とある古いビル。
「…ファイ様ぁ〜」
女の人がすがる声。前にも聞いたことがある。
メイは再び同じ場所に連れて来られた。
何人もの女の監禁場所。
皆ここで調教と洗脳をされ、ファイに忠実な女になる。
「ずいぶん探したんだ…メイ」
「気安く名前呼ばないで!」
ファイに『メイ』と言われるのは鳥肌が立つメイは、震える声で叫んだ。
「…Kにどんな調教をされた?」
ファイの、クックックッ…という笑いはたまらく嫌いだ。
「Kさんは…あなたとは違う。強引なことはしない」
「ほう…」
「あの人は…信頼できる。だからあなたなんかに何をされても平気」
メイは前と違う気持ちでここにいた。
前は絶望しかなかったこの場所に、今はKという希望がある。
「心は…あの人のそばに…」
「!」
すると、イラッとしたファイはメイの服を引きちぎる。
「その強がりがいつまでもつかな…」
「早くしろ!華火を潰す…それだけだ!」
イラ立ち机を蹴るK。目の前にあったコーヒーはこぼれた。
集まった幹部が驚いて見ていた。こんなKを誰も見たことがない。
「…K、来てくれ」
ジェイがKを別室へ。
「放せ!」
「K!」
ジェイがKを怒鳴る。一瞬、Kが黙ったスキにジェイは話を進める。
「どうしたんです?あなたらしくない」
「…っ…!」
Kは近くにあった壁をたたく。何度もたたく。
「くそ…っ!」
右腕をたたきつけていると、傷口が開いたようで、包帯に血がにじむ。
「………。」
「………。」
黙って見ているジェイ。
Kは消え入りそうな声で言った。
「……メイが…ファイに…奪われた」
「!」
「いや、取り返された…の方が正しい」
Kは苦笑い。ジェイは驚いていた。
「メイは…元々ファイに買われていた女だ」
すべてをジェイに話したK。
その上で、ジェイが言った。
「K、どうか冷静に」
「なりたくてもなれない…」
「なってください!あなたはKの称号を継ぐ、龍成会のトップです!」
「!」
「あなたが冷静さを失い…突っ込んで行けば、それこそファイの思うツボです」
Kがたたきつけた腕を壁から離すジェイ。
「華火は攻め入るには難しい…セキュリティに長(た)け、防御に長けている」
「………。」
「早くメイ様を救うためにも…あなたが冷静さを失ってはいけない」
Kは最後のメイの姿を思い出した。
助けてとは…一度も言わなかったメイ。
「メイ様は…あなたが来ると信じている」
Kはハッとした。
「メイ…」
最後に抱きしめたくても…できなかったことを思い出す。
このまま…ファイの好きにはさせない。
「…ジェイ」
「はっ」
Kの前にひざまずくジェイ。
「お前を…誰よりも信頼する…」
「ありがとうございます」
「…メイの居どころ…探ってくれ」
「承知した」
「俺は…クイーンら幹部とともに華火の取り引きを…潰す」
いつもの冷静さを取り戻しつつあるK。
「Jの称号にかけて…メイ様を見つけ出してみせます」
少し錆(さ)びた臭いに、少し湿った空気の部屋。
メイは窓から差し込む光の方を見つめた。
「…Kさん」
メイには手錠と足かせがつけられていた。
今回は自力では逃げられない。
連れて来られて2週間がたとうとしていた。
「!」
カツカツと嫌な足音。
あれから、毎日…まっすぐこちらに向かってくる足音に身震いするメイ。
「…メイ」
ファイが来てもメイは反応しなかった。
すると、部屋のベットに座るファイ。
「まだわからないのか?」
「………。」
「Kはお前の持つ私の情報が欲しかったのだ」
ファイの言葉など耳に入らなかった。
「いい加減わかったらどうだ…お前はKにとって用済みなんだ。連絡一つないぞ?」
「………。」
ファイとは言葉をかわさなかった。
すると、足かせにつながる鎖をファイが引っ張る。
徐々にファイとの距離が縮まる。
「おいで…美鈴」
「!」
「…取り引き場所は?」
Kは幹部たちと話していた。
「………。」
「2週間もあって…誰もつかめていないのか!」
机をたたくK。
すると、クイーンが話しだす。
「だから、あなたの補佐は私1人で十分ですのに」
クイーンを皆が見る。
「場所は深川。相手は上海のマフィア。でも本当の黒幕は…ロシア」
自信たっぷりにクイーンが言う。
「さすがだ。クイーン」
「…光栄です」
「深川は治安が悪い。取り引きにはもってこいだ」
また、皆がKを見る。
「何名か先回りして情報収集にかかれ」
「はい!」
幹部たちが一斉に返事をした。
皆がぞろぞろ出ていく中、クイーンがKのそばに。
「ジェイに頼まれてた…李美鈴の居場所がつかめました…」
「!」
クイーンが資料を差し出す。
そこには古びた建物の写真と住所。
「…あなたがそこまで執着する女…見てみたいものです」
クスクス笑いながらクイーンが去ると、偶然2人の話を聞いていたグィンがKに訴えた。
「K!メイ様の救出…私に行かせてください!」
「!」
「ジェイ…」
屋上で一服中のジェイ。
Kが歩みよる。
「グィンに何を言った?」
「別に。真実を」
ジェイは少し笑っていた。
「私が…数十分なら…と、メイ様から目を離したのが原因です!」
「グィン…」
グィンは、Kに強めの口調で言った。
「護衛として…2人をお守りするのが私の使命だったというのに…」
「………。」
「…同じ過(あやま)ちは犯しません。必ず、連れてきて見せます!」
グィンが頭を下げる。
「お願いします!」
少し静観していたKだが、迷ったあとに言った。
「…グィン!」
「はい」
「…わかった…すべて任せる」
「!」
グィンは少しホッとしたようだ。自信に満ちた声で答える。
「お任せください」
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