宵闇
血
オロオロするメイ。
なんだかKの様子は普通じゃなかった。
「………。」
一緒に来た人も、イライラして焦っているようで恐かった。
しばらくすると、誰かがまた部屋の中へ。
「あなたは…」
「!」
メイの聞き覚えのある声だった。
初めてKに会った日に見てもらった医者。
「…っく…あっっ!」
Kの苦しそうな声が部屋から聞こえてくる。
メイはますます不安になる。絶対Kに何かあったのはわかる。
「ご挨拶は後ほど…」
足早にKの部屋へ。
メイも恐る恐る部屋に近づく。
すると、床が少し滑った。
「…?」
手を伸ばすと床が濡れている。
水とも違う…感触。
「!」
嫌な予感がした。血かも知れない…そう思ったメイはKの部屋に飛び込んだ。
「Kさ…っ!」
すると、Kの苦しそうな息遣いが部屋に響いていた。
「メ…イ…」
いつものように力のない声。
ジェイは、敵意むき出し。
「勝手に入るな!なぜKの自宅にいる!?」
その声は命を狙われたことで、イラ立っていた。
「ジェイ!」
Kが叫ぶ。きっと最後の気力だ。
「俺が置いてる女だ。大丈夫だ」
メイはジェイに怯えながらも、Kが心配でたまらない。
息が切れながらも、Kは優しく笑って言った。
横では医者が麻酔の準備。
「…残ったのか…」
「………。」
「…俺が…恐いか?」
Kがメイに向かって手を伸ばす。
メイには見えないが、なんとなくそれを感じて…メイはKのベットへと走る。
「…初めに言いました。あなたが何をしていても…本質には関係ないと…」
Kの手を握って、ほほに擦り当てる。
メイはぽろぽろ泣いた。
「…ケガしたんですか…?痛い?苦しい?」
「少し…な」
Kの手をさらに握った。
「…私はどこにも行かない…」
「!」
「シンがいなきゃ…私は…私は…もう生きていく場所もない…」
メイはこのままKがいなくなりそうで恐かった。
すると、握っていた手を振りほどいて、メイの頭を撫でるK。
「…なら…死ぬわけにはいかないな…」
「!」
Kが笑った。
ジェイはKの発言に驚いていた。
ちょっと前のKなら絶対言わないセリフ。
「シン…シン…」
不安からメイは名前を呼び続けた。
後はオペが始まるらしく、ジェイとメイは部屋の外へ出た。
ジェイは明らかにイラ立っていて、どこかへしきりに電話をしていた。
ソファーに座って頭をかかえるジェイ。
Kを危険にさらした自分を許せないでいた。
「…どうぞ」
「!」
メイはKにコーヒーを差し出す。
「お前が?」
ジェイは驚いた。メイが盲目なのはジェイも途中から気づいていた。
コーヒーを飲んで一息つくジェイ。
メイは黙ってジェイとは少し離れて子犬を抱きながら同じソファーに座った。
「俺がKを危険にさらした…」
「!」
ジェイがまともに初めてしゃべった。
「すべて…俺の責任だ…」
苦しそうなジェイの声。泣きたいけど泣けない…そんな気がした。
「今は…過ぎたことより…今を乗り切ることです」
「!」
メイの声を間近で聞いたジェイは驚いた。メイの声は澄みきっていた。
「Kさんは死なないって言ってくれたから…」
メイは笑った。
「絶対大丈夫です」
その笑顔にドキッとしたジェイ。
メイは笑顔でありながらも、手は震えていた。
何より不安であるはずなのに強気に笑い、自分を励まそうとしてくれたいるメイにジェイは自然と笑った。
「…改めて、先ほどは失礼しました。ジェイと申します。Kの下で働いています」
「美鈴です。このコは…ユエ…北京語で月を意味します」
メイは子犬の名前を決めた。前に聞いたことがあり、響きがきれいだと感じでいた言葉。
ユエと楽しそうに遊んでいると、ジェイが笑った。
「Kがあなたをここに置いている理由がわかります…」
「?」
「あなたを包む空気は…とても穏やかで…こちらまで穏やかな気持ちになる…」
ほめられていると感じたメイは、恥ずかしくて少し顔が赤くなる。
「Kは…ずっと死に急いでいる感じがしました」
「え…」
「ずっと…いつ死んでもいいと思っていたと思います」
メイの表情が暗くなる。しかし、ジェイは笑顔で続けた。
「でも…あなたに対するKの態度は…我々の見たことのないものばかりで…」
ジェイはユエを抱き上げた。
「死ぬわけにはいかない…そんな言葉が聞けると思いませんでした」
メイは少し暖かい気持ちになった。
5時間近くが過ぎた。ジェイは帰るわけにもいかず、メイとリビングで待っていた。
すると、Kの部屋のドアが開く。
「!」
メイもジェイも食い入るようにドアの方を見た。
医者が出てきた。服は血で汚れていた。
「…Kの容態は?」
「…出血が多かったですが…問題ありません。弾も取り出しました。全治には少し時間がかかりますが…2週間も休めば問題ないでしょう」
メイはジェイの手を取り、飛び跳ねながら言った。
「よかった…よかったね」
「!」
ジェイは驚きつつもメイの無邪気さに笑った。
「メイ…さん?Kがお呼びです」
「!」
なんだか安心したら、Kに会うのが緊張してきたメイ。ジェイが背中を押す。
「俺は本部に戻るとお伝えください」
「はい…」
「シン…?」
Kは着替えて、ベットのシーツも真っ白に戻っている。メイには見えないが、さっきまでの緊迫した空気はそこにはなかった。
「おいで…」
メイはゆっくりKに近づいて、ベットに座った。
「…気分…悪くないですか?」
「メイ…」
Kの手がほほを撫でる。
それだけでドキドキする。Kが生きてる…メイはそれだけで嬉しかった。
「嫌じゃ…ないのか?俺の手が…人殺しの手が…」
メイはKの手を上から握る。
「…さっきまで…シンがいなくなると思ったら…恐かった」
「………。」
「いなくなるって思った時の方が…何倍も恐かった」
メイはKの温もりを感じて心の底からホッとした。
[*前][次#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!