宵闇
真
今日のキスはいつもと違って長い。
「…っ…シン…っ」
「!」
軽く突き放すと、Kはハッとして冷静になった。
「悪い…」
子犬は床を歩き回っている。
Kがメイから離れようとしたので、メイは慌てて腕にしがみついた。
「待って…!」
「!」
「嫌じゃ…ないの」
「メイ…」
「でも…シンと…深い関係になるのは恐い…」
メイのしがみつく手が震えてる。
「…私は…汚れてるから。ただの庶民だから。シンは…一緒に過ごして育ちがいいのわかる」
Kはソファーでメイと向かい合わせになるように座った。
「幻滅…したら…いつか捨てられて…私は…行くとこが…っ」
一筋の涙が流れると、Kはなんだか切なくなった。
こんなにきれいな涙は見たことがなかった。
「メイ…」
Kが指で涙を拭った。
「幻滅されるのは…俺の方だ…」
「え…?」
Kは少しメイから離れて…ついに打ち明けた。
「俺は…人殺しだ」
「!」
「マフィアだ…覚えてないくらい…殺してる」
Kはメイの反応が恐くて…背を向けていた。
すると、Kの携帯が鳴る。
「俺だ」
『ジェイだ。リックからの報告だ。シグが動いた』
「……わかった…すぐ行く」
Kは打ち明けたことで…メイが去っても仕方ないと思った。
今は反応が恐くてここにはいたくなかった。
「…出かけてくる。帰りは遅い」
「…はい」
Kはメイを一度も見なかった。最後の声は消え入りそうだった。
マンションを出ると、なぜしゃべったのか…と後悔した。
帰ってきたらメイがいないことも…覚悟した。
「神に…誓います」
メイの言葉は信じたい。でも、信じて傷つくのも恐かった。
「ジェイ…本当にこの港か?」
「リックからの報告では…」
車で港へ来た。
ずっと潜っていたシグが久しぶりに出てくるらしい。
…しかし、何かがおかしい。それはジェイも感じたようだ。
車を降りて、ジェイと歩く。
「K、足を用意しておく」
「頼む」
ジェイは逃げ道の確保へ。
シグは華火の幹部。こんなに港が静かなのはおかしい。
「K…逃げて…くだ…」
「!」
すると、積み上げられたコンテナの間からリックが現れた。
とっさに銃を向けたが降ろした。
「リック…」
血だらけで歩くのがやっとだ。
倒れこむリックを支えた。
「許してください…すべてはおとりでした…」
リックは一度しくじったシグの暗殺…それを逆に利用して、龍成会に追われる身として華火組に逃げ込み、内部を探ろうとした。
「利用するつもりが…あなたをハメることに…」
「ご苦労。リック」
「!」
Kの聞き覚えのある声…シグの声。
見上げると、シグが笑っていた。Kめがけて銃口を向けている。
「最後に役に立ったな。そいつはもうすぐ死ぬ」
「何?」
「出血量が多い」
鼻で笑うシグを軽蔑するような目で見るK。
「さすが若くして龍成会を継ぐ者!いい目だ…」
リックはただひたすら謝罪。呼吸もままならない。
「…リック…リック!」
息たえそうなリックに意識を保たせながらKは言った。
「今…すべてを許そう。お前は俺の…龍成会のため、よくやった」
「!」
それを聞いたリックは静かに笑う。
Kも…死を覚悟した。こんな時にメイを思い出した。
「…若造が…」
シグが引き金を引いた瞬間、Kの左腕に激痛が走る。
しかし、痛むだけ。まだ…生きている。
「!」
目の前に…リックがいた。リックは最後の力を振り絞ってKの盾になった。
3発撃ったうちの2発がリックの腹部に。1発はKの腕に。
「…K、最後まで信じてくれて…ありがとうございました…もっとその信頼に答えたかった…」
リックはそのまま至近距離にいたシグの銃をつかんで離さなかった。
「リック…」
「小癪な…」
シグは周りの男たちにKを殺るように命じた。
すると、少し離れたとこに停めていたシグ達の車が突然爆発炎上!
「!」
みながそっちを見ていると、反対側からジェイがバイクで走ってくる。飛ばしている。
「K!コンテナへ!」
リックは、フラフラになりながらも爆発のスキをついてシグの銃を奪った。
Kはコンテナへと走る。
シグは丸腰だ。周りの男たちはリックへ…リックはシグへ銃口を向けている。
「…リック…この人数相手に…」
「シグ…お前の負けだ」
リックはフラフラだが、銃だけはしっかりシグに向けていた。
「…目的を果たして…Kの信頼に応える。どれだけの銃口を俺に向けてもムダだ。どうせ…俺は死ぬ!」
笑うリック。
シグを仕留め、自ら選んだ死へ。
コンテナに隠れると、ジェイが迎えに来た。
後ろに乗り、無線のイヤホンとマイクを互いにつける。
走りながら話す。
「なぜ…コンテナへ?」
「リックは…元部下だ。新界支部には手信号が存在する」
Kの手からは大量の血が流れる。
「リックは…Kだけは救おうと…俺がいるのを知って…」
「そうか…」
「モメたこともありましたが…腕は…立つ男でした」
「そうだな…」
Kは意識が遠退く。弾は貫通していなく、骨に当たるたび激痛だ。
「すぐに病院へ…!」
ジェイが追っ手を振り切りながら言った。
しかし、Kはつぶやくように言った。
「いや…自宅へ」
「!」
「帰りたい…」
もう夜だ。追っ手を振り切りながら、ジェイは医者を自宅に呼び、急いでバイクを走らせた。
メイは少し冷たい窓に触れて、外を見た。
「今日は…月ってのが…あるのかな」
すると、子犬が足元をくるくる回る。
「…名前、決めた」
メイが笑うと、玄関をバタバタと開ける音。
Kの足音じゃない。メイはひるんだ。
「K!しっかりし…」
Kの部屋にいた見たことのない女にジェイは困惑した。
Kは絶対に自宅に女を入れない男だ。
「誰だ…!?」
銃口を向けた。しかし、意識が朦朧(もうろう)としながらも、Kが止めた。
「ジェイ、やめろ。いいんだ…」
そのまま2人は部屋へ。
メイは何が何だかわからなくて困惑した。
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