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High&Low
決意を胸に



『藤波先生〜?』

保健室に来た。ここは涼先輩がいる確率が高い。でも、今日はいなかった。

「大堂…ここは保健室。わかってる?」

藤波先生は、ちょっとあきれ気味。

「具合悪い人が来るとこなんだけど?」

『………。』

私が黙ると、藤波先生はため息をついてから笑った。

「…で?今日は何?」

『先生って、今好きな人いる?』

藤波先生の顔がちょっと真剣になる。

「…いるよ」

『その人…どこが好きなの?』

「何よそれ…」

藤波先生はクスクス笑った。

『だって…好き…ってよくわかんなくなっちゃって…。好きってどんな気持ち?』

「そーだねぇ…感情に言葉をつけるのは難しいけどな…あたしの中での存在の大きさ…かな」

『…存在…』

迷った顔をしていると、藤波先生は肩をポンッとたたきながら言った。

「そうだな…色んなこと全部忘れて、自分の中で一番大きい存在」

『忘れる?』

「そう。誰が好き?って自分に問いかけながら、目を閉じて…まぶたの裏に映る相手」

私は早速やってみた。

「あくまで、あたしの話だから」


誰が好き?

誰の存在が大きい?


しかし、誰も現れない。

『…ダメだ…』

しゅんとする私に、藤波先生は優しく言った。

「感情は複雑だから…きっとすぐに答えは出ないわ。でも、時が来ればハッキリするものよ」

『でも…』

「焦る気持ちもわかるけど、焦ったっていい事ないんだから…時間をかければかけたぶんだけ納得できるはずだから…」

藤波先生は笑った。つられてちょっと笑った。

『…はい』





保健室を出ると、廊下を歩く女子の声が聞こえた。

「白王子、なんかヤバくない?」

「サボるのはいつもだけど、迎えに来た人殴るなんてね〜」

「…あたしはやっぱり黒王子の小笠原様だな〜」

「あたしも〜」

すれ違いざまに全部聞こえた。
涼先輩の気持ちを思うと、胸が痛い。

早く…謝りたい。









「…もっと早く走れよ!」

車の後部座席から運転席を蹴っ飛ばす涼。
たまらなくイライラしていた。助手席には迎えに来た時に殴られた新人。

「飛ばしてますよ…涼サン、どーしたんすか?」

「…黙れ」

涼は誰の話にも耳を傾けないでいた。
すると、涼の携帯が鳴った。
どーせその辺の女だ。
そう思って無視していた。

「涼サン、鳴ってますよ」

「…わかってんよ!」

「あたっ…!」

運転席の男の頭をバシッと一発。
助手席の男は、これ以上涼の気にさわらないよーに、まっすぐ前を見て黙っていた。

涼は、誰の着信からかも見ないで電話に出た。

「…うるせぇんだよ!誰だ!」

『あ…』

「!」

涼は一言だけで誰かわかった。

『…美依…です…』

すると、涼は反射的に電話を切った。
動揺しているのは…誰が見てもわかる。

「………。」









『…切られちゃった…』

私は、怒鳴られたのと、電話を切られたので、ちょっとビックリ。
廊下で切られた電話を見つめた。

「…え?何??」

携帯はミカのもの。私の携帯は光くんのものなので返した。

『もう一回…かけていい?』

「いーよん。あ、じゃあ邪魔しないよーにあたし離れてるね〜。終わったら返して」

『うん…ありがとう』

ミカは手を振りながら教室の方へ。


もう一回、かけてみた。





「……はい」

今度は案外早く出た。
それで逆に動揺した。

『あ…美依…です』

「それはさっき聞いたよ。間違って切ってごめん…」

涼先輩はクスクス笑っていた。なんか普通だった。

『携帯…ミカ…に借りて…』

「着信見ればわかるよ…」

『あ…そっか…そうですよね…』

こっちの方が動揺してしまった。
クスクス笑われてちょっと恥ずかしい。

「…さっきのこと…気にしてんのか?」

『!』

涼先輩の声は…優しかった。

「気にすんなよ…美依が抱きしめてくれたのは…嬉しかったから」

『…っ…でも…』

でも、いつもと違うのはすぐにわかった。

「だから…頼むから…」

涼先輩は、私に口を挟ませなかった。

「これ以上…好きにさせないでくれ」

『!』

涼先輩の声はいつもと違って弱々しかった。泣きそうだった。
こっちまで苦しさが伝わってくるような声。

『ごめんなさ…っ…でも、涼先輩を傷つけたと思うと…涙が…止まらなくて…』

「!」

『涼先輩は…優しいし、この学校でまともに話した最初の人だし…大切だって思ってるし…』

「美依…」

私は泣きそうだった。
涼先輩は…今は誰よりも頼りにしてる。

『…涼先輩が…離れてっちゃうのはヤダよ…』

涙が流れた。
涼先輩はあまりしゃべらなかった。

ちょっと冷静になると、ほとんど告白。

『あ…私何言って…!ごめんなさい。ただ謝りたくて…』

「あ…」

『ごめんなさい!』

電話を切った。

これじゃ、まるで告白だ。
顔が真っ赤になった。ドキドキする。
こんなにドキドキする…。

目を閉じた。

好きなのは誰…?

『………。』


…やっぱり答えは出ない。涼先輩は…こんなにも失いたくない大切な存在なのに。



教室にいるミカに携帯を返しに行こうとすると、人混みが。

予想はつく。光くんだ。

「小笠原様、ドラマの主演ですって!」

『!』

廊下で光くんを見ていた誰かが言った。

「小笠原様、聞きましたわ。おめでとうございます〜」

すぐにわかる咲茅の高い声。誰よりも前に出て、光くんに話している。

「…あぁ…」

「そうだわ!お祝いをしなくちゃ…!私のお家でしません?もちろんみんなで」

咲茅が言うと、周りのテンションが一気に上がる。

「…決定ですわね。小笠原様、いつがよろしくて?」

「やるなら…今日。他は無理」

「まぁ!早速手配します。みなさん招待しますわ…」

「小笠原、サンキュー♪」

咲茅は電話をかけながら、私の存在に気づいた。

「貧乏人以外はね」

ひどく意地悪な笑顔。みんな大笑い。
私は、その笑顔の視線に耐えられず、うつむいた。

『………。』

すると、教室にいながら人混みに興味のない人がいた。
…わかりやすい。

『ミカ…携帯ありがとう…』

「ちゃんと話せた?」

『…たぶん』

私がちょっと首をかしげながら言うと、クスクス笑い合った。

ミカがいてよかった。








「…あ…!美依ちゃん」

廊下をミカと2人、歩いていると、光くんのマネージャーさんに会った。

『あ…!』

軽く会釈する。

「知り合い?」

『うん。ちょっと…』

ミカは先に行った。
律儀な人で、ドラマでしばらく抜けるから挨拶に来たらしい。

「光の部屋から…出て行ったんだって?」

『…はい』

私は来客用の出口までお見送り。

「これ…言ったら光に殺されそうだけど…。あいつ…最近情緒不安定で」

『………。』

「…室岡まゆみって知ってる?」

『…っ!…はい…』

忘れるわけがない。光くんと目の前で抱き合ってた女。

「その人…美依ちゃんのこと知ってるのかな?」

『…あの部屋で…見かけたことが…』

「そっか。光が酔った時に…泣きながら言ってたんだ」

『泣き…ながら…?』

昔の光くんの泣き顔ならすぐ思い出せるが、今の光くんな泣き顔なんて想像もできない。

「室岡まゆみのことで、よりを傷つけた…って」

『!』

…ドキッとした。思い出される光景。

「室岡まゆみって…結構いろんな繋がりあるから…今、自分より美依ちゃんを選んだら…何するかわかんない…って脅されたらしい」

『…え…』

頭が真っ白だ。驚きすぎて、なんだか思考がうまく働かない。

「ごめん…って泣いてた…あんな光、見たことなかった」

『………。』

頭の中がごちゃごちゃだ。わけがわからない。
私の…ため?

「本人に言えよって言ったのに…」

靴を履いて振り返るマネージャーさん。

「…あいつ変にプライド高いとこあるから…よりの前で弱いとこは見せれない…だって」

『!』

「男だね〜」

笑うマネージャーさん。つられるように笑った。

「…光を誤解しないでやって。根は優しいやつだから」

『………。』

昔を思い出した。
光くんは…いつだって優しかった。

「じゃあ…また会えるといいね」

『はい』

手を振りながらマネージャーさんは出ていった。

光くんの涙…。
想像しただけで胸が痛くなる。
何度も泣かせてきたのに。

『…光くん…』

…さらに何もわからなくなってしまった。





涼先輩が…苦しそうな声をしていた…。

そばにいてあげたい…失いたくない…大切な存在。


光くんが…泣いていた。

…ドキッとした。そんなに苦しんでいたのかと思うと…たまらなく切なくなる。



私を好きだと言ってくれた涼先輩。
光くんはきっと私のことなんて…。

でも、そんなの関係なしに…好きな…のは?



『………。』

…ダメだった。
核心になると…どうしてもわからない。

何で自分のことがこんなにもわからないんだろう…。



階段を降りると、不快な声が聞こえた。

「さすが咲茅様!小笠原様をさりげなく家に誘うなんて…」

カナが言うとユカも便乗。

「これでみんなが2人を公認の仲だと理解しますわ」

そして咲茅の高笑い。

「当然ですわ!でも、まだ気が早くってよ。みんなの前で小笠原様に選んで頂かないと…」

階段を登ってきた3人は、私に気づくと会話を一旦止めてクスクス笑った。

「先ほどは意地悪がすぎましたわ。あなたもぜひ来てくださらない?」

『!?』

咲茅が謝ったことにかなり驚いたが、咲茅はすぐにまた鋭く見下すような視線を向けて笑った。

「…世界の違いを思い知るがいいわ」

『!』

咲茅の高笑いが階段に響く。
言いようのない悔しさがこみあげてきたが、何も言い返せないままでいた。
3人はいなくなる。それでも動けなかった。

行きたくない…。

それは光くんが…咲茅と仲良くしてるのを見たくないから…?

何で見たくないのかな?

…今の咲茅が嫌いだから?







「…できた!」

ミカにドレスを借りた。

『…わ…かわいい』

真っ白の首ひもの太いヒザ丈のワンピースに胸元にはピンクのコサージュ。金のショール。
白のパンプスにはコサージュとおそろいの小さな花。

「似合ってる」

『そうかな…』

久しぶりの鏡の前でのファッションショー。
ちょっと楽しかった。

「…あたしは行く気ないけど…大丈夫?」

『うん…大丈夫。ありがとう』

ミカが心配してくれて嬉しかった。
そして…今日こそ光くんへの気持ちを完全に断ち切りたかった。

届かないなら…きっぱりあきらめたい。

きっと咲茅との仲を見せつけられたら…あきらめられると思った。





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あきゅろす。
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