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High&Low
離れた距離




私はちょっと迷ったが、光くんの部屋へ。

すると、ベットでゴロゴロしていた光くん。起きていたが、起き上がる気はないようだ。

「よ〜り〜」

なんだか楽しそう。

「のど渇いた〜」

『…はい』



コップに水をくんで戻る。

『どうぞ』

「ん〜?」

渡そうとしたが、光くんはヘラヘラしながら笑い、受け取らない。

『…失礼します』

私はベットに乗り、光くんを後ろから抱き起こして、支えながらコップを口へ。

すると、光くんはおとなしく水を飲んだ。

「……は〜」

口から少しこぼれた分は、私の服のそででふいた。

すると、その腕を光くんにつかまれた。

「…より…」

『…っ…!』

光くんは手のひらにキスをした。

「より…ごめん」

『!』

「あんなつもりじゃ…」

光くんが私の腰に手を回して抱きついてきた。

「傷つけるつもりなんて…なかったのに……ごめ…」

『………。』

泣きそうな声で言う光くん。
何度も「より」と呼ばれ、ドキドキした。

光くんの寝息が聞こえる。
どうやらそのまま寝たようだ。


私は、ますます自分の気持ちがわからなくなる。

涼先輩にもドキドキする…

光くんにも…。


わかんない…。


私は、ふとんに光くんを寝かせて、部屋を出た。







次の日、光くんは起きてこなかった。

『…小笠原さん?』

ベットから動かない。
私はゆっくりと近づいた。

すると、モゾモゾ動いた光くんがこっちをダルそうに見ながら言った。

「…頭痛い」

『!』

私は、まだ光くんに触るのはちょっと抵抗があったが、おでこに手を伸ばす。

『…熱は…ないみたいですけど…』

「…無理。起きたくない。何も食べたくない。気持ち悪い…でも、腹減った」

…ちょっとわがまま。
こんな光くんは初めて見た。

『…仕事は…?ないんですか?』

「…今日は…たぶんない」

『じゃあ、寝ててください。おかゆなら…食べれますか?』

「…うん」

…素直な光くんは、昔のようでかわいい。








「…いただきます」

『!』

何かを作って初めて言われた。
私は、動揺して何も言えなかった。
自分でふーふーしながら食べようとしている。

「…熱っ!?」

『…大丈夫ですか!?』

「…ヤケドした…」

口を押さえたままの光くん。
私は心配して、

『口の中ですか?外ですか?見せてください…』

そう言いながら、光くんの手を口からどけると、とたんに光くんが間近に感じられてドキドキした。

「…舌」

『あ…ごめんなさい…』

直視できない。

『ちゃんと…冷ましますね』

「!」

私は、光くんからスプーンを取り、ふーふー冷ましてから光くんの口元へ。

ちょっと恥ずかしがる光くんだが、おとなしく食べた。

「より…学校は?」

『今日は土曜日ですよ』

「あ…そうか」

おとなしく食べる光くんは、昔と変わらない気がした。
最近の出来事がなければ、確実にまだ…大好きだった。





「…より」

『はい…?』

おかゆを食べて、薬を飲んだ光くんは寝ながら聞いた。

「…なんでそんなに優しくできるんだ?」

『え…?』

「俺は…あんな冷たく…乱暴に扱ったのに…」

『………。』

光くんは背を向けて寝た。

『…昔、私は小笠原さんにヒドいことを…いっぱいしました』

「………。」

『だから…仕方ないと思ってます。私を許せない気持ちも…わかるから』

私は、空になった茶碗と、薬を飲んだ残りの水の入ったコップをまとめた。

そして、背を向けたままの光くんに言った。

『ごめんね…光くん』

「!」

私が出ていくと同時に光くんは起き上がったが、遅かった。








次の日、日曜日だが光くんは仕事。
朝、マネージャーが来ると、そのまま仕事に行ったのでほとんど会話はなかった。

一人残された私は、近所のお店に食料品の買い出し。

『…今日は…春巻かな』



そんなこんなで、マンションに戻ると…ドアの前に人影が。

私には、すぐわかった。

『…お母さん?』

「あ…美依!」

お母さんは、走りよって私を抱きしめた。

「今までごめんね…迎えに来たわ」

『!?』

私は、お母さんの行動に混乱した。
お金のことは気にしてないのだろうか?

「…小笠原…さんがね、忙しくなるから、あなたのこともう返すって」

『!』

「でも、契約違反だからって…300万もくれたわ!」

『…!』

光くんは…本当に何もかも突然だ。
私は買い物袋を床に落とした。

「帰りましょう…」


…また光くんが手の届かない人になる。

『うん…でも、荷物準備するから…先に帰ってて』

「でも…っ」

『大丈夫。ごちそう用意しといてね』








私は荷物をまとめた。
光くんと…もうこの部屋で過ごせないと思うと、心に穴があいたようだった。

きっと、もう目も合わないし、絶対話もできない。

そう思うと、ちょっと寂しくなった。

でも、すべては命令。逆らえない。
お金をもらって…お母さんはあんなに嬉しそうだった。


私は、最後に今日作ろうと思ってた春巻を作った。



『光くんは…覚えてるかな?』

春巻をくるくる巻いて揚げながら私は昔のことを思い出した。








「よりちゃーん」

『何?』

いつものように庭で咲茅たちとのティータイム。光くんが走ってくる。
7歳のころ。

「よりちゃん、前におじいちゃんが作った春巻…おいしいって言ってたよね?」

光くんはタッパーを開けた。中にはちょっと形がくずれ気味の春巻。

「だから…作ったんだ。よりちゃんの誕生日のお祝い!もーすぐ8歳だもんね」

光くんはキラキラした笑顔で言った。
私は嬉しかったが…

「…何この食べ物。食べれるの?」

咲茅が言った。みんな大笑い。

「美依ちゃんってば、こんなものが好きなの?」

バカにしたように咲茅に笑われ、ムッとした私は、

『…誰が!こんな犬のエサみたいなのいらないわ!』

思わずムキになり、光くんを突き飛ばした。
すると転んだ光くん。みんなが大笑い。

『あ…』

やりすぎたと、謝ろうとしたが、光くんは落とした春巻を見て泣いていた。

「…よりちゃんなんか…大嫌いだ!」

『!』

私は…ズキッと心が痛くなった。
光くんはそのまま走り去り…それから2人の距離は離れていった。


あのあと私は、みんながいなくなってから、タッパーから落ちなかった春巻を食べて、泣きながら謝った。

『ごめんね…ごめんね光くん…』








子どものころは素直じゃなかった。

嬉しいことが、嬉しいって言えなかった…。

変なプライドが邪魔をした。


だから…

『ありがとう…光くん』

最後に、テーブルに春巻を置いて…私は光くんのマンションを出た。



また…遠くなった。

でも、なんだか心は軽い。



言えなかったありがとうの気持ちが伝えられたからだろうか。





『ただいま…』

小さなアパートの家に帰ると、父と母が笑顔で迎えてくれた。








「光!仕事する気あるのか!お前のせいで現場混乱したんだぞ」

「………。」

マンションに戻ってからも玄関で説教中の光。

「アイドル連れ回して…あのコの事務所になんて弁明すれば…」

マネージャーが頭を抱えているのを見て、光はクスクス笑った。

「相手は「俺」だぜ。撮られたって、感謝だろ。むしろ狙ってるかもな。裏切りはこの世界の常識だろ」

「!」

「…仕事はこなすよ。事務所にも羽島さんにも迷惑はかけないようにする。でも、やめろって言うならすぐにでもやめる」

「光…」

「ごめん…羽島さん」

マネージャーはタメ息をついた。

「お前は…善いときと悪いときが極端だな。なんでもキッパリしようとするな」

「………。」

「明日から2日はオフだ。ゆっくり休め…3日後は打ち合わせあるから、連絡よこせ」

「…わかった」

「…美依ちゃんは?」

「…帰した」

「!」

マネージャーは玄関のドアを開けながら言った。

「素直になれよ…光。あのコはお前が信じれば裏切らないよ…」




マネージャーが帰り、リビングへと向かった。
電気をつけると、ダイニングのテーブルに皿がのっていた。

「!」

ラップされていたが、中はちゃんと見えた。
春巻だ。それ以外は何もない…。

「…より…」

テーブルの前で、立っていられなくくずれた光。
涙が流れた。

美依が、あのときの春巻のことを覚えていたのだろうか…

それとも偶然?

「より…俺…どんどん独りになってく…」


声を出さずに泣きながら…美依を手放した寂しさと闘う光。

助けなんて…誰に求めればいい?





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あきゅろす。
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