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Mid Summer
プレイボール



「やっと…ココの高校生になれたっ!」

嬉しさ爆発で校門の前で笑う、真南(まな)は今年からこの桜岡高校に通うことになった15歳の新入生。

今日は入学式で、母親と一緒に来ている人がほとんど。

「………。」

その中を真南は…独りで歩いた。
すると、同じく独りで来ている理衣(りい)を見つけた。
おとなしそうで、ちょっとオドオドしている理衣は、真南の目についた。

「…誰か探してる?」

たまらず、真南が話しかけた。

「!」

理衣はすごく驚いたようで、一瞬言葉につまった。
それが、真南と理衣の出会いだった。


「あ…あの、私…親が来れなくて…1人…で…」

ボソボソ話すのを真南は一生懸命聞き取ろうとした。

「そっか。じゃ、一緒に行こ!」

「…え!?」

「独り同士。クラス割り見てこよーよ。同じだといーね」

真南は、理衣の手を引いて、掲示板に貼りだされたクラス割りを見に行った。

結構、無理矢理割り込んで一番前へ。


「………あ、私C組だ」

真南が言うと、理衣がちょっと嬉しそうに笑った。

「私もC…」

はにかんだ理衣は、本当に少女のままのようで可愛い。

「あ、名前聞いてなかったね。私、葉月(はづき)真南。真南でいーよ」

「…武山…理衣です。よろしく…真南…ちゃん」

理衣は、まだ緊張しながら話していたが、真南は気にしなかった。

「よろしく、理衣」




入学式の前に、一旦生徒は親と別れてクラスに行く。
真南と理衣も2人でクラスに向かった。

ここは男女共学なので、男子も女子も初々(ういうい)しく、緊張しながら話してたり…妙に意識して話せなかったりしていた。

もうすぐ体育館へ移動になるので、真南と理衣はおとなしく席に座った。
理衣の席の方は静かだったが、真南の方はうるさかった。

理衣の席は真ん中の一番前。真南の席は端から2列目の一番後ろ。


「えー!?矢代(やしろ)君って、波中の野球部のエースだった矢代君でしょ?」

「秋人(あきと)でいーよ。まぁ…俺、野球の天才だからやってるだけ…てか、よく知ってんね」

「私、中総体で見たことある〜。吹奏楽部だったから。すごくカッコい〜し強くて、相手チームなのに応援しちゃった」

「そっか。こんなカワイイコが応援してくれてたんだ。もっと早く気づけばよかった」

「!」

「カワイイ」の言葉にちょっとテレてるのは、秋人の前の席らしい女子、森本るな。
真南は2人と目を合わせることもなく、ただ黙って座っていた。
…というより、ちょっと不機嫌。

すると、秋人が真南の存在に気づいた。

「あ、お隣サン?よろしく。俺、矢代秋人」

「葉月…真南」

「真南か。カワイイ名前だな」

矢代が笑いながら言うと、さっきカワイイと言われたるなはムッとした。

「…勝手に呼び捨てにしないで」

「…え?」

真南は呼び捨てにされて、余計不機嫌になっていた。

「あんたみたいな人に、名前呼ばれたくない」

「何?怒ってんの!?」

「別に…」

真南はうつむいて、秋人の方は見なかった。
しかし、秋人は真南をしばらく見ていた。

すると、真南は他の人とは気さくに…むしろ積極的に話していた。




そしてクラスごとに体育館に入場して、入学式。

校長の話が終わると、「新入生の言葉」だった。


『新入生代表…葉月真南』

呼ばれたのは真南だった。

「…はい」

真南は返事をして立ち上がり、ステージ上から笑顔で原稿を読みながら話した。
真南が「新入生の言葉」を言うということは、真南はこの学校にトップの成績で入学したということ。

その事実に、理衣も秋人もるなもビックリした。





『……最後に…』

原稿を折りたたみながら、真南が言った。
マイクで拡張された声は、体育館の隅々まで響いていた。

『私、野球部のマネージャーになります。先輩方、よろしくお願いします』

真南は、そう言って頭を下げた。
どよめく在校生たち。

その中の1人が誰よりも驚いていた。
野球部キャプテンの3年生…小澤久志(おざわひさし)だ。

真南を見つめながら…固まっていた。

「真南…」







クラスに戻ると、さっそく真南にからむ秋人。

「真南、マネージャーになるんだ」

「………。」

秋人は楽しそうに話していたが、真南はまったく逆。

「俺、野球部入るし…ま、俺は即レギュラーだろーから、色々よろしく」

「………。」

調子のいい秋人。秋人はかなりの自信家。


「別に…あなたのマネージャーになるわけじゃないし。それは他の人に頼めば?」

「冷てぇなー。ねぇ、何で俺にそんな冷たいわけ?まだお互いによく知らないじゃん」

「……野球を軽くみてるから」

真南が答えるのと同時くらいに、

「真南!」

廊下からの声に、真南と秋人は振り返った。

「あ…」

真南は、久志を見ると懐かしそうな目をしながら、廊下へ。

「久志先輩…お久しぶりです」

「久しぶり…元気にしてたのか?」

「はい」

まるで恋人同士のような雰囲気。
1年生のクラスに3年生が来たことで、ちょっとした注目の的。
久志はテレていた。


「この学校…来たんだ。俺を追いかけて?」

「違いますよ…」

真南がクスクス笑うと、久志はちょっとホッとしたような表情をした。

「わかってる。でも、樹(いつき)がこの高校来たがってたからな」

「…はい。それが半分ですね。あと半分は、私の大切な人がココの野球部OBなんです」

「樹以上に?」

「樹とは違った意味で」

久志と真南は2人にしかわからない会話をしていたが、秋人はバレないようにばっちり聞いていた。

「とりあえず、歓迎するよ。俺、キャプテンだから。よろしくな」

「本当ですか!?よろしくお願いします」

「あぁ…じゃ…」

久志と楽しそうに話していた真南。
だが、秋人と目が合うと表情が無くなった。


「樹って…誰ー?彼氏?」

「!」

何気なく聞いた秋人だったが、真南のカンに触ったようだ。
バシッと素早く真南はビンタしていた。
驚く秋人に、静まる教室。

秋人がゆっくりと真南を見ると、真南が表情を崩さずに涙を流していた。





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