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Cross Road
賭け(秀)




雨が降っている。大した量ではない。

「秀様、濡れます!」

運転手が傘を持ってきた。

『いい…大丈夫だ。お前は車で待っててくれ』

「…かしこまりました」

運転手は傘を引っ込め、車へと戻った。

『………。』

秀は、どうしようか迷ったが、家の中へ入って行った。
玄関を開ける前に、できるだけ雨の雫を振り払った。


狭い…な。裕貴の家よりは広いか。

初めて入るアズの家。アズがずっと過ごしてきた家。

アズの…家…

なんだか、ドキドキした。


2階から話し声がした気がしたので、秀は2階へ。
静かに階段を昇った。

アズの声は聞こえないが、さっきインターホン越しに聞こえた声がする。
2階の階段近くの部屋。ドアも少し開いている。

あそこが…アズの部屋…。

秀は、どんなだろう…と想像中。
想像しながら、ドアを開けた。

「…私…いないって…!」

瞬間、アズの驚いた顔が目に入った秀。
久しぶりのアズは…見ただけで胸が高鳴った。
しかし、アズは布団に潜った。
秀は、とりあえずアズの母親に挨拶。

『…すみません。勝手入ってきてしまって…』

「あ、いいのよ。気にしないで。ゆっくりしていってね」

笑顔で丁寧に受け答えをした。

「ジュ…ジュースでも持ってくるわ」

さわやかスマイルにちょっと動揺したアズの母は、慌てて1階の台所へ。
これで2人きり…秀は、襲いたい衝動に負けないように頑張っていた。

…ダメだ…今は…

今は…南野からアズを遠ざけるのが先だ…。

無言で、秀に背を向けたまま布団に潜っているアズの布団を、ガバッと勢いよく奪い取った秀。
全身丸見え。生足も…パジャマは、タオル地の白いワンピースタイプのもの。エリ元やそで口にピンクのレースがあり…可愛い。

…うわ…ヤリてぇ…

衝動を抑えるのがキツくなりつつある秀だったが、何とか平静を装った。

『アズ…』

「…や…」

アズが布団を奪い返そうと起き上がり秀の手の中にある布団を引っ張る。

秀は、そんなアズの手をギュッと握った。

「!」

ビックリしたアズは、布団を引っ張るのをやめた。
秀は、アズの手の小ささを思い出し、胸が苦しくなった。

「…っ…!」

手は、しっかり上から握った。
アズは、ギュッと目をつぶっていた。
それをただ見ている秀。

可愛い…

誰かをこんなに可愛いと思ったことは今までにない。

…そしてこの感情…

言葉にするなら…




愛しい…。

秀は、アズがそっと目を開けてゆっくりと秀を見るのをジッと見ていた。

目が合った。
潤んだ瞳。熱があるのか熱い体。


『アズ…俺の家に来ないか?』

「!?」

秀の濡れた髪からの雫が2人の手にたれてきた。
アズは、ビックリして硬直。秀はアズの手を、さらにしっかりと握った。


「…そ…そんな…何で私が…」

動揺しすぎでパニック状態のアズに、秀は言った。

『…来るんだ』

「!」

南野なんかに…もう二度とアズは触らせない…。

アズが返事に困っている。秀は、少し焦った。握った手に頭を乗せて、なかなか出ない声を振り絞るような小さな声で言った。

これは…賭けだ…

『頼む…来てくれ…』

「!」

…このまま放っておいて欲しいなら…仕方ない…。

秀は、アズの答えをジッと待った…。


「…はい」

『!』

アズの顔を上げる秀。
嬉しさのあまり、アズをそのままお姫様抱っこ。

「…ひゃ…っ」

アズは、秀の首に手を回した。しがみついていた。
秀は、そのまま1階へ。

なんか…この瞬間…

安らぐ…

アズの匂いだ…。

『…お母さん、アズをしばらくお借りしてよろしいでしょうか?ちょうど家での働き手を探してまして…』

「「!」」

台所にいるアズの母に、秀が言った。
アズも母もビックリ。アズは恥ずかしがったが、母は大喜び。

「どーぞ、どーぞ。ふつつかな娘ですが…」

「お母さんっ!」

と真っ赤なアズ。

なんかこの家族…おもしろい。

秀は、アズを抱えたまま家を出て、待たせていたリムジンへ。





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