Cross Road 同じ日に(梓) 『…ち…違うもん』 アズは、秀の手を振り払うようにして体の向きを変え、自分でブラウスのボタンを閉めた。 すると、授業の終わったクラスメイトがわいわい騒ぎながら戻ってきた。 アズはちょうどネクタイを締めたところ。 秀は、教室を出ていった。 「…アズ!?」 理沙ちゃんが教室に飛び込んできた。 どーやら、教室を出た秀とすれ違い嫌な予感がしたようだった。 『理沙ちゃん…ごめんね…教科書見つからなくて…』 「…そんなことより!」 机をたたきながらの叫び声に、周りが一斉にこっちを見たので、理沙は声のボリュームを落として、アズの前の席のイスに座った。 「高柴 秀と一緒だったの?」 『!』 アズは、ドキッとした。さっきまでのコトが頭をよぎる。 「…なんかされた?大丈夫?」 理沙が、アズを下からのぞき込むように言った。 すごく心配してるのがアズにも伝わる…。 『…だ…大丈夫だよ。何もないって…高柴くんは、今来ただけだし…』 …ごめんね、理沙ちゃん… アズは嘘をついた。理沙には…こんな関係を知られたくなかった…。 こんな…説明もできないような関係…。 『…あーぁ』 嘘…ついちゃった… 昼休み、アズは理沙に嘘をついた罪悪感で1人…悩んでいた。 …屋上でも行って…頭冷やそ…。 アズは階段を昇り、屋上のドアノブに手をかけた…。 すると… 「…や…誰か来ちゃう」 少しだけ開いたドアから、女の子の声…。 アズは、ゆっくりドアを開けて屋上に出て周りを見渡した…が、誰もいない…。 …気のせい? そう思い、ドアづたいに壁を歩くと、また声がした。 「…来たら来たで、興奮するだろ…?」 『!』 …聞き覚えのある声…。 高柴くんの…声だ。 アズは、そこで戻るべきだったと…後で後悔した。 思わず…声のする、コンクリの壁の陰をのぞいてしまった。 「そんなことな…あんっ」 『!』 そこには、秀と1年の女の子が…激しく抱き合っていた。女の子は壁に手をついて、秀は後ろから入れていた。 アズは、世界がゆがんだ…と感じるほどめまいがした…足に力が入らない。 また… 私としたばっかりなのに… そんなアズに追い打ちをかける女の子と秀の一言。 「あぁ…ん、シュウ様ぁ…気持ちイイ?私の中…気持ちイイ?」 「…あぁ…っ…」 『…っ…!』 アズは音を立てないように…声を出さないように口を手で抑えながらその場を去った。 ドアを静かに閉めると、 「アズちゃん…?」 『!』 声をかけられて、ビクッとしたアズ。 振り返ると、階段を昇ってきた…裕貴がいた…。 『…新藤く…っ!』 アズは、泣き顔を見られてしまい、パッと慌てて顔を背け、走ってその場から逃げようとした…。しかし、 …泣いてたなんて…高柴くんに言われたら… ウザい女になってしまう… アズはそう思い、秀より背の高い裕貴と目線の高さが同じになるように、裕貴より2段上の階段で足を止め、制服の腕のすそをつかみながら言った。 『…高柴くんには…言わないで』 「…え…?」 アズは、涙が止まらない顔をこれ以上見られたくなくて、階段を走って降りた。 そして、女子トイレの個室に駆け込むと…誰もいないトイレで、せきを切ったように泣いた。 涙が止まらなかった…。 私で足りないなら… どうして触るの? どうして…抱くの? 最初から…そのコだけにすればいいのに… そしたら…こんな子どもっぽい体… 気持ち良いなんて… 嘘…言わなくていいのに…。 ダメだ…全然我慢できてない。 アズは、胸が引き裂かれそうな痛みに負けないように、声を押し殺して泣いた。 声を押し殺した分、涙が流れた…。 [前へ][次へ] [戻る] |