Cross Road
不安と安堵(秀)
…とは言っても、この街で知っている場所なんてない。
秀はフラフラと歩いて、気づいたら海に着いた。
『海…キレイなとこだな』
この夏休みで初めてゆったりとした気分になった秀は、砂浜に座り、海をながめた。
「え〜かなりイケメン!」
「1人かなぁ?」
海に遊びに来ている女の子達がヒソヒソ。
秀は気にもしなかった。
聞こえてはいたが、何とも思わなかった。
ちょっと自分勝手な衝動を抑えるだけで、アズが戻ってくるなら…いくらでもできると思った。
この電話が鳴ってくれるなら…
俺は何でもする。
秀は、まっすぐ…海だけを見ていた。
すると、いつの間にか夕方。周りに人はいなくなっていた。
遠くにサーファーと家族連れが数人いるだけだった。
「………。」
秀は、なぜ自分がここにいるのか…何をしているのかわからなくなり、帰ろうと思ったが、夕日が沈むのを見てからにしようと思った。
「た…高柴くん…」
『!』
砂浜に座りながら、ボーッと海を見ていた秀は一瞬、幻聴?と思ったが、アズの声だと思い、すぐに振り返った。
「…学校そばだから」
嘘!?俺、ストーカーみてぇ…。
『…そーなのか?この辺の地理はまだわかんないからな…ごめん』
「!?」
アズに迷惑がられたくない秀は、すぐ立ち上がって帰ろうとした。すると…
「待…って」
『!』
アズが引き止めてくれた。思わず…だったようで、アズはちょっとオロオロしていた。
「本当は…今……電話しようと思ってたの」
『!?』
「だから…謝らないで」
アズそう言った瞬間に、秀はアズを力強く抱きしめた。
さっきまでの…鳴らない電話を待っていた気持ちがむくわれた気がした。
「!」
アズは振り払わなかった。秀は更に力強く抱きしめた。
『アズ…俺、ずっとそばにはいれないけど…アズだけが…好きだ』
本当に心の底からの偽りのない言葉。
こんなに誰かにまっすぐに本音を言ったことがない秀は、内心不安でいっぱいだった。
アズからの拒絶を恐れた。
「秀…くん…」
『!』
すると、アズの口からは意外な言葉。
秀は初めて名前で呼ばれた。
たまらなく嬉しかった。世界中の人に自慢したい気分って、こんなんだと思った。
そこで秀は…
『もう一回…言って』
おねだり。
だが、アズは…
「…もう言わない」
『何で!?』
冷静に断った。ショックを隠しきれない秀は、抱きしめるのをやめた。
アズは顔を背けたので秀は更にショックを受けた。
「だって…高柴くんの彼女たちが…よくそう呼んでた。だから…」
アズが言う前に秀が言った。
『俺の彼女は、後にも先にも梓だけだよ』
なってくれるなら…だけど。
「!」
アズが動揺しているのが秀にもわかった。
「…っ冗談やめて」
『冗談なんかで言うかよ』
秀は大まじめ。アズの顔がちょっと赤くなってるのが見えた。
秀は自分も真っ赤だろうから見られたくなかったが、冗談ではないとわかってもらうために我慢した。
ちょっと…時間が止まったような…幸せな時間。
でも、すぐにお別れの時間は来る。
明日…俺は帰る。
そう思ったら、笑えなくなった。
すると、アズが深呼吸してから言った。
「じゃあ…今から高柴くんが泊まってる部屋に…遊びに行ってもいい?」
『え…?』
まさかアズにそんなことを言われるとは思っていなかった秀は、かなり驚いた。
しかし、言ったアズはちょっと不安そうだ。
…秀は優しく言った。
『その前にデートしよう』
前は台無しにしてしまった…アズとの初デート。
「!」
『アズがいる街を案内してよ』
アズの好きなモノを…見てみたい。
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