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Cross Road
様々な別れ(梓)






ちょっと沈黙が続いた後に、振り返った竜二が言った。

「あんた…好きなヤツいるだろ?」

『…へ!?』

アズはビックリしながらも、ちょっと動揺した。
竜二はクスクス笑った。

「わかりやすっ…」

アズは一瞬、竜二の笑顔に見とれた。
こんなに穏やかに笑っているのは初めて見た。

しかし、すぐに目をそらした。
竜二も再び海を見た。

「やっぱり…雰囲気が似てるよ」

『私?誰に…?』

「俺の好きな女」

『!』

キッパリ言う竜二にアズは驚き、ドキッとした。

「なんか…穏やかになれるんだ」


『どうして…別れた…の?』

アズが自転車を停めて、堤防に寄りかかりながら、竜二を見た。
…遠くを見ていた竜二は…視線を落とした。

「もう…会えねぇんだ…」

『?』

「死んだ…ってこと。病気でな」

『!』

瞬間、アズは聞いてはいけない質問をして、わざわざ言わなくていーことを言わせてしまった!と後悔した。

『ごめん…!』

アズがすぐに謝ると、下を向くアズに向かって言った。

「いや…いーんだ。もう1年前の話なんだ。いい加減、忘れねぇと…」

アズがゆっくり竜二を見ると、竜二は哀しそうに笑っていた。
胸が…痛んだ。

「…でも、何でか…」

竜二は海を見た。涙が見えた気がして、竜二から目をそらした。

「忘れようとすればするほど…思い出すんだ。何気ない仕草とか…会話とか…」

『………。』

「俺、初恋だったけど…最初に最高の女に会っちまったんだよ…」

最初に…最高の…。

今日の竜二はよくしゃべる。竜二の手元を見ると、砂浜側に向かって…花束を持っていた。
ピンクのチューリップの束。

アズはなんとなく…今日が竜二の彼女の命日なのだと予感した。

「どんどん存在がデカくなる…手に入らないって…」

『…うん』

手の届かない存在のコトを想う気持ちはよくわかった。
だが、まったく届かない存在になってしまうコトがあるなんて考えたこともなかった。

そんなこと…考えただけで怖かった。




『…忘れなくて…いいと思う』

アズは、ちょっと泣きそうになりながらボソッと言った。

『思い出もなかったことにしちゃうなんて…哀しいよ』

「………。」

『無理に忘れようとするから…逆に思い出す時間が…増えて……』


アズは半分、自分に言い聞かせていた。

『彼女と過ごした時間は、彼女の幸せな時間だもん。忘れちゃ…ダメだよ』

竜二はアズを見た。アズも竜二を見上げた。

『でも、止まっちゃ…ちゃんと前に進まないと。時間は過ぎるし…生きてるんだから』

アズは、ポロポロ泣いていた。

「………。」



すると、竜二がクスクス笑った。

「やっぱり…あんたは似てる」

『!』

竜二は体ごと振り返り、花束を横に置くと、手でアズの涙をぬぐった。

「あいつも…すぐ他人に感情移入して、よく泣いてたから…」

その時の笑顔は…優しさに満ちていた。
学校にいるときは、そんな顔は絶対しない。

「ごめん…こんな話…するべきじゃなかったな。」

竜二が言うと、アズは竜二の涙をぬぐう手をつかんで、首を横に振った。

竜二は、ちょっと驚いていた。だが、後にクスッと小さく笑う声がした。
アズは首を横に振るのをやめた。

「…似てるから、あんたの泣き顔は見たくない」

『!』

ちょっと告白されたような気持ちになり、ドキッとした。





「…児島!?」

『「!」』

そこへ、自転車に乗った深雪が現れた。
アズがなかなか来ないのでお迎え。

「アズちゃん?2人で何して…!?」

深雪は驚きながらも、アズが竜二の手をつかんでいるのをバッチリ見た。
慌てて離れたが、もう遅い。


「…じゃ、俺…行くとこあるから」

『あ、うん…』

深雪が近づくと、竜二は花束を持って海とは反対へ歩いて行った。




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