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Cross Road
離れた距離(梓)




すると、テラスのイスに座りながらボーッと外をながめている秀がいた。


『高柴くん…?』

アズが大きな窓を少しだけ開けてテラスに出た。
声をかけると、振り返った秀は笑顔だった。

「…寝れた?」

『うん…』

アズは秀の隣までゆっくり歩いた。

「いつ…転校するんだ?」

『…来月…くらいかな』

ごめん…
本当は…来週だけど。

「そうか…」

『うん』

アズは、秀のイスの背もたれに手を置いた。

「朝飯…食うか」

『はい…』










ご飯を食べて、学校に向かうリムジンの中。
秀とアズは向かい合わせに座った。

たぶん…学校に着いたら…


夢の時間は終わりだ。


出会ったことさえなかったかのように…

他人になる。


仕方ない…

好きだと言ってくれたけど…

会えるまで待てるとは…

言ってはくれないのだから。



『…この辺で降ろしてください』

「!」

『あとは…歩くから』

学校まであと数百メートル。

アズの言葉に従い、秀はリムジンを停めた。




『じゃあ…行くから…ありがとうございました』

アズが、運転手が開けてくれたドアから降りる。

「………。」

車に乗ってから、2人は一言も話さなかった。
アズは何度か秀を見たが、秀は一度もこっちを見なかった。

運転手がドアを閉めると、スモークガラスなので、中はまったく見えなくなった。

何も…言ってくれない。

当然だけど…

淋しいな。


車はアズを置いて走りだす。

今日は…理沙ちゃんに…話さないと。

アズは、ゆっくり…自分のペースで歩いた。








「おっはよ〜アズ」

『!』

理沙に頭をモジャモジャにされたアズ。この日常がなくなるのはちょっと淋しい気がした。

『理沙ちゃん…』

「ん〜?」

『次の休み時間…話あるんだけど…いい?』







休み時間に理沙を廊下に呼び出して話をしているアズ。

「…は??」

あまりに突飛な話に理沙は動揺…というより、混乱しているようだ。

『今週末…編入試験受けてくる。で、その後…なるべく早く行くつもり』

「ちょい待ち!話が見えないんだけど…」

『だから…転校する…の』

2回目はさすがに言いづらかった。
理沙のショックな顔がアズをまっすぐ見ていた。

「嘘…!?何で?」

『理沙ちゃん…』

「嫌だ…アズいなくなったら淋しいって…」

理沙の目からポロッと大粒の涙が流れた。
すると、理沙はアズに背中を向けた。

『ごめんね…でも、時々は帰ってくるから』

「……っ…」

『その時は、絶対遊ぼ』

理沙は涙をぬぐった。

「うぅ〜…絶対だよ?約束だからね!」

『うん』

2人はまた笑い合った。











そして週末になり、父親と一緒にアズは飛行機で北海道へ。

編入試験を受けた。
荷物もちょっと運んだ。ベットとか大きいものは、こっちでお父さんが買ってくれるらしい。

「向こうに…気がねなく帰れるようにな。あそこはお前の家のままだ」

…だそうだ。
いつ帰ってもいいと言ってくれたことで、アズは自宅が2つできたような気分になった。









そして、いつも通りに月曜日登校した。

理沙と秀以外には転校の話はしなかった。
黙ったまま…行くつもりでいた。



「シュウ様ぁ〜」

『!』

教室に1年の女子が来た。
ここ最近、秀の女関係は昔のように派手になりつつあった。

「今日、お暇ですかぁ?」

「さぁ…どーしよっか」

「え〜!?遊んでくださいよぉ」

アズは見たくなくて、教室を出た。

もう…関係ないのに。


もうすぐ…会えなくなるのに…。



どうして…


こんなに苦しいの?



アズは、早く秀から離れたくて仕方がなかった。

一度あんなに近づいて…

離れてしまったことは、

ただ遠くから見てるより…

ずっと…つらい。





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