結婚した男U husband and wifeA 結局、渉とは何もないまま行ってしまった。 夜、寝室をノックしようとしたが、勇気がなかった。 断られるのも怖かったし、渉がしたいと思ってくれなきゃ意味がない。 「…はぁ…」 「あ、またタメ息」 バイトの休憩中、ルカに指摘されて、南美はハッとした。 「本日5回目で〜す」 「うそ?」 「本当」 バイトは街頭での試供品配り。 制服はちょっとミニスカだけど、サンバイザーとTシャツはかわいい。 「あれ?南美ちゃんって彼氏いるんだ〜」 ルカと仲良しのバイト仲間の日野(♂)が南美が指輪をしてるのを見て言った。 「うわ〜俺ねらおーかと思ってたのに」 「!」 南美が少し驚いていると、ルカが日野の頭をたたく。 「バカちん!残念でしたー南美は結婚してます〜」 「マジ!?」 「は…はい」 めずらしいものを見るような目で南美を見る日野。 「まだ若いのに…勇気あんね〜」 「………。」 バイトを何日かしてお金もたまったので、南美は渉に電話をした。 もう少しで1ヶ月。しかし、渉は電話にでない。 もう10時近い。まだ仕事をしているのでは…と、南美は少し心配になった。 『南美?さっきは仕事で出れなかった…どうした?』 1時間後、渉が折り返し電話をくれた。 「まだ仕事なの?大丈夫?」 『いや、もう帰ってきた』 「そっか…大変だね」 『早く帰りたいからな』 「!」 『こっちじゃいつも外食だ。南美の手料理が食べたい』 南美は渉がそう言ってくれて、南美は飛び跳ねたいほど嬉しかった。 「も、もうすぐお金たまるから…」 『あぁ…待ってる。南美が家にいないのなんて久しぶりで…こんなに静かだと思わなかったよ』 南美は嬉しくて顔が赤くなる。 「今週の土日…行くね」 「ね〜、コレは?」 「!…ほとんどヒモじゃない。そんなの無理…」 ルカと南美は下着売場に来ていた。 「でも、旦那様のためでしょ〜?このくらいの方が南美っぽくなくてドキッとしそーだけど」 「…そうかな」 見ていたのは黒のティーバッグのパンツ。 渉の気を引きたくて、セクシーなものを買おうとしていた。 「赤い下着も目立つし、南美にしては意外性あるかも」 「………。」 「…よし…っと」 新幹線で京都に向かう前に渉にメールをしといた。 〔今日の9:14の新幹線でそっちに行きます。アパートで待ってて。迷ったら連絡します〕 アパートは地図を置いていってくれたので、ちゃんと持ってきた。 買った赤い下着も持った。 もうすぐ渉に会えると思うと、南美はウキウキする気持ちを抑えられなかった。 新幹線であっという間に京都到着。 駅は高校の修学旅行以来で、ほとんど覚えてなかった。 「…どっちかな」 軽く迷子になっていた。 すると、電話が鳴る。渉からだ。 「もしもし?起きた?」 『起きてるよ。南美は迷子になってるだろ?』 「よ…よくわかったね」 『わかるよ。迎えに来てって言えばいいのに』 「そ…そんな迷惑はかけれないよ。私が一方的に押し掛けてるんだもん」 『………。』 渉の小さなタメ息が聞こえた気がした。 『…後ろ』 「え…!?」 南美が後ろを見ると、少し先の出入口に渉がいた。 「何で…せっかくの休みなのに…」 そう言いながらも南美は渉が迎えに来てくれて嬉しかった。 渉のそばまで走った。 「メールで目が覚めた…」 「そっか…ごめんなさい」 「嘘だって。朝から起きてたよ」 スッと渉が荷物を持ってくれたので、南美はおみやげだけを持って渉の後ろをついていく。 渉のちょっとした優しさに感動。 「…もうそろそろお昼だな」 車を走らせながら渉が言った。 「何か食べてく?」 「うん」 渉が車を運転するしぐさが好きな南美は、渉を見つめすぎないようにチラチラ見ていた。 「ココ、会社からも近くてよく来るんだ。南美もそば好きだろ?」 渉が連れてってくれたのは、老舗のそば屋。味のある木造のお店。 「うん。いただきます」 一口食べた南美ははしゃいだ。 「んー…おいし〜」 「そうだろ?」 渉も食べる。渉と向かい合って食べるのが、何より幸せだと感じた南美。 渉も結婚当初に比べて、少しずつ南美に心を開いてくれてきた。 そう感じると、南美は笑顔がこぼれた。 「何?」 「なんでもないよ。おいしいね」 「?」 ほとんど食べおわる頃、 「あれ?長谷部さん?」 スーツ姿の男が声をかけてきた。 「中西?お前、今日も出勤?」 「あー…後輩のしりぬぐいですわ。あれ?長谷部さん、なんやかわいいコやないですか」 南美は急に話題に混ぜられてビックリ。 「妻だ」 渉にそう言われてテレた南美だが、あいさつをした。 「南美です。初めまして」 「このコがウワサの奥さんかいな。えらいべっぴんサンやな〜若すぎて浮気や思いました」 「!」 べっぴんって言われてちょっと嬉しい南美。 「こりゃ茜はかなわんな」 「!」 「…中西!」 渉が茜という名前に少し怒った。 「…っと、しゃべり過ぎましたわ。ほな、会社戻ります〜」 中西は嵐のように去っていった。 「………。」 「………。」 妙に沈黙。 南美は色々聞きたかったがやめた。 「土曜日でも…あんな風に仕事の日あるの?」 「…たまにな」 「大変なんだね…」 そのまま夕飯の買い物をして渉のアパートに。なんだか家とは違う感覚にドキドキした。 彼氏の家に遊びに来たみたいではしゃぐ南美。 「お…おじゃまします」 緊張もした。 すると、渉の携帯が鳴る。 電話に出ると、仕事の話のようだ。南美は買ってきて食材を冷蔵庫に。 「は…?夕方!?」 渉はそう言ってこっちを見た。 「?」 南美が不思議がっていると、渉が近づいて小さな声で言った。 「…中西がお前のことを部署でしゃべったらみんな会いたいって」 「え…?私?」 「南美が嫌なら断るけど」 「!」 せっかくだし、渉と2人きりでいたかった。 でも、言えなかった。 「…全然大丈夫。渉さんの仕事仲間だもん。あいさつくらいしなきゃ」 「南美…ごめんな」 気持ちを察してくれたようで、渉が頭を撫でてくれたので南美は嬉しかった。 渉は中西に返事をした。 「…早く帰れよ?」 「やっほ〜色々買ってきたで〜」 中西が入ってくると、続いて3人の男と2人の女。 「連れて来すぎだ!」 渉が怒って中西の肩をつかむと少し痛そうだ。 「あいたた…みんな気になってんて。社内でも人気モンの長谷部さんを射止めたんはどんなコかって」 「…渉さん?」 玄関先で騒いでいると、エプロン姿の南美がパタパタ走ってきた。 「えーっと…中西さん!」 「正確!よう覚えとったな〜」 「いらっしゃい」 南美が笑顔で言うと、渉は中西から手を離した。 「うわ、ホンマにかわいいで。水野」 「ホンマやな」 25歳くらいの水野と山田が南美に詰めよると、少し後ずさり。 すると、優しい感じの女…中西の妻の晴美が2人を軽くたたく。 「あたっ!」 「こ〜ら、ビックリしてるじゃない。かんにんな」 「いえ、ありがとうございます」 笑顔で頭を下げると、晴美も笑った。 「社長とは似とらんね」 すると、一番最後に入ってきたキレイな女が、南美を見下すように言った。 「たいしたことない女やないの」 「!」 「うちの方が勝ってる」 「こら、茜!」 「あ…かね…さん…?」 南美は名前に反応した。中西が言っていた名前。 きっと渉と何かあった人だ。 フイッと視線をそらした秋山茜(あきやまあかね)はそのままリビングへ。 「………。」 南美はなんとなく茜を見て、渉の元彼女の優花を思い出した。 きっと渉のタイプな女。 「南美ちゃんも座り〜」 「あ、はい」 色々買ってきてもらったものを出していると、中西が手招き。 「茜、長谷部さんの隣は南美ちゃんやろ!」 最後の皿を持っていくと、渉の隣には茜がいた。 キレイな茜が渉の隣にいるのは絵になる。 「えぇ〜動くのめんどうなんやもん」 「あ…私はこっちで…」 晴美と山田の間が空いていたので、そこに座った。 渉の方は見なかった。見たくなかった。 「ホンマかわいいなぁ。長谷部さんの奥さんやなかったら彼女にしたいわ〜。俺、山田直樹(なおき)言います」 「…南美です。初めまして」 「そやな。自己紹介まだやん」 中西が気づいて、みんな自己紹介をしてくれた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |