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結婚した男U
husband and wife




「…お、おやすみなさい。渉さん」

「おやすみ」

結婚して半年が過ぎた。
渉が笑って頭を撫でてくれる。
そのまま渉は自分の寝室へ。南美は寂しそうに自分の寝室へ。

「…はぁ…」

ベットに倒れこむ南美。
渉は昔より笑ってくれるようになった。
でも、夫婦としての夜は離婚騒動が解決したときの一度きり。

「なんか…ヘンだったのかな…」

初めてだった南美は、渉に不快な思いをさせたのでは…とずっと不安だった。

現に、南美はおもいきって一度渉を誘ったことがあったが「疲れてる」と断られていた。
本当かもしれないが、そうじゃないかもしれない。

そう思うと、もう自分からは動けない。
約束していたプロポーズもしてくれない。








「おかえりなさ…!」

渉が帰ってきたので、いつも通り玄関に走ったが、今日はぞろぞろ人がついてきていた。

「うぉ、新妻発け〜ん!」

「社長と似てないですね」

渉の後ろから2人の男。
南美が驚いていると、渉が謝る。

「悪い。連絡しようと思ったんだが…」

「サプラ〜イズ。突撃、お宅訪問」

酔ってテンション高めの男は、渉の部署の統括、田辺洋平(たなべようへい)40歳。直属の上司。

「田辺さん、少し静かにしましょうよ」

冷静な男は渉の部下、青木一義(あおきかずよし)23歳。
南美に歳も近い。

「…家を見たいって統括がうるさくてな…」

「うるさいとはなんだ」

「いや、うるさかったです」

3人でじゃれ合っているのを見ると、南美はおかしくてクスクス笑った。

「どうぞあがってください」

スリッパを出して渉のカバンを持った。

「ビールでいいですか?」

「あぁ…もうだいぶ飲んでるから少しでいい」

「はい」

パタパタとリビングへ走る南美。後ろ姿を見ていた田辺が言った。

「いい嫁だな〜。玄関までお出迎え。カバン持ち。いかにも新婚さん!」

「…俺もあんな人なら結婚考えます」

「青木、結婚なんてしないんじゃなかったのか?」

「相手によるってことに今気づきました」

3人は話ながらリビングへ。南美はキッチンから冷えたビールと冷やしたグラスを持っていく。

「へぇ…グラスまで冷やしてるんだ」

「はい。前に渉さんがその方がおいしいって言ってたので」

南美はビールとおつまみを出して部屋に戻ろうとしたが、田辺が止めた。

「せっかくだし、一緒に飲もうよ」

「え…?」

とりあえず渉の顔色をうかがうそぶりを見せると、渉が隣に座るようにと、ソファーをポンポンたたいた。

「…じゃあ、少しだけ…」

南美は座るとすぐに、みんなにお酌をした。

「…渉さん」

「あぁ…」

南美は渉にお酌をしながら、隣に座っているだけでドキドキした。
こんなに近くに渉がいるのは久しぶりのことで嬉しかった。

「南美ちゃんは?」

「あ…はい」

田辺がお酌しようとしてくれたのでグラスを取りに行こうとしたが、渉が手をつかんで止めた。

「お前、そんなに飲めないだろう」

渉がビールを一気に飲んでグラスを差し出した。

「同じグラスでいい。少しにしておくんだ」

「!」

渉のグラスを受け取った南美はそれだけで真っ赤。
南美は今まで渉のものを使ったことがなかった。それなのにいきなり間接キス。

「…頂きます」

田辺にお酌をしてもらうと、少し緊張しながら飲んだ。
少しだけ飲んで渉にグラスを渡すと、渉は残りを普通に飲んだ。
南美はそれだけのことでドキドキした。

「いい嫁だな〜。てか、かわいい」

「まったくです」

2人に言われて南美はテレた。

「ありがとうございます…でも全然…まだまだです」

「社長の娘さんって言うからどんなお嬢かと思えば、献身的だし…嫁、交換しない?」

田辺が渉に言うと、渉は笑いながら田辺にお酌。

「お断りします。誰にも渡しませんよ」

「!」

渉が本気で言っているのかわからないが、南美は嬉しかった。





「南美ちゃんは、長谷部のどこが好きなの?」

「!」

「あ!それ、俺も知りたいです」

渉がトイレに行っている間、田辺と青木が聞いてきた。

「…全部です」

「お〜、模範解答」

「俺も言われて〜」

みんなで笑い合う。

「でも…」

南美の表情がちょっと曇る。

「きっと渉さんは私のことは、私が渉さんを好きなほど好きじゃないから…」

でも、南美はすぐに笑った。

「もっともっと…頑張ります」







渉がトイレのついでに着替えて戻ってくると、

「えー!?懐かしい。今どこにいるか知ってます?」

南美と青木が楽しそうに話している。
輪から外れた田辺が渉に話す。

「2人、高校が同じだったみたいだぞ」

「!」

南美と青木は、高校時代の先生の話で盛り上がり。

「確か山梨辺りでまだ先生してるって…」

「そうなんだ」

入っていけない同年代トーク。

「…あれ?妬いちゃった?」

田辺にからかわれるように言われた渉は、余裕で笑ってみせた。

「全然。大人ですから」







2人が帰ると南美はせっせと片付け。

「急に悪かったな…」

お風呂をあがった渉が南美を手伝う。

「全然。楽しかった。懐かしい話もできたし。またいつでも呼んでください」

渉がグラスを下げると、南美が止めに入る。

「いいよ。私やるから。渉さん…明日も仕事でしょ?」

「南美だって明日学校だろう?」

「授業始まるの遅いから平気。渉さんはちゃんと寝て」

南美にグラスを取り上げられた渉はそのまま寝室へ。

「わかった…おやすみ」

「おやすみなさい」




片付けも終わり、お風呂もあがった南美は今日のことを思い出して幸せな気分になった。

隣に座れたことが嬉しかった。1つのグラスを2人で使ったことも。
でも、普段はなかなかしてくれない。

「渉さん好みって…どんなだろ…」

洗面所で鏡を見つめた。










「え…?今、何て?」

数週間後、夕飯を2人で食べていると、渉が言った。

「あさってから出張を頼まれた。京都に2ヶ月だ」

「!」

南美の中で、今までためこんでいた不安がさらに大きくなる。
ただでさえ、スキンシップ不足。2ヶ月も離れたら…渉を京都の女に取られてしまう。

「南美?」

「!」

ボーッとしていると、渉がのぞき込む。

「大丈夫か?急で悪い」

「う…うん。ビックリしただけ。そっか…2ヶ月…」

南美が少し落ち込むと、渉が頭を撫でてくれた。

「だから明日は外で夕飯食べよう。大学まで迎えに行くから」

「本当!?いいの?」

嬉しそうに南美が言うと、渉がクスッと笑った。

「あぁ…早く終わるからな」

「やった…」

南美は小さな声で喜んだ。








「え?じゃあ、今日はデート?」

「え!?」

ルカに言われるまでデートだと思わなかった。
外で待ち合わせて…なんて初めてだ。南美はヘンに緊張した。

「デート…」

帰り道、大学を出ると目の前の通りで渉が待っていた。

「!」

スーツをビシッと着こなす渉はやっぱりカッコいい。
南美だけじゃなく、通りすぎては何人もが振り返る。

「きゃ〜旦那様ステキ」

ルカが騒ぐと、渉がこっちに気づいた。

「南美」

少しだけ笑う渉の方に、ルカに背中を押されて歩く南美。

「…なんか…恥ずかしいね」

「そうだな…早く行こうか」

2人で少しテレた。
南美は渉もテレているのが嬉しかった。








「ねぇ渉さん」

「何?」

レストランで料理を食べながら話す2人。

「私、渉さんがいない間バイトしたいんだけど…」

「!」

「ルカがね、日払いのバイトしてて…やってみない?って誘ってくれて」

「…ダメだ。お前にそんなことさせたらお義父さんになんて言われるか…欲しいものは言え」

「でも…」

南美の料理を食べる手が止まる。

「渉さんいないと…することなくて…寂しいもん…」

「!」

「だから…時間あるし、ちゃんと自分で稼いでみたいの」

南美は渉の目を見て訴えた。

「それで…」

「?」

南美の顔が赤くなっていく。渉が不思議がっていると、おもいきったように南美が言った。

「お金たまったら…会いに行ってもいい?」

「…!」

「も…もちろんちゃんと確認してから行くから。突然行ったりしない」

すぐに慌ててフォローすると、渉はクスクス笑って頭を撫でた。

「バーカ。いつでも来いよ。待ってるから」

「…いいの?」

「いいも何も…俺たち夫婦だろ?」

「!」

渉の口から久しぶりに「夫婦」って聞けた。
それだけで南美は嬉しい。

「アパートは会社が用意してくれてるから…明日、家にカギ置いていく」

「…うん」

「夜遅くなるのと、無理するのはダメだからな」

渉がほほを撫でながら言うと、南美は笑った。

「はい」





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あきゅろす。
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