強引な男
T
「…咲良(さくら)…」
静かな声で名前を呼ぶ女の子は、ギャル道まっしぐらの咲良のクラスメイト。来夢(らいむ)。
ここは図書室。来夢は浮いてる。
『何?』
「よかったー…まだいて」
読み終えた本を棚に戻して、新しい本を探す咲良。
「来週末、追試なんだよね」
『………。』
「まぢでお願い!数学ヤバいなんてもんじゃないくらいヤバくて…」
『それで…?』
「放課後…教えて!」
咲良は学年2位の実力者。
こういう頼みも多かった。
『…いつ?』
「来週…みっちり!ダメ?咲良の説明わかりやすいんだもん」
このままだと、来夢は土下座でもしそうだ。
『じゃあ、月曜からココに来て。数学だっけ?』
「いいの!?まぢ助かる〜!じゃ、お願いしま〜す」
来夢は嬉しそうに図書室を出ていく。
最初は声を抑えていたのに、最後はうるさかった。
咲良はちょっとだけ笑う。
そしていつものように、とある本棚の厚めの本を手に取る。
『………。』
咲良はこの瞬間が好きだった。
本棚の向こうの席に…見える姿。
いつも同じ席、同じ時間…。
「藤原〜っ」
咲良と同じように、頼られる存在。
準(じゅん)は、常に学年1位。いつも前にいた。
咲良にとっては最初はそれだけだったのに、いつしか…気になっていた。
直接見つめることも話すこともできないけど、少しだけ見つめていられるこの一瞬が好きだった。
「へぇ〜…優等生の井上さんが…」
『!』
人がいるとは思わなくて、慌てて本を棚に戻そうとしたが、その手をつかまれる。
「のぞきとはね〜」
ニヤニヤ笑う秀也(しゅうや)の距離の近さに後ずさり。
問題児の秀也なんて眼中になかった咲良は顔を初めてマジマジと見た。
金髪だけど…美形だ…と見とれてしまい、ハッとした。
『はな…放して…』
小さな声で言うと、本を落とした。
「大きな音は…図書室では禁止でしょ…?」
クスクス笑いながら後ろから抱きつく秀也。
アゴをつかまれて、本棚のすき間に向けられる。
準の顔が…見えた。
「…こんなとこ…見られたくないでしょ?」
『!』
そのまま秀也が、制服の上から両手で胸を揉む。
『や…っ』
思わず、本棚をつかむ。
「…静かにしないと…彼に気づかれちゃうよ?」
『…っ…や…』
涙ぐみながら首を横に振る。視界に入る準が涙でにじむ。
初めての感覚に戸惑った。
『やめて…どうして…』
「んー…暇潰し?」
クスクス笑う秀也の手は、制服の中へ。
直に触れると、少し冷たい秀也の手に、咲良は体が震えた。
咲良は、怖いけど誰にも気づかれたくなくて必死に涙も声もこらえた。
『…や…お願い…やめ…』
「…かわいいね井上さん…いや、咲良…」
耳元で初めて聞く低い声に名前を呼ばれてドキドキした。
すると、上着をまくり上げられてブラのホックを外される。
『…やっ…!』
慌ててワキを閉じようとしたが、秀也の手の方が早く、胸をすっぽり包む。
その手が動くと、恥ずかしくて足が震えた。
『ん…っ…やだ…っ』
その手の動きはいやらしく、変な気分になってくる咲良。
それでも、恥ずかしくて抵抗し続けていると、
「…じゃあ、こうしよう」
『!』
秀也が手を止めて、耳元で言う。
わざと耳に近づいて時々舐める。
「咲良は…あいつにヤラれてると思えばいい」
『!』
頭が少しボーッとする咲良の視界には、まだ準がいた。静かに勉強をしている。
「最高の気分にしてやる。俺は…女とヤリたいだけだし…。需要と供給?ってのが合ってんじゃん」
『や…嫌…藤原くんは…こんなこと…しない』
咲良が言うと、クスクス笑う秀也。
「…するよ。男なんて半分以上ヤルことしか考えてねぇし」
『違う…藤原くんは…違う…』
秀也は、また胸を揉んで乳首を優しく撫でる。
『…ふぁ…んっ』
「!」
思わず声が出てしまった咲良は、慌てて口を押さえた。クスクス笑う秀也。
「…感じた?藤原だと思ってみなよ…10倍気持ちいいから」
『…もう…やめて…っ』
頭がクラクラしてきた咲良。立ってるのもやっと。
「…バレたら、藤原に見られるよ?」
『…ゃ…ぁっ…』
「エッチな咲良を…」
『違っ…』
咲良は頭が混乱していた。
嫌なのに、気持ちいい。
「咲良…」
『…っ!』
秀也の手が、咲良の太ももを撫でてスカートの中へ。
体をよじって逃げる。
太ももを撫でられてゾクッとして力が抜ける自分が嫌だった。
準に無意識のうちに助けを求めようとすると、咲良の頭の中でおかしなことが起こる。
『…っ…嫌ぁ…』
「俺は藤原だから…」
『!』
咲良の視界に準が入ると、すべて準にされている気がした。
『…あっ…』
抵抗する気がなくなる。
すべての行為に、素直に感じてしまう。
それに気づいた秀也はニッと笑い、声がもれないように、自分の制服のネクタイを咲良の口に巻く。
「声…もれないように…な」
『ん…っん…』
そして秀也の右手は胸へ、左手は太ももの内側へ。
咲良の体は馴れていない刺激にビクビク反応した。
そして、手をパンツに伸ばそうとした秀也だったが、人が近づくのを感じてやめた。
「残念。また…明日ね」
耳元で秀也はささやき、その場からすぐいなくなる。
咲良は、秀也のネクタイを外して、その場に座り込む。
力が入らずに立てない。
体も熱い。
「高瀬さん!?大丈夫?」
床に座ったままでいると、近づいていた同級生が声をかける。
『平気…ちょっとめまいがしただけ…平気…』
「本当?」
『うん。ありがとう』
本棚につかまってなんとか立ち上がり、図書室を出ていく咲良。
少しフラつく咲良をみんなが心配そうに見ていた。
次の日、お昼登校の秀也がクラスに入ってくる。
「秀也おそ〜い」
同じクラスで、彼女だと言われている理乃(りの)が腕を組む。
「起きたら昼だっただけだって。うるせ〜…」
理乃が秀也の胸元を見てハッとする。
「秀也…?ネクタイは…?」
「…渡した」
すると、クラス全員が秀也を見た。
理乃がそれを聞いたってことは…理乃は秀也の彼女ではない。
「…誰に?」
この学校のネクタイには、名前が入っている。
それを女の子に渡すのは、彼女の証。
知っていて秀也は意地悪く笑った。
「秘密。彼女じゃない女に答える義務ない」
『!』
咲良はその会話を聞いてハッとした。
秀也のネクタイは…咲良が持っていた。
「ヒドい…っ」
理乃が泣きながら走って教室を出る。
何人かが理乃を追いかける中、秀也と目が合う。
理乃と同じ気持ちだった咲良がニラむと、秀也はクスッと笑って席へ。
仲の良い友達と笑いあっていた。
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