狼と忠犬
実はもう秋です
「………なんでテメェが此処にいんだよ。」
今目の前に立っているのは入学してから数年ぶりに肉眼で見た、生身の日影さまだ。
いつの間にか目線の差が大きくなっていて、眩し過ぎて意味もなく叫びだしたくなっのは懐かしい思い出だった。
よかった。
日影さまのいる世界に戻れた。
それからは瞬きする度に、新しい日影さまが現れる。
冷たかった視線がやがて困惑や不機嫌でも俺を真正面から写すものへと変化して、駄目だ駄目だと思いつつ、俺は浅はかな願いを抱いてしまう。
「一生?」
これは―――刺青の秘密を言及する日影さまだ。
ふぅん、と小首を傾げたその仕草に萌えが爆発したあの時を思い出す。しかし問題はその後だ。
頬を掴まれタコのように突き出した唇に、押し付けられる小さなチョコレート。
舌先から伝わるほろ苦い甘みの直後に訪れるだろう衝撃を、脳が憶えている。日影さまの指が、俺の顎を持ちあげる。
近づく唇――――くち、びるが。
「うっおわあああああああああああっ、ああ?あ?……お、ぁ…ん?」
真っ暗な中でも見える景色は、見知った寮の自室だった。
「覚めた……?う、ん…よ、よし。」
季節は冬になろうとしている。
先月までは薄い掛け布団だったものは先週から真冬用の羽毛で、分厚い布団をめくり上げて確認したのは……自身の下半身。
勃っている。
朝勃ちとかのレベルでは無く、爆発寸前のアレな感じで元気になってらっしゃるが、まだ直前で目が覚めた。
「よかった……今日は間に合った。」
実は何度か夢精してしまっている。今回はギリギリで目を覚ます事が出来た。下着も洗わなくて済む。
情けない話だけれど、死にたい、と自己嫌悪したのははじめの数回までだった。
俺と真壁が日影さまの指示で風紀委員になってから数カ月。
同時進行で俺の勉強をみてくださっている副委員長さまは、夏休みも懐かしい自宅へ俺を連れ帰って下さり―――勉強漬けでした。日影さまと2人きりでいるのに妄想さえ出来ない程に、スパルタでした。
「しかし、それもこれもご褒美が悪い……いえ、全然悪くありません…。」
日影さまは素晴しい。
鬼のような厳しさの中で、ごく稀に上手く出来た犬にご褒美も忘れない。
「よく出来た」と口に放り込まれるチョコレートや飴と同時に振ってくる唇の感触が脳裏に蘇り、腰がさらに重くなった。
……俺がこんな風だから、日影さまはヤル気を出させるためにと、甘い餌を与えてくださっているんだろう。
主を妄想して勃ってるとか最悪だ。犬以下だ。昆虫だってもっと従順かも知れない。しかし日影さまは海よりも広い寛大さで俺の所業に目を瞑ってくださっている…に違いない。
こんな風に頻繁になってしまったのはご褒美が始まってからだし、それもこれも日影さまがフェロモンを垂れ流し過ぎている所為でもある。いや、悪いのは俺だ。しかし若さが爆発してしまう事ってあるよねって言うか要はばれないようにするんだ友近。
そう!俺は今日も日影さまでヌク!!
………終わったあとは、いつも通り隣室に向かって土下座して、太陽が昇るのを待ちます。
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