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狼と忠犬
天国か地獄か
 俺と真壁の風紀入りは、何の問題もなく終わった。

 たんなる平の委員である俺達は、掲示板での報告義務も朝の登校時間内と短い。
 しかも普段より小さいB5サイズに米粒のような文字で印字されたそれは、誰の目にもほぼ留まらないだろう隅の隅に貼られていた。貼ったのは俺ですが。
 俺はともかく、真壁が風紀委員だと知れ渡るのは得策ではないと踏んだので日影さまに相談したのだ。

「風紀委員の任命報告は朝だけだ。何時から掲示しろって明確な指示はないから、お前の手の空いた時間に貼りだせばいいだろ。」

 ―――なるほどです。
 という事で、忙しい俺は大多数の生徒達が登校し終わった後でしか時間が取れず、急いで掲示したのち、1時間目終了と同時に剥がしました。


 そもそも俺は朝は忙しいのだ。日影さまと食堂で朝食という名の食堂警備についていたので。

 昨日の夕食も、一緒でした。ふっふっふ…。

 これからは、極力!食堂で!日影さまと一緒に食事をいただきます!
 風紀委員としての義務ですからね!日影さまから直々にご一緒してよいとのお言葉頂いてますからね!




「………オイこら聞いてんのか。」

 べし、と後頭部に教科書の角が刺さった。べしというよりもボコに近い音がした気もするが、それはまぁどっちでも良い。
 慌てて顔を上げた俺の目の前には、丸めた教科書を掌でポンポンと叩く日影さまが座っている。

 今日食べた夕食の献立を思い浮かべていた頭が、ようやく現在地を把握した。

 そう、俺は今、夕食後に日影さまの部屋で勉強会をしている――――ちょっと嘘をつきました。あまりにも馬鹿だった俺のために、日影さまが直々に勉強をみて下さっています。

「す、すみません。」
「謝る前にさっさと問題を解け。横にほぼ答え書いてるだろうが。」
「……えー、えー…あ、はい……?」
「………。」

 日影さまの目が、ちょっとだけ死んでしまいました。
 これは昨日見た表情に近い。

 昨日、正式に風紀委員として任命され夕食を食堂でとった後、部屋の前で日影さまが「そういえば」とおもむろに俺の成績について尋ねられたのだ。
 部屋に戻ったらこの前の成績表を持って来いと言われ、何も考えずに従った。

 そう、俺が手渡した成績表に目を通した直後の日影さまも、今みたいに目がちょっと死んでしまったのだ。

 はにわみたいな目つきなっていた日影さまはそれでも格好良かったです。流石でした。けれど、成績表を手にしたまま片手で額をおさえながら、これから毎日夕食後に教科書ノート手持ちの参考書を持って部屋に来るようにと言われ、
「どの教科でしょう?」
 と聞いた俺の前で、日影さま目は、はにわから前科二犯みたいな目つきに豹変しました。

「全部だ!!」

 と叫んだ声は廊下中に響き渡り、俺の鼓膜を振るわせたのだ。





 家庭教師の日影さまは、鬼でした。

 


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あきゅろす。
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