狼と忠犬 昨日に続いて ―――たぶん、日影さまはやって来た道を引き返しているんだろう。寮へと戻る整えられた歩道へ辿りつくと同時に、繋がれていた手はあっさりと離された。 日影さまの手に握られていた俺の手……感激のあまり震えそうな左手首を右手で押さえて凝視していると「おい。」と不機嫌そうな声が頭上に落ちる。 「……聞いてんのか。」 正面に、声と同様に不機嫌そうな日影さまがいた。 だがしかし、真正面から見た日影さまの仮装――というか正装が素晴し過ぎて声がでない。あああああ銀髪なのに和服似合うとか、もう日影さまぐらいじゃなかろうか!?引き締まった四肢に清廉な黒い袴。いや、今日の俺は鼻血とか噴かない!昨日の夜に散々シミュレーション済みだからだ!だが、想像の100倍…いや、1万倍は素晴しいっ!! ありがとう歓迎立食。ブラボー仮装行事―――などど、脳内で興奮していたら……強い力で額にかかる前髪を鷲掴みにされ、無理矢理上にあげられた。 ―――かなり苛立った日影さまがイマシタ。 「――――お前は、毎度毎度……俺を舐めてんのか?」 「…す、すいません……。」 妄想が爆発していましたとは、この状態ではさすがに言えない。 前髪の束は、日影さまの舌打ちと一緒にあっさりと解放された。その目が、心底呆れたと言っている。 「……こんな時でも、相変わらずの態度か。」 「…………。」 「チッ。―――行くぞ。あの忌々しい男が追いかけてでも来たら面倒だ。」 もう俺に興味を失くしたのか、早足で道を急ぐ日影さま……そう言えば、入学前に会長から生徒会への勧誘があったと聞いたことがある。早苗さまからの風紀入りも渋るのだから、当然バッサリお断り…と言うより、かなり嫌がったんだろうなんてコトは容易に想像できた。 入学してからは見たことがないので、中等部時代に解決しているんだろうけど……どうも日影さまは、あの変態がお嫌いのようだ。いや、好きでも驚くけど。どうりで、久豆見会長が日影さまの名前を知っていた訳だな。 前を歩く、スラリとした肢体を堪能しながら……日影さまの周囲の煌びやかさに、その存在の遠さを実感する。 ――ま、俺がそんな明るい世界に飛び込める訳も無く、この平凡さでは望んでも無理な話だ。…第一、あのカオス具合を目の当たりにして、入りたいと思うのはよっぽどの変態だ。 なんて言ってる間に、寮に着いていた。 ―――そして、なぜか日影さまが当たり前のように俺を促したのは、ご自身の部屋。……つまり、昨日に続いて、日影さまの部屋へのご招待…え?……あれ? [*前へ][次へ#] [戻る] |