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狼と忠犬
お久しぶり
「あ、あと、これは加工された画像を復元したデータ。先に出来たから、委員長に渡しておいて欲し――――だ、だからっ、委員長からの仕事の方が先だっただけだから!牛乳も、も、これ以上は飲めないからっ!」

 真壁が上半身を逸らしながらUSBを差し出してきた。受け取った反対の手で牛乳を近づけてみたが、断られる。
「それ急ぎだから早く出てって!はやく!」とまるで追い出されるかのように背中を押され、ドアを閉められた。重要度が高い真壁の使いを断れる訳が無いので、委員長……早苗さまのいるだろう特別校舎へと急いだ。



 こんな朝早くに早苗さまが風紀室に来ているのかどうか。
 鍵のかかった風紀室の扉の前で、ですよね、とドアノブと会話する。
 真壁は急ぎの資料だと言っていたし、俺が持ち歩いて万が一何かあっても問題だ。早苗さまには、真壁から預かったUSBを持って特別校舎の風紀室の前で待機しますと報告を入れて、そのまま待機。
 こんなことなら牛乳か玉子サンドひとつでも持ってくればよかった。いや、特別校舎の廊下で飲食はマズイか。第一校舎とは違う材質であろう壁や窓枠。絨毯までは敷いていないが、このやたらと綺麗な廊下を汚せない。



「………近衛?うわ、すっごい久しぶり感…っ!」

 太い柱に彫られた細かい縦の線を数えていたら、爽やかな朝に似つかわしくない声が聞こえてきた。

「………どうも。」
「え?何その超他人行儀。傷付くわー朝早くからひとりで仕事しに来た俺の疲れたハートが更に弱るわー…いや、でもこんな人気のない廊下で出会うなんて運命感じるよねー。」
「おはようございますお疲れさまですお忙しい生徒会のお邪魔をしてはいけませんのですぐにお仕事に取り掛かって下さいさようなら。」
「ええええ――っ。」

 生徒会専用の封筒を抱えて現れたのは、会計に繰り上がってからは接点も無くなった百舌だった。

 集会で目にして入るので、懐かしいとは思わないが、正面から対したのは本当に久しぶりだ。いつ以来だろうかと考えて……思い出した。

 あれから日影さまとの距離や俺の立ち位置が急速に変化したせいで、いや、うん、すっかり忘れていた訳ですが。柱の模様から目線を移せば、少し背が伸びた元隣人がにこやかに立っている。

 役員に就任したと同時に更に明るく染められた髪は、窓から射し込む光に反射して非情に眩しい。親衛隊も増えたと聞くし、眩しいのは太陽光線の所為だけではないのかも知れない。これが噂に聞くアイドルオーラというヤツか。変態会長には感じられなかったけれど。
 眩しい。眩しいからとっとと生徒会室へ行って欲しい。なぜなら風紀委員が生徒会役員とかかわるのは凄く面倒臭いからだ!

「近衛……その面倒臭そうに視線逸らすのやめようよ。地味に傷付くから。」
「いえ、面倒臭いなんて思ってもいませんお忙しい会計さまの仕事を邪魔しては申し訳ないだけですそろそろうちの委員長も来ますので早く生徒会室へ行って下さいさようならまた逢う日まで。」
「久しぶりの方が口数多いけど邪険にされてる感が半端ないっ!」

 酷いよー!と文句を垂れながらも去っていく気配のない百舌。
 大切なデータを持ったままで人と接触したくないのになと、ポケットに手を入れてUSBを握りしめる。

「―――あ。」
「ん?電話?」
「いえ、通話ではないですが……ああ、もうすぐ委員長がここへ来るそうです。」
「げっ。じゃ、じゃあ俺もそろそろ仕事に行くよ!」

 早苗さまは生徒会役員わけ隔てなく全員大嫌いだ。
 げえ、と舌を出して封筒を抱え直した百舌は俺に「じゃあ」と手を振る。そうか、そんなに早苗さまが苦手か。わかった、報告しておこうしゃないか。

 11月にある東雲祭にむけて、生徒会もそろそろ準備にかかるのだろう。
 今日は偶然出会ったけれど、この先こうやって会話する事はもっと無くなるだろうな―――襟首を隠すぐらいに伸びた百舌の髪をぼんやりと眺めれば、視線を感じた訳でもないだろうに百舌がくるりと振り返った。


「こんな時期に風紀も大変だよな……急過ぎてこっちも何て言っていいかわかんないけど、困った事があれば声かけろよ?」
「え?」
「ん?あれ?」
「?」
「んー…?んん?あれ?おー…ぉ、そうかそうか、うん。ゴメン何でもない!じゃあ!」

 ええ?!
 じゃあ!じゃねよーよ。今あきらかに誤魔化したよね?なんか誤魔化したよね!?

「ちょ……っ。」

 ちょっと待ってと言う前に、猛ダッシュで百舌が消えた。


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あきゅろす。
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