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狼と忠犬
記録は毎日つけてます
 習慣として定着しつつある朝いちストー……見守り運動。
 今日も雨じゃなくて良かったと思いつつ、日影さまの部屋の灯りが点いていないのを確認しながらおにぎりのシールを剥がす。その横で、同じように真壁が持参してきたパンを頬張っていた。
 今日は、いつもより遅い。もしかすると、そろそろ風紀での活動の疲れが出ていらっしゃるのかも知れない。食事は食堂でもそれなりにバランス良く食されているようだし、ううむ、やはり早苗さまの人使いが荒いのだろうか。
 やるからには完璧にこなそうとされるだろう日影さまの、疲労やストレスが心配だ。

 薄暗い空に朝日が射す前に、部屋の電気は今日もきっと点くだろう。
 きっちり閉まったカーテンに色がつく瞬間を逃さないようにと見つめる俺の横で、なぜか視線を感じる。当然ながら振り向けば俺をみているのは真壁な訳で。

「……なんでしょうか。」
「……い、いや…別に、ってい、言うか。」
「言うか?」
「そ、の顔、どうしたんだよ……。」

 俺の頬には、少し大きめのガーゼが貼られていた。
 日影さま以外の他人の顔に興味を持つなんて、いったいどうしたんだ?さすがに数日間、同好会の仲間として行動を共にすれば、友情的なモノでも芽生えたのだろうか。

「あー…ちょっと、昨日蹴躓いて横っ面を殴打したんですよ。少し切ってしまったのですが、絆創膏ではちょっと小さくて」
「……ああ、そ、そう」

 で、会話は終了。
 日影さまの部屋の灯りが点いた瞬間、俺達はふたりして其方へ意識を集中した。真壁の持つカメラのシャッター音を聞きながら、本日の起床時間を記録する俺。気持ち悪い?いやいや、まさかまさか。同好会としては当然の日課です。

 ちなみに、頬の怪我は当たり前だけれど嘘だ。

 数人しかいないはずだから、一人一回の計算で終わるだろうと踏んでいた俺の予想は、駄目な方向で裏切られた。
 抵抗しない、に味をしめたのか、何人かがそれ以来ちょっかいをかけてくる。当然2回目からはすんなりやられる義理も無いので、俺は逃げる。捕まれば暴行。逃げ切れば勝ち。捕まってしまえば問題を起こしたくない俺は無抵抗にならざるを得ない訳で、ここ数日はまさに隠れて追いかけっこ状態だ。
 頬のガーゼも、昨日失敗して殴られた青痣が「殴られました」状態過ぎて隠したつもりなのだけれど、かえって目立つ……のかな。

 うーんどうしたものか、と思案する俺の横で、窓撮影を終えた真壁がまだチラチラこっちを窺っていたけれど、何か言える訳でもなくただじっとカーテンの開かない部屋を凝視していた。







 ひと仕事終えた俺が満足感で部屋に戻れば、同室の堤がお茶漬けを飲み物のように胃に放り込んでいた。

「ふが、おがえりー。」
「ただいま。」

 食べたらすぐに練習に行くつもりなのか、足元にはもうバックが用意してある。

「あ、俺これ食ったらもう行くから。」
「はい。」

 いつもは言わないような台詞だけれど、ここ最近の堤は俺を気にしてくれているようだ。さすがに同室者には、湿布臭いのも時々歩き方がおかしいのも隠しきれないのはわかっている。それでも、理由を問わないでいてくれるのは有難かった。



「あ。そうだ。」
「―――?」
「さっき瓜生が来たけど、出てるから帰ったら部屋に行かせるって行っといたぞ。」




 …………え。


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