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狼と忠犬

「先生?」

 不審げな声に、トリップしていた思考が戻る。

「ああ…悪い。そうか、その話は…ご両親から?」
「ううん、たまたま夜中に話してるのを聞いたんだ。」
「そうか…今まで、家にいて辛かった事とかあるのか?」
「無い、と思う。たまにもっと勉強頑張れとか言われて、喧嘩したりとかはしてたケド。」
「そうか。じゃあ、近藤は今まで、大切に育てられてきたんだよ。ご両親に、ちゃんと愛されてるんだよ。」

 養子に行ったからといって、必ずしも不幸だとは限らない。

「きっと、凄く望まれて、近藤はその家の子供になったんだ。」

 養子だと知って、やっぱりそうかと納得するんじゃなく、戸惑うほどに。

「だからといって、本当の家族が君を嫌いだったとか、邪魔だったとか、そんな事もないと先生は思う。その家の子になった方が幸せだと泣く泣く手放したのかもしれないし、何か理由があったのかも知れない…もしかしたら、近藤をずっと探してる肉親だって、いるかも知れない。」

 そうだ、これから幸せになればいい。
 今までも幸福だったんなら――その先の未来も、幸福であればいい。


「…先生、せーん、せい!」
「……なんだよ。」
「……悪かったよ、今の話、ウソ。ジョーダン!今日4月1日!エイプリルフール!だから泣くなっ。」

 ………は?


「嘘?」
「…うん。」
「エイプリルフール…?」
「…そう。」
「養子は?」
「オレめっちゃ自分ちの子。父親が立会いしたって話毎年誕生日に聞かされてる。」
「――そう、か。」
「うん、そう…ってイデデデデっっ!!」

 安心したと同時に、クソ餓鬼の後頭部にゲンコツを乗せて力一杯ぐりぐり押してやる。
 ついでに言えば、俺は別に泣いてない。


「そうか、まんまと騙されたなぁ。」

 嘘でよかったよ、と笑ってやれば。

 進学クラスでも一番の天才児で問題児の生徒は、ホッとしたような表情でもう一度「ゴメンな」と俺に言った。


 本当は怒ってはいなかったけれど、その言い方が生意気だったので…もう一度ゲンコツを頭にお見舞いしてやった。


 保護者から苦情がきませんように。



おわり

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あきゅろす。
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