狼と忠犬
シリエンさまから「日影が友近にケーキをあげているところ」(4900000キリリク)
5章アタマぐらいの時間軸です
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病欠の委員の代わりの巡回から帰れば、「お疲れさま」と正面から声をかけられた。
「……倉庫裏周辺の巡回、異常なし。」
「うん。」
俺の報告を聞いた早苗が頷きながら席を立ち、そのまま給湯室へ消える。
特別校舎にある風紀室には、俺と早苗以外に生徒はいなかった。おそらく他の校舎にある風紀室に数人はいるだろう。生徒会室が近いため利便性はあるが、風紀の人間はあまりこの部屋には近付きたがらない。
有難いことに、副委員長の席もこの部屋にあった。
「ほんと、有難くて泣けてくるな。」
他の委員が報告以外であまり寄りつかない所為で、書類関係で生徒会や学園長室へ行かされる頻度が多い。まぁ、平の風紀委員が判を貰いに行けるかといえば、どのみち早苗か俺の仕事になるのだろう。
……おそらく今後の顔繋ぎも込みだろう事が容易に推測できるだけに、俺に用事を言いつける早苗の配慮を、黙って受けるしかない自分に落ち込む。
「―――落ち込むってガラかよ。」
「お前最近ひとりごと増えたよな…悪くはないけど。」
「………」
「ああ、コレか?さっき生徒会へ持っていくついでだからって、置いて行った。」
給湯室から出てきた早苗が手にしている盆に乗っているのは、チョコレートでコーティングされたケーキだ。生徒会へ持っていくと聞いて、なるほどと納得した。
「ついでにお裾分けとは親衛隊も大変だな。」
「そうか?嬉々として持って来たぞ。それに最近、顔の良い副委員長も入ってきて差し入れの頻度が増えた。」
「……風紀に差し入れとか馬鹿か。」
「大丈夫、ちゃんと全員に署名させてから受け取ってるから、何かあれば即処罰だ。」
にこにこ笑いながら机に皿を置く早苗の声は酷く楽しそうだった。
「飲み物は自分で入れろよ?」
「わかってる。」
食べた後でいいだろうと、目の前に置かれたケーキに手を伸ばす。
甘いものはそれ程好きでもないが嫌いでもない。昔はよく3時に出されていたなと思いながら―――上に乗る苺と小さな板チョコを眺めた。
俺の分の苺やチョコレートを皿の上に乗せてやると僅かに口元が緩んでいたアイツの顔が、ふと浮かぶ。
きっと、俺以外にはわからない些細な変化。
それが何故だか嬉しくて得意になって……おやつはケーキにしてくれと、無理を言った日もあった。
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「友近、お前イチゴとチョコレートどっち欲しい?」
「え。」
「お前いっつも先に上のやつ食うじゃん。俺のも分けてやるから、どっち欲しい?」
「どっち…。」
「イチゴ?」
「いちご…。」
「板チョコ?」
「チョコ…。」
いつもの無表情が、真剣に俺のケーキを睨みつけている。
それが面白くて、本当はどっちもやるつもりなのにワザと選ばせた。友近の眉間のしわが段々と真ん中に寄ってくる。そんなに悩む事かよ。どんだけ好きなんだってーの。
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