狼と忠犬
ケイさまより「寒くなってきたことを過剰に心配する近衛父」(2345678キリリク)
「…そろそろ寒くなってきたな。」
「はい。」
定例会議が終了し、パソコンのカメラをOFFにした近衛社長が、トップに戻った画面を見つめたまま呟いた。
今しがたの内容を書類に纏める為に、キーボードを打つ手は止められない。それに、どうせその後に続く言葉は容易に推測できた。
「必要な一式なら、先日社長ご確認の元、発送したはずですが?」
「………。」
「なにか足りないとご連絡がありましたか?」
「――いや。ま、足りないのは確かだ。」
あれほど吟味しておいて、足りない?
気になって上司のデスクに目を向ければ、青一色だった画面に見慣れた画像が現れている。あれは、最近立ち上げたうちのメンズファッションの、更にマニアックな方面…販売段階まで進まなかった資料ではないだろうか。
「…なにか、足りませんでしたか?」
見当はつく。が、敢えて聞いておこう。
此方を向いた社長は、およそ人には見せられない顔になっていた。ニヤリと笑うその表情は、子供のようなと言えば聞こえは良いが…要はタラシ感万歳なのである。
「ああ、足りない―――遊び心が。」
…それ、いりますか?
とも、勿論聞かない。何故なら私は、有能な秘書だからだ。
ご子息に関してだけ童心に返るのはいいが、こういう時の社長は、大概ロクな事を思いつかない。まぁ、被害を被るのは私ではないので、仕事に支障さえなければ構わないのですが。
「――で、なにをご用意すれば?」
最近では、ちょっと面白いとか……いえ、これはあくまで仕事の一環です。
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