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狼と忠犬
同じ穴の…
 爽やかな朝、俺は真壁に拇印も捺させてご機嫌だった。
 ちなみに指についた朱肉がそのままの『ストーカー同好会』代表真壁君は、横でいつものように白い顔を前髪で隠して歩いている。

「……なんで僕が…。」

 ぶつぶつと呟きながらまだ人気のない廊下を進む姿は、うん、怖い。

「いつもの日課じゃないんですか?」
「そ、それはそうだけど…いや、なんで君と一緒に…。しかも同好会とか…。」
「先程、機嫌良く捺印してくださったじゃないですか。」
「―――あんな気持ち悪い顔見せられたら、誰だって言う事聞くだろ。昨日といい今日といい…無表情で口元だけ変に歪んでるとか、怖いんだよ。」

 昨日?
 ドモリもせずまくし立てられた言葉に首を傾げる。昨日と言えば、俺の渾身の笑顔を指しているのだろうか。いやいや、あの時の俺は超いい笑顔だったはず。

「怖い顔をした覚えはありませんが。」
「ぼ、僕の薄暗い部屋で見たら、ホラー以外の何ものでもな、いよっ。」

 思い出しただけでも寒気がするわ。とこれまた矢継ぎ早に突っ込まれ、俺は不本意ながら昨日の笑顔作戦がある意味失敗だったのかと気がついた。いや、結局のところ判を捺すという目的は達成できているのだから、成功したともいえる。

 実はそれ以外にも万が一真壁が渋った場合に備えて、脅…説得する材料は持っていた。

 外へ出るために階段を降りながら、前を進む真壁の揺れる黒髪を眺める。つむじと逆方向に跳ねている寝癖を目で追いつつ、なんとなく自分の頭に手を触れて、跳ねていないか確かめてしまう。
 掌に伝わる真っ直ぐな感触に安心しながら……身なりに気を使う必要など、もう無いのだと気づく。



 辿り着いたのは馴染みのある建物の裏庭で、俺達は目当ての窓を同時に見上げた。
 日影さまの部屋に窓にはカーテンがかかっており、周りと同じようにまだ暗い。所々灯りが点いている部屋もあるけれど、殆どの生徒がまだ寝静まっているようだ。

「こんな早い時間から外でストーカーしていたとは……さすがは同好会代表ですね。」
「いや、朝ご飯食べる暇もなく、連れて来られた、んだ、よっ。」
「朝はしっかり食べた方がいいですよ?」
「〜!〜〜!!」

 そう言って俺はポケットからパンを取り出し、封を開けた。
 何か言いたげな真壁に、無理矢理突っ込んだせいで潰れてしまったあんぱんを頬張りながら、もう片方のポケットから飴を出して渡した。真壁はますます微妙な顔をしながらも、「…りがとう」と呟いて口に放り込んだ。ツンデレか。萌えないけど。

 大木の影に隠れるようにして立つこと数十分。
 日影さまの部屋の電気が点いた。

 カシャカシャカシャ。連続したシャッター音は真横から聞こえる。
 真壁が手に持っていたカメラを構えている気配がするけれど、データは溜まってから押収すればいいかと無視をして一身に窓を見上げた。
 カーテンは……開かれなかった。まぁ、ストーカーが張りついている事などご存じのようだったし、放置はしているけれど好き放題撮らせるつもりもないとか。俺は日影さまの優しさに涙しそうになった。ストーカーにも無関心…慈悲に心をみせる日影さま、やはり風紀委員になるべくしてなられたという事か!

「しかし、姿も見えないのに撮影するとか…。」
「え、だって…上手くいけば手が写るし、時々寝ぼけてか、カーテン全開することが…あ、あるし…。」

 さすがはストーカー同好会代表。引くわ。
 俺は朝からさすがの行動を目の当たりにして震えながら、手帳を取り出しメモ蘭に現在の時刻を記入する。

「…な、何してるんだ?」
「―――普通に、瓜生さまの起床時間を記録しているだけですが。」
「………。」
「………。」

 真壁が俺のて元を見ながら小さく「引くわ…」と呟いた。


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あきゅろす。
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