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狼と忠犬
発起
 何度も繰り返せば慣れたもの。数分で終わった作業は、持参した袋一杯の没収品として床に置かれている。
 さて、とようやく此処へ来た用件を説明しようと振り返れば、相変わらず俺のする事になにも抵抗できないまま、握った拳を振るわせる真壁が立っていた。

「ああ、お茶などはお構いなく。」
「だ、だ、出さないよ!」

 唾でもとびそうな勢いの返答に「あ、そうですか」と答えてリビングへ戻る。
 そのままになっているカップラーメンが、どう見てものびきっていた。その向かいに座って、真壁を促す。

「あ、気にせず食べて下さい。」
「……もう要らない。」

 そう言って、真壁は湯気もでなくなったカップを洗い場に捨てた。それから俺の横に置かれている写真でパンパンの袋を、恨めしげに指差す。

「…そ、それ、もう押収する理由が…な、無いよね?」

 日影さまが風紀入りして親衛隊が解散になったことなんて、まぁ当然知っているとは思っていた。
 だから、俺は別段驚かない。

「理由?そんなもの要ります?」
「え。え、だ、だって人のモノ勝手に持っていくんだよ?今までは親衛隊だからって理由があったけど…今はもう、関係ないだ、だろ?」
「俺は瓜生家に関係する家の人間ですから、無断で撮影された写真を押収することに、なんの問題があるんですか?」
「え…あ、……。」

 ハッとした様子の真壁に、よしよし上手く誤魔化せたとほくそ笑む。俺が日影さまの写真を持って帰るのに、実は何の権利も権限も無い。
そんな事よりも、と俯く顔を振り子の人形のように左右に揺らす眼鏡ストーカーに、俺は用件をきりだした。

「今回、瓜生さまが風紀入りされた事は、もうご存じなんですよね?」

 頷く真壁。
 正直に言いますと―――と、あくまで丁重に、眼鏡の奥の瞳を逃がさないように…捕まえる。
 真壁の視線を、こんな風に正面からしっかり捕えたのは初めてだ。この前に見た時は、どんよりと濁った暗い色をしていた気がする。まぁ、今日もあまり変わりはない。
 膜のかかったような目を俺に向けながらも、いつもと違う空気に警戒しているのがわかった。

「瓜生さまが風紀の副委員長に就任された直後から、瓜生親衛隊は強制解散となりました。つまり、俺の役割が宙に浮いてしまった訳です。」
「き、君は彼の世話係みたいな、ものだろう?」
「浮いてしまった時間はとても多いのに、動かせる駒は極端に減ってしまった訳なんです。」
「ちょ、僕の話を…」
「そこでひとつ、とても良い案が浮かびました。」
「オイ、ちょっ、っと。聞いて…」
「この学園には、一部の生徒に対し熱狂的なファンを豪語する生徒が少なからず存在しますよね?」
「は?」

「――そこで、『ストーカー対策考案同好会』略して『ストーカー同好会』を立ち上げようと思います。」
「………は?」

 ぼんやり濁っていた真壁の目が、1,5倍見開いた。
 逃がさないよう、その視線に笑顔でとどめを刺す。

「学園の生徒を未知のストーカー被害から救う手段を論じるために、ストーカーとはなんたるかを勉強する会です。俺一人ではなにかと不便…不勉強さが際立つので、やはりここは第一人者である真壁君に入会して貰うのが一番だと結論づけました。」

 風紀委員をストーカーするとなれば、今までのように多めにみて貰える可能性は少ない。けれど、同好会の活動となれば…万が一見つかった時の言い訳もたつ。
 茫然と動かない真壁に「そういう事で、よろしくお願いします」と椅子から腰を上げて無理矢理握手する。
 混乱して「は」と「え」しか発しない真壁と握った手を、これ見よがしに大きく振った。


 この日を境に―――俺は、日影さまのストーカーになりました。



 ちなみに、同好会の代表を真壁に押し付けたら、青白い顔色が幽霊みたいになったが、気にせず署名させた。
 明日から、新しい生活が始まる。


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