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狼と忠犬
土曜日
 次の日の俺は腑抜けだった。
 土曜日で良かったのか悪かったのか、ただボンヤリと一日を過ごした。

 何もせず、ベッドに横になったり座って漫画を読んだりしただけの日中。こんな時間を過ごしたのは何時ぶりだろうと考えた。いや、休日は外出の多い日影さまに合わせて、俺が必要のない日なんてのは度々あった。
 それなら、そんな日々と今日にどんな違いがあるというのだろう?

 そう気がついたら、急に今の自分が恥ずかしくなった。

「ああ、そうだ―――必要とされないからだとか…傲慢な考え方だった。」

 開いていた本を閉じて、俺は起き上る。
 そうだ。俺は一体なにを勘違いしていたんだ。
 認められる事に、なんの意味があるというのだ。自己満足も甚だしい。

 風紀委員に入られた日影さまが、親衛隊を解散させるのは当然の決まりだし、食事が必要ないのならそれを悲観する己が間違っている。
 近づけない事を嘆くのは、俺の、分不相応な想いだ。俺はいつから―――代価を求めるような浅ましい男に成り下がっていたんだ……恥ずかしい。

「原点に返ればいいんだ。」

 勢いのまま、すくと立ち上がる。
 立ったからといって何をする訳でもないので、見下ろした両手をぐーぱーと握っては開いてみた。するとタイミング良く、机の上の携帯が着信を告げる。

 親衛隊からの一斉メール。
 開く前からわかっていた内容を、確認するだけの作業だった。画面に映る文字はやはり、日影さまの風紀委員就任の件とそれに伴う親衛隊解散の報告で。もし何か困った事があれば元幹部に気軽に相談するように、などとお優しい一文で締め括られていた。

「まぁ、俺には関係ないか。」

 元、副隊長とはいえ、俺は実質制裁係だ。1年の、しかも暗部に関わっていた人間に相談事を持ち込む生徒はいないだろう。お礼参りなら考えられるけれど。

 閉じたメールには、もう用は無い。
 親衛隊という名目の上で可能だった行動は、今日から不可能になる。
 それならそれで良いのだと、俺は時計を確認してから部屋を出た。時間は昼を過ぎた午後2時。昼食を終えた学園に残る生徒達も、バラバラに姿を消す時間だ。









「な、な、な……っ。」
「どうもコンニチハそしてお邪魔します。」
「え?ちょ、ちょっと、ま、待てって…っ!」

 目的の部屋の前で待つ事数分。
 一度目のインターホンでは予想通りうんともすんとも返答は無く、やはり同室者は外出中かと二度目のインターホンを押す。そして連打。そして延々と連打。
 なんならリズムをとって連打してやろうかと思案しているところで、残念ながら扉が開いた。

 僅かに開いた隙間の奥は想像と同じく真っ暗で、部屋の主である真壁の白い肌だけが、気味悪いほど浮かびあがる。
 しかし真壁の顔が白かろうが部屋の電気が点いていなかろうが、俺には全く関係ない。ということで、閉まる前にいつものように足を割り込ませて強引に扉を全開にした。はい、コンニチハ。

「ちょ、ちょ、ちょっと…っ。」

 独りでカップラーメンを食べていたようで、灯りの無いリビングに湯気のたったカップが置かれている。
 その横を通り抜け、通い慣れた部屋へ足を踏み入れた。

「ああー……。」

 ポケットから取り出した袋を見た真壁が、絶望的な声をあげる。
 うん、そう。
 まずは壁一面に貼られた日影さまの写真を没収――――それが済んだら、これからの話をしよう。


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