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狼と忠犬
side日影
 部屋に帰ると、何故か音をたてる鍋の前で百舌がしゃがみ込んでいた。

「……なにやってんだ。」
「あ、おかえりー。なんか近衛が急用できたとかで、俺ここのスイッチを30分経ったら止めるという任務を請け負ったんだよね。ご褒美に明日ハンバーグにして貰うんだ。」

 ニコニコしながらそう言う同室者に、生徒会補佐という貫禄の欠片すらみえない。
 …嫌な名前を耳に入れたせいで、さっきの出来事が脳裏に甦り、自然眉間にしわが寄った。


「―――部屋に居るから、アイツ帰ったら呼んでくれ。」

 しつこくキッチンで座り込む百舌に声をかければ、百舌は鍋に目を向けたまま「なぁ。」と口を開いた。

「…お前、なんであんなに近衛のコト毛嫌いすんの?」
「――あぁ?」

 毛嫌い、という言葉に過剰に反応してしまった自分に、思わず舌打ちしそうになる。
 振り返ると、百舌はいつものおチャラけた雰囲気など微塵もなかった。…それほどアイツに肩入れしているのかと、苛立ちが募る。


「……嫌ってんのは、俺だけじゃねーよ。」
「は…?」

 つい吐き捨てるように言ってしまうと、驚いた声で返された。…はっ、お前もアイツに騙された口かよ。
 やけ気味に、何時もなら決して言わないだろうコトも口にしてしまう自分は、やっぱりまだ子供だった。


「……アイツは、近衛…自分の父親の命令で俺を監視ついでに世話してんだよ。家の為だ。」
「そんな……でもさ、あの熱心さはそれだけじゃ…「うるせー!」…瓜、生…?」

 堪らず自室のドアを殴りつけ、ドンッ、と鈍い音が響いた。





 ―――思い出すのは、3年以上も前の…消し去りたい過去の自分。


 中等部の寮へ入る直前……近付いていたと思っていた。友人だと…いや、もっと違う何かだったのかもしれない少年。

『俺が……好きで貴方と一緒にいたと思ってたんですか?』

 表情の無い能面のような顔で、ただ俺を見ていたその姿が、今でも許せない。


 家からの命令だったとそう言った。
 これから連絡を取り合うつもりは毛頭ないと、俺を切り捨てた。

 ……必要だと思っていたのは、愚かな自分だけだった。信頼は――その瞬間、憎しみに変わった。


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