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狼と忠犬

 来客用のソファにふてぶてしい顔で座る日影を横目に、備え付けの小さな給湯室でポットから紅茶を入れて低いテーブルの上に置いた。

「連れて来られたのが特別校舎の風紀室で良かったな。座り心地の悪くないソファと飲み物も出てくる。」
「…ワザと紅茶を入れて出すヤツが相手だけどな。」
「はは、別に飲めない訳じゃないんだからいいだろ。」

 本家に出向いた時や俺の実家でこんな応対をしたら、五体満足ではいられないだろう。
 徐々に古いしがらみを潰し普通の企業としての道を確立しつつあるとはいえ、まだまだ時間はかかる。そして急激な変化についていけない脱落者が、アノ時のように愚かな行動を起こしたりしないよう…俺達の代で、変えていかなければいけないと親父達は言った。

 ――尤も、その話だって俺自身が友近の拉致に関係していたからこそ教えられた事実であり、目の前の次期当主にはまだ知らされてもいない事を、常に肝に銘じておかなくてはいけない。
 大人達からみた俺らはまだまだ子供で。
 次の時代を担うとはいえ、全てを継承するには青すぎて…認めさせるには時間がかかるのだろう。



「――で、話はなんだ?」

 出された紅茶に手をつける訳でもなく、瓜生家の坊ちゃんが胡乱気な目を向ける。

「まぁ焦るな坊ちゃん。」
「……お前だって蒲生家で坊て呼ばれてるだろうが――態々嫌味な言い方すんじゃねーよ。」
「はは、そうだけどな。お前…この週末に外泊届け出してるだろう?あとテスト期間に入った平日の昼から門限ギリギリまで。」

 瓜生家で何か特別な行事が行われるという話は耳に入っていない。


「…調べたい事があるんだよ。」
「調べたい事?」

 外泊してという事は、中等部時代に出入りしていた胡散臭い場所だろう。
 大抵の問題ならほぼ確実に瓜生のネットワークで調べた方が早く、しかも確実だろうに。それを敢えてしない事実。

 俺の視線に日影は眉を寄せるだけで、返事を返すこと無く「用件はそれだけか。」と腰を上げる。


 ――家の力を使いたく無くて、それでも調べたい事。


「……その知りたい事って…周りの人間に聞いたら、案外すぐにでも教えて貰えるかも知れないんじゃないのか…?」
「――ああ、なんならお前に聞いても一発で解決かもな。」
「なら「それじゃあ、意味がねーだろ」……意味が、ない?」

 日影の知りたい事が友近の何かなら、誰もがそろそろ教えても大丈夫だと判断していた筈だ。
 けれど目の前の従弟はそれを良しとしないらしい。
 たった一言で…全ての霧が晴れるのに。





「お菓子を恵んで貰うように甘受したモノに価値はない。―――そうだろう?」


 そう言って皮肉気に笑う男は、確かに瓜生家の跡取りだった。


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