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狼と忠犬

 今日はこれといった書類も回ってきていないし、そろそろ数人は帰らせてもいいだろうと口を開きかけた時、規則的な音で扉がノックされた。
 一定の強さと速度。風紀の誰かが生徒を連行してきたか…。

「…失礼します。」

 入室してきたのは3年と1年の風紀3人。
 とすれば、それなりの問題だろう。彼等の後ろに注意を向ければ―――タイミング良くというか悪くというか、話題に上った生徒が2人…しかもこれまた想像通りの人物が。


「どうしてお前がいるんだ、日影?」
「あ、あのっ!俺が絡まれてたら偶然通りかかって…っ!た、助けてくれ「君には聞いてない、辻本君。」…スミマセン。」


 肩を竦めて悪びれる様子の無い従弟殿の態度から、どうやら偶然というのは嘘ではないようだった。そう、今回は。



 編入生は早速、洗礼を受けそうになったようだ。
 聖を迎えに行く途中で、3階のAクラス近辺のトイレに連れ込まれたらしい。2階の1年生が4階のSクラスに上がって来ればそれこそまた余計な火種を撒くとは考えなかったのだろうかと頭が痛くなったが、起きてしまった事は仕方がない。
 俺の前で身を縮める下級生を取り囲んだらしい生徒達は、全員仲良く医務室にいるらしい…ふむ。

「目撃者は?」
「あそこは普段からあまり生徒が使わない場所なので、誰も見ていないそうです。」

 確かにあそこはそういう用途で使われることが多いので、人が寄りつかないトイレだ。風紀もよく見回りに足を運ぶ校舎の隅。
 だからこその発見か。

「お前はそんな場所に偶然通りかかった、と。」
「…奥の階段を降りてたら、くだらねー声が聞こえてきたんだよ。」
「ああ、なるほどね。で、うちの者達が見つけた、倒れていた生徒達と揉めていた奴の姿は見なかった、と。」
「……ああ。」
「え?え?それって一体…。」
「――まあ、どうせ医務室の生徒の意識が戻ってもちゃんとした答えは期待できないな。ああ、辻本君、君もわざわざ立ち会ってくれてありがとう。もう帰ってもいいよ。」
「え、え?」

 まだ事情の飲み込めない編入生に、仕方なく丁寧に説明してやる。

「…正当防衛とはいえ、生徒に怪我をさせてしまえばどちらも処罰の対象になる。しかも両方の言い分が食い違えば…面倒でもあるし、彼らも自分たちの非は認めないだろう。全くの無関係の証人がいない限り難しいし、第一、今は君云々の問題は広がらないに越した事はないんだよ。」
「ど、どうして…ですか?」
「来週からテストが始まる。その3日間はさすがに制裁等はなりを潜めるだろうし、君たちの今後次第ではそのまま沈静化することだって無いとは言えない。その前に、既に制裁が行われているという噂は流したくないんだよ…わかるかな?」

 俺の言葉に、曖昧ながらも頷く辻本少年には笑顔でお帰りいただくよう風紀室の扉を開けた。
 念のため風紀を一人つけて寮まで戻らせる事にして……一緒に帰ろうとする日影に声をかける。



「――ああ、お前はちょっと話があるから此処に残ってくれ。」


 残っている風紀も退席させ、2人になった途端にさらに不機嫌になる従弟殿に椅子を勧めた。

「まぁ座れば?なんだよ、そんなに嬉しそうな顔するな。」
「……どう見ても嫌そうに見えないか?」


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あきゅろす。
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