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狼と忠犬
遅かった
 辻本が聖の一人部屋から朝帰りした日、登校した時にはもう、噂は広まった後だった。




 正確には―――多くの生徒達が天使と崇める書記様の部屋から出てくる、平平凡凡の辻本の姿が納められた写真が、掲示板にでかでかと貼りだされていたのだ。
 拡大された写真の右下には、ご丁寧に今日の日付に加え、AM3:50と時間まで記載されていた。

「え!?な、なにコレっ!?」

 今日に限っては部屋の前まで迎えに来た先輩と仲良く登校した辻本は、貼りだされた写真を見て顔を真っ赤に染めた。
 横にいた聖は、照れてはいるが「隠し撮りなんて酷いな…」と顔を顰める。


 主役2人の登場に、周囲はがぜん色めき立つ。
 射殺しそうな目で辻本を睨む者もいれば、イヤらしい含み笑いをし合う生徒、ヒソヒソと囁く声やざわめきが、掲示板と2人を中心にして広まる。

 かなりの人数に囲まれるような2人に、日影さまが小さく舌打ちをされた。



 それを合図にして、俺は掲示板の前へ足を運び…A4サイズの紙に印刷されていたソレを引き剥がす。

「あ!」

 と誰かが声を上げるが、そんなことは俺の知った事ではない。
 白い紙にプリントされただけのソレはあっさり剥がれ、そのまま丸めるか破るか思案する間もなく――「風紀だ!」と誰かの叫ぶ声が響いた。

「オラ!お前ら早く校舎入れよ!邪魔、邪魔!」

 早苗さまではない声がして、蜘蛛の子を散らすように消えていく生徒の間から、3人の知らない男が現れる。
 真ん中の生徒が、俺を見て「あ」と声を上げたが…見知った顔ではない。ネクタイから2年生だと判ったが、誰だ?

「…お前かぁ。」
「……?」
「掲示板に、写真貼りだされていて騒ぎになってるって聞いて来たんだけど、ソレか?」

 誰だか知らない風紀委員に、無言で頷いてから手にしていたプリントを手渡した。
 残りの2人が、辻本達に何やら話しかけている。

 写真が本物か偽物か、詳しい話を別の場所でじっくり聞かれるんだろう。本来ならそれは本人たちのプライベートな訳だが、辻本の相手は特殊過ぎた。




 俺の出る幕ではないので、そのまま放っておいて教室へ足を向けるコトにする。

 ふと顔を上げれば――少し離れた、先程と同じ場所で、日影さまが腕を組んだままで立っていらした。
 辻本達が気になるのだろうか?
 では俺も、日影さまの後ろで待機していようと近づけば…なぜか、日影さまの鋭い視線が俺を射抜く。いつもみていた嫌悪を含んだソレではない、けれど苛立ちの影も見え隠れする。

「―――おい。アイツらに関係する事に、もうお前は関わるなよ。」
「はい……あ、え?」


 以前、面倒を見ろと言われた手前、なんとかしておけという命令に返答する気でいた俺に……正反対の指令がきた。


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