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狼と忠犬
嵐の予感
 逃げるように教室の戻ったはいいが、残りの2人を置いてきた事に多少の罪悪感をおぼえる。さてどうしたものかと思いながらも、どうしよもないので放っておいて昨日届いた漫画を読むことにした。


「……、…近衛。」

 遠くから名を呼ぶ声が聞こえた気がして、顔を上げる。目の前に堤が立っていた。

「…どうしたんですか?」

 いつもなら軽く無視して読書を優先するんだが…土気色の顔面を曝すルームメイトの様子に、さすがに声をかける。
 堤は無言のまま自分の椅子に座るが、魂が抜けたようになっている。おいおい、お前が声をかけてきたんじゃないのか?

 わざわざ二回も聞いてやるほどお優しくもない俺が、漫画に目を戻そうとした時「食堂で。」と堤が口を開いた。外しかけた視線を戻せば…やはり顔色の冴えない堤が、どこか遠くをボンヤリ眺めながら呟いた。


「お前が久豆見会長から逃げてから……えらい事になった…。」
「えらい事?」

 てっきり、教室に戻って来た堤達には先ほどの一件を追及されると構えていたのだが…堤の注意は俺には無く、しかも、辻本がいないとか。あまりイイ話は期待できそうにない。

「近衛の事なんか吹っ飛ぶぐらいの台風だったわ…。いや、お前のアレもアレですげぇ気になったけどな。」
「聞きたいですか?」

 答えを分かった上で聞いてやれば、案の定「いや。怖いから聞きたくない。」と真顔で返ってきた。さすがは事無かれ主義凡男。聞いてくれと俺が言えば耳を貸すだろうが、自分からは決して踏み込んでは来ない。思慮深いと言えば聞こえはいいが、要はそこまでの執着がないだけだ。爽やかそうに見えて、案外…。


「――で、何があったって?」

 先を促せば――堤はようやく俺を視界に入れる。


「あの後すぐ、会長の側に書記が来たんだよ。どうも一緒に食堂へ来てたみたいで、暴走する前に…って言うかもうかなりしてたケド、止めに入ったんだわ。」

 悪魔の前に天使が来たってカンジ?と笑う。

 書記といえば…聖幸也。生徒会の天使だとか妖精とか騒がれている2年生だが――男にその例えはどうなんだと言う生徒がいても、実際の彼を間近で見れば…ビスクドールのような容姿と穏やかな性格に引き込まれるらしい。まぁ興味無いけど。


「…それで、その様子を見てた辻本が……聖君に一目ぼれしちゃったみたいで…。」


 …へぇ、と相槌をうつ前に、堤の目がまた遠くを見だした。




「――――アイツ、いきなり食堂で…聖君に告白しちゃった……。」




 …………は?

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