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「いやいやでも柚梨殿がお話の分かる…
いえ、妖語の分かる方で良かった!」

妖語?何だろうそれは…
内心で首を傾げながら、目の前で柔らかく微笑む人物(元鼬)を見上げる。
いきなり宙返りしたかと思うと煙と共に突然現れたこの人物はあの鼬の妖で…
それが人間の姿に化けたのだと言った。

そんな人間離れで非現実的な…
と思ったけれど、そういえば相手は妖なのだったとそこは素直に納得。

人間の姿に化けた鼬は、声の印象そのままの容姿をしていて一見しただけでは性別の判断が付かない位に中性的な顔立ちをしていた。背もスラリと高く体の線も細い。肩まで伸びた髪は色素の薄い茶色で、男性物の着物と女性にしては低すぎるかな?くらいの微妙な声音の違いがなければ間違いなく女性かと思っただろう。
歳の頃は20代の中頃といった感じだ。

「ああっ!耳も消えてなかったっ!」

そして落ち着いた外見とは真逆で、本人はかなりのおっちょこちょいらしい。

「・・・・・よし!大丈夫…だ、よ、ね・・・」

体のあちこちをペタペタと触り"消し忘れ"が無いかを一生懸命確認しているその姿は少し小動物っぽくて可愛らしい気もする。

その彼は名を『癒沙(ユサ)』と言った。
自分達は鼬の妖怪でいつも兄弟3人で色々な場所を旅して回っているのだという。
そしてその道中、少し目を離した隙にその弟達とはぐれてしまったらしい。

聞くところによると、その弟たちは大層やんちゃなようで放っておくとそれはもう大変なことになるんだとか。

「この近辺はもう何度も探したんですが…
あっ、この近くで人間達が沢山集まるような場所ってどこにありますか?」

「えーと
ここからなら駅…かな」

まだ幼い弟達なら確かに放っておくと大変なことになるかもしれない。危険と知らずに交通量の多い場所へ行ったり、人間に捕まってしまう恐れだってある。3匹いつも一緒に居たのなら心配も尚更だろう。
少しでも早く弟達を探してあげないと。

「そこに案内してもらえますか?」

「うん。…あ、でも」

「どうかしました?」

「や…あの、その格好は流石に…」

それとなく諭そうとした柚梨だったが、当の癒沙はキョトンとしている。

「格好が何か?」

「えーと…その。
今から人通りの多い場所に行きます」

「はい」

「沢山、人が居ます」

「はい」

「その格好は目立つかと」

「?」

「着物と、箱です」

「あー」

やっと理解してくれたかとホッと胸を撫で下ろす。鼬から人の姿になった癒沙の格好は着物と草履で大層昔ながらの佇まいなのだが、一際目に付くのはやはりその背中に背負った大きな箱だろう。

鼬姿の時に背負っていた小さな風呂敷包みが、何故か人の姿になると同時にそれまで大きな箱になっていたのだ。
箱にはいくつもの引出が付いていて、一見すると少し小さな箪笥にも見える。

「…その箱、置いていけない?」
「駄目です」

一呼吸の間もなく即答。
大事な物でも入っているのだろうか?

「薬が入ってるんですよ」

問うより先に癒沙が答える。

「弟達が居ると怪我が絶えなくて…」

「あ〜」

こうして居なくなったりするくらいなのだから平素からやんちゃで怪我も絶えないのだろう。それで常に薬を持ち歩いているのかと思うと優しいお兄さんだな〜と素直に感心する。ちょっと抜けてるけど…

「よ〜し。では"今風"な格好に…!」

そう言うとガバッと着物の上をはだけさせた癒沙に柚梨はギョッとする。

「うわー!うわー!ストップ!待ったっ」

「へ?」

「な、なな何で脱ぐんですか!」

「脱がなければ、着替えられません」

「じゃなくて!!
さっきみたく服も化けて変えたりは…?」

「あー」

そういえばそうでした!ぽんっと手の平に拳を乗せ笑顔でそう答える癒沙に、柚梨の不安はより一層増したのだった――。

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あきゅろす。
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