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ビフ赤短編集
デート…?
「御侍、みっともない恰好で歩くな。」
「え。でも、こんな感じの服しかないんだけど…。」
レストラン業務も落ち着いた時のことだった。探索に行っていた赤ワインが帰るなり指摘されたが、生憎服にこだわりはなく同じような服がクローゼットに並んでいた。
「それなら週末に服を仕立てに行くぞ。」
「仕立てに…?ちょ、赤ワイン!?」
言うことだけ言って満足したのか、その場を立ち去った赤ワインに文句の一つも言えず、御侍はその場に立ち尽くした。
「週末…、取り敢えず時間は空けておくか。レストランはプリンたちに任せておこう。」
久方の休養だと思えば体が軽くなった気がした。あと三日ほど先の話だが、何だかんだ赤ワインとは友好的な関係を築けている自負はあるし、それに断る理由もなかった。
その話を聞いている者がいたこと、その者が睨みつけていたことを、残りの仕事を片付けていた御侍が知る由もなかった。


「準備は出来たか?」
「ちょっと、待って…、うわ、っ…!」
街まで下りるというので少しくらいはお洒落をと、背伸びした結果転びかけた。ヒールの高い靴は履きなれない。重心のとり方が分からないのだ。
「何をしている。」
寸でのところを赤ワインに助けてもらい、顔から地面に突っ込む最悪の事態は避けられた。
「行くぞ。」
転ばないようにだろうか、手を差し出した赤ワインの好意を有難く受け取りその手を取った。

「……近くないか。」
「そうか?」
同日、同時間、二人の影に忍ぶ者がいた。片方は屈強な体で背中に双剣を背負い、片方は小さな体に似合わぬ盾を持っていた。
男をビーフステーキといい、少女をジンジャーブレッドといった。
「やはり、近い。浮気か。」
「御侍と食霊の関係だろ、あれは。」
冷静なジンジャーブレッドのツッコミが耳に入っていないのかビーフステーキは射殺さんばかりに二人の背を睨みつける。いや、睨みつけているのは主に御侍の方だった。
「御侍に忠実だとは到底思えない…。」
呆れきったジンジャーブレッドは、しかし、レストランにいてはつまらないし、それならばとこの修羅場を見守ろうと思ったが、この馬鹿は離れた位置にいる馬鹿しか見えていない上に、主を嫉妬の眼差しで見ていることが分かって放っておけるわけがない。御侍を怪我させてはならない、それがジンジャーブレッドに課せられた使命だった。こんなところで発揮されるとは全く思っていなかったが。
「はぁ…、やってらんないよ。全く……。」
傍から見たら確かに恋人にも見えなくもない二人を、執念のように追いかける馬鹿を追って駆けた。


「これなんかはどうだ?」
「……これはいくらでしょうか。」
「金貨三万枚ですね。」
ニコリと営業スマイルを引っ提げた店員さんの言葉を聞いて絶望を感じる御侍。
「赤ワイン、やはり服は要らない。」
「馬鹿か。態々俺様が見繕ってやってるんだ、買え。」
「鬼か…!!」
「どうなされますか?」
御侍は最大のピンチに瀕していた。正直堕神の強化に大金を摩ってしまったために、そう簡単に金貨をほいほい出せないのだ。だというのに、自分の食霊は金を出せと言う、背後を店員が取っているため逃げるのも不可能に近い。
「もっと、安い服を……。」
「妥協しろと言うのか?」
「イエ…、滅相もございません……。」
泣く泣く支払った。今月は休み無しで働かなくては。肩を落とす御侍とは違い、赤ワインはいつも通りだった。そもそも、この男に任せたらそれはもう高級品やブランド物を勧めてくるのは予想出来たはずで、回避する方法もあった。完全に自分の落ち度だった。
「はは…、今月は必死に働かないとな…。」
「服装が乱れていては精神に来す。身なりをちゃんとしていれば稼ぎも出る、落ち込むことは一つもない。」
赤ワインなりの励ましだろうか。それに気分が少し浮上したが、そもそもな元凶なわけで、また低迷の一途を辿った。
「仕方ないやつだな。」
はぁぁぁ、と長い溜め息の後に赤ワインは一つの赤い箱を取り出した。受け取れと手のひらの上に乗せられた。
「ネックレス…?」
シンプルなシルバーのタグがトップのネックレスだった。隅の方に自分の名前が彫ってあった。
「ありがと、赤ワイン。」
心の底から笑った。誰だって贈り物は嬉しいが、それでもこうやって貰ってみて、サプライズのような形で贈られたそれは特別な気がした。
「あ、ああ…。」
ふい、と顔を逸らすが真っ赤に染まった耳が感情を如実に伝えてくる。貴重な照れ顔を拝めたこと、それ自体は嬉しいのだが、こんな場面だからこっちまで恥ずかしくなってきた。
「何か暑いね…。」
「……そうだな。」
会話が続かない。隣に並んで、十は上にある顔を覗き込もうとしたら、さり気なく頭に手を置かれ依然地面と顔を合わせる結果となった。
ふと、赤ワインの歩みが止まる。
不思議に思っていると、赤ワインが少しずつ後ずさっているのが見えた。
「赤ワイン…?」
「御侍、すまない。」
「ふっざけるな!!おい!!」
何故かビーフステーキの声が聞こえたと思ったら頭の上の手が離れ、顔を上げた時にはビーフステーキに担がれた赤ワインがそこにいた。
赤ワインが罵声を浴びせるも、何も言わずに何処かへと去っていった二人の背中を呆然と見送った。
「何あれ……。」
「さあ、何だろうな。」
「私は一体何を見せられたんだろうか……。」
「さあな、あたしにもサッパリだ。」
いつの間にか隣にジンジャーブレッドがいることも特に驚くこともなく会話を続けた。

その後戻ってきた二人はというと、赤ワインはぐったりとしていて、ビーフステーキは何処と無く嬉しそうだったことを記述しておく。

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