第5話 賭け@ ★★☆ その店はいかにも高級品といった物ばかりを取り揃えた紳士物のブティック。 半地下の駐車場からでも正面玄関からも出入りが出来る造りになっているようだ。 細かい花の彫刻を施した扉に土足で入るのが勿体ないくらいの重厚でしっかりとした豪華な絨毯。 派手ではないがきらきらと光りを反射するシャンデリアは幻想的だった。 全体的に抑えられた照明なのに陰湿な印象はない。 壁際にはトルソーにかかったスーツが数点あり、中央のガラスケースの中にはパスケースや財布などの小物が並べられていた。 商品の点数が少ないのはオーダーメイトの店だからか。 現に壁には様々な生地が収められた棚がある。 そのどれもがきっと目の飛び出るような価格であろう事は容易に想像出来た。 それよりも何より驚いたのは全裸のなつがいても一目くれただけで何も言わない事だ。 だから余計に恥ずかしい。 なつは薫の後ろに隠れた。 「いらっしゃいませ、先生。」 「すみません、こんな時間に。でも注文した物が入ったと聞いたので……」 「えぇ、今朝イタリアから届いたので自宅に連絡をしたんです。 すぐに朝倉さんから連絡が行ったんですね。」 「えぇ、電話で。 もう少し早く来るつもりでしたが用事が重なってしまって。」 「構いませんよ。 すぐにご覧になりますか?」 「はい…あ……いぇ、車に運んでください。 大沢さんの所の物ですから心配はいらないでしょう。」 「恐れ入ります。 久音(ヒサネ)、先生の車にお買い上げの物を。 どうです? コーヒーでも。 後ろのかわいい坊やのお話もお聞きしたい。 この前、お受けになった方とは違いますよね?」 大沢という30代後半から40代前半に見える男はなつを見て口角をあげた。 せれが怖くて、なつはますます薫の後ろに……完全に隠れた。 ぎゅっとジャケットの裾を握り締める。 なつは全裸の上に、腿にはそれとはっきり分かるリモコンが巻き付けられている。 なつが自分で施したものだ。 そのリモコンから伸びる細いケーブルは真っ直ぐにアナルへと繋がっている。 その先が何かなんて………きっと大沢にはバレている。 全裸で入店して来たなつに大して驚きもしなかったのだ。 なつがどんな存在か、きっと分かるような付き合いを薫としているに違いない。 恥ずかしい……。 薫は大沢に導かれて、奥まった場所のソファに腰を下ろした。 なつはどうしたらよいか分からない。 だから裾を握ったまま中のローターが障らないように注意しながら薫の隣りに座る。 すると途端に腿を叩かれた。 パシンっ! と実に小気味良い音が店内に響く。 叩かれた事よりその高い音にビックリしてしまってなつはぱちくりと瞬きをして薫を見る。 久音と呼ばれた青年が戻って来てソファの後ろ、大沢に従うように立つと小さくくすっと笑った。 まるで馬鹿にするように。 なつは困惑する。 一体何がいけなかったのか……。 「……………どこに座っているのです。 貴方にそんな資格は、ありませんよ。」 「あ……はいっ! ごめんなさい。」 なつは素直に謝るとそそくさと立ち上がり少し考えた後、薫の足下に座った。 大沢はその様子を目を細めて見ていた。 ほうっと感心したように息を落とす。 「すみません大沢さん。躾が全然出来ていないのです。」 「しかしとても素直な人だ。 ペットにするなら何よりの素質。…………新しいご依頼ですか? 確か先日は瀬川様が落札された……」 「葛原君の調教は昨日終わりました。 なかなか頑固な性格で苦労しましたが、瀬川さんも気に入ってくれたようです。 今日納品してきて、それも遅くなってしまった原因です。」 「そうでしたか。 では、こちらは? ……最近オークション、ありませんでしたよね?」 「新堂君です。 飛び込みなのですよ。夕べいきなりやってきて調教してほしいと。 さぁ、ご挨拶して。」 薫はぽんとなつの背中を叩いた。 するとなつはぴょんと立ち上がる。 二人の前に一糸纏わぬ姿を改めて晒す。 [*前へ][次へ#] [戻る] |