B 思わず叫んでいた。 「健人!」 俺の声に目に見えて体を震わせた奴はぎこちない動作で振り返った。 だが、叫んだのが俺だと分かると明らかにホッとした様な表情をした。 なんだ………? 「なんだ、和音か。 やっぱり兄弟だな。 声、似てる。ハルかと思った………」 歩み寄って女性を見ると奴はばつが悪そうに苦笑して、なにやら耳打ちする。 女性は不服そうに唇を尖らせるが、チラリと俺を見て絡めた腕を解くとくるりと背を向けた。 「いいの?」 「だって、聞きたいでしょ。 こんな場所で会っちゃって誤魔化しようがないし。」 悪びれない姿に無性に腹が立つ。 「ハルとは、別れてないよね?」 「あぁ。ちゃんと付き合ってるよ。」 健人は女性が去って行った方とは逆に歩き出す。 俺はその横に並んだ。 掌に爪が食い込みそうなほど握っていた。 「じゃぁ、どうして? 春生は………まさか、知らないよね?」 繊細な子なのだ。 傷付けるなんて許せない。 憎んでいてもやっぱり兄弟で。 この弟を心配する気持ちも嘘ではないのだ。 大切な弟には変わりない。 「………………」 「まさか、知ってる、の?」 「多分………」 「健人!? どういうつもり? 泣かせるなって言っただろう!! 飽きたなら別れろよ! おま、最低。」 最低なのは俺。 大切な弟。 だけど。 飽きたなら……心のどこかで喜んでいる自分が確かにいた。 心配しながら、弟に対して、ザマアミロ、と思っている自分もいる。 本当、最悪。 でも、気持ちばかりは仕方ないじゃないか。 別れてくれたら、自分にもチャンスが、ある? やっぱり弟ナンカより俺の方が………。 無意識の意識。 隠していた深層心理が、本当の思いが暴れだす。 否定して否定して、否定いしてきた醜い心。 オトウトナンカヨリ………。 『なんか』という親が大嫌いだった。 同じお腹を痛めた子供なのに。 自分の子供だと分かっていながら。 でも実際、そういう風に比べられて優越感が100%なかったかと言われると、どうだったか………。 自分は優れている、知らず知らずに弟を踏みつけたいたのかもしれない。 だから、奴が俺を選ぶもの当然で。 [*前へ][次へ#] [戻る] |