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代金を支払っているからそんな言葉いらないと思っていた自分がいかに無知だったか。
傲慢だったか……。
今更なのかもしれないが、俺はその日から見る目が変わった。
食べ物に対しても、嫌々世話をしていた動物たちに対しても。
現金な話だけど、仕方ない。
でも気付いた。
気が付けた。
今思うと『いただきます』と和音さんが言ったその瞬間恋をして、そんな考え方をする和音さんに落ちたんだ。
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「蝶野くん、なんか元気ないわね。」
ホワイトボードのシフト表を見ていた利恩に事務の女性が声をかけた。
この研究所は基本週休2日制だが、研究が山場になると暗黙了解で休みなどなくなる。
何より動物たちの世話は365日しなければならないので実質年中無休だ。
だから業務はシフト制で、決まった休みはないに等しい。
だが世の中は大抵土日が休みで既婚者や子供のいる者は優先的に土日を休みに出来るのも暗黙の了解だった。
まだ新人の利恩、そして独身の和音には土日休日がほとんどない。
最初こそうんざりしていた利恩も最近は進んで平日に休みを持ってきていた。
それに輪をかけて自分では願いでない和音の休みは同僚たちの隙間を縫うように入れられている。
だから連休は極端に少ないのが和音のシフト表だ。
その和音が明日からの土日が休みなのだ。
聞けば誰かとわざわざ交換してまで、休日願いを出したのだそうだ。
何で休むのか……
そりゃああの和音にだってプライベートはあるだろう。
だが、利恩が就職してから初めての事でとても気になる。
休日をどのように過ごすのか。
まさか、女性と……なんてあるだろうか。
恋人はいないって言っていたけれど。
「だって、明日明後日って新山さんいないじゃないですか。」
「あぁ、新山くん休みだもんね。
ほんとに好きよねえ、蝶野くん。」
「大好きですよ、尊敬してますし。」
にへら、と笑って見せる。
堂々と大好きと公言したも案外冗談か、LOVEではない方の意味で取られる。
だからあえて大好きは隠さない。
今ではもう、蝶野利恩は新山和音の飼い犬みたいな扱いだ。
そう言うと「最初は文句ばっかりだったじゃない」とクスクス笑われる。
そりゃあね、最初はハズレくじ引いたって思ってたし。
「でも珍しいですよね、土日にわざわざ休みとるなんて。」
「そっか、蝶野くんは知らないのね。
こう言うのは本人に直接聞いた方がいいと思うけど、三回忌なのよ。」
「三回忌っていうと、えっと、」
「二年前にご両親を一度に亡くされてて、その法要。毎年この時期は連休なのよ。
いつも休みはみんなが優先だから、この時期だけは新山くんにみんな譲るの。」
それが普段の行い、ってやつなのかもしれない。
しかし命日の墓参りだけならそうでもないだろうが、三回忌法要となるとどうなんだろう。
両親二人の法要なら親戚が手伝ってくれたりするのだろうか。
兄弟がいるとは聞いたことがない。
一人で、大丈夫なんだろうか……。
元々しっかりした人だから何てことないかもしれないけれど……気になるじゃないか。
あわよくば、いいとこ見せたい、なんて下心がむくむくと頭をもたげてくる。
でも、プライベートに踏み込まれるのを極端に嫌っていたらただのお節介でしかなくなるだろう。
嫌われるのは、いやだ。
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