B ‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡ 6月。 毎日毎日、毎回毎日毎日毎日毎日、小動物の世話。それから使用した試験管などの後片付け、研究室の掃除に資料のコピーに論文の和訳。地味で細々した無限にある雑用。 そりゃあ新人だから最初は仕方ないとは思ったけど、さすがに2ヶ月経ってもこう毎日だとね、辟易する。 大学院では研究員として俺は結構有能だった……はずだ。 おまけに同期はお気楽そうな先輩が教育係でもう何回も飲み会やら合コンにまで連れて行って貰ったらしい。 それに比べて………。 冗談も駄洒落も通じない、真面目だけが取り柄みたいな俺の教育係。 飲み会も合コンも、アフターに食事すら誘われない。 昼休み中すら初日から別々だった。 まぁ男に誘われたってそう嬉しいもんじゃないけど、ほら、なんていうの? 後輩、先輩のちょっとした楽しいコミュニケーションなんかを入社したての頃は期待してたのは確かだ。 本当に、つまらない。 退屈な毎日だった。 だから来月になったら辞表を書こうかなんて本気で考え始めたんだ。 ボーナスだってほとんどないだろうし、未練はそれほど無い。こんなご時世でも若いうちならなんとかなるだろう。 実家だし、ね。 だけどちょうどその頃。 「蝶野くん、そろそろお昼だから、今日は一緒に食べに…行こうか?」 「は?」 投薬を終えたマウスのゲージの蓋を閉めて丁寧に手を洗いながら新山さんが突然話しかけてきた。 俺はその突拍子もない申し出にポカンとしてしまう。 だって入社して2ヶ月、こんな事は初めてだったから。 お昼「入っていい」と言うのがいつもの事。 そう言われて1人だったり時々時間が合えば事務系の女子たちと食べに行っていた。 「え、と……だからお昼を…」 聞き返すと不自然に目を泳がせる。 「それは分かりました。だけどなんで急に一緒になんて?」 「そう、だよね………突然びっくりするよね。 実は……この前栗原に言われてね。 蝶野くんに雑用ばかりさせてないで教育係なんだからたまには飯とか食わせてやられ、て。 それくらい面倒みるのは上司として当然なんだって。」 「はぁ………」 栗原と言うのは新山さんの同期の先輩。おしゃれな先輩で俺にもよく声を掛けてくれる人だ。 そう言えばこの間飲んだときにちょっと愚痴ったような…、気がする。 だから、か。 「ずっと頑張ってくれてるし……俺とじゃつまらないと思うけど、奢るから?」 人と話すのも苦手そうで根暗な、イメージとしてはオタク?な新山さんとの昼飯なんて確かにつまらなさそうだ。 正直、面倒くさい。 だからと言って無碍に断れない。 曲がりなりにも上司だ。 頭の中でいくら罵っていても俺の性格は事なかれ主義。 のらりくらりと世渡り上手でいたい。 俺は人一倍その辺の空気は読めるつもりだ。 だけど一体何を話せばいいのやら。 沈黙に飯が不味くなりそう。 かといって会社帰りに誘われるよりはマシだろうか。 飲みは何時に終わるか分からないし、もし新山さんが絡み上戸とかだったら面倒な事この上ない。下手に説教なんかされたら、とんでもなくストレスが溜まりそうだ。 昼飯ならどんなにつまらなくても一時間弱の辛抱。 それに今月ちょっと遊びすぎて財布ピンチだしね。 社食だとしても奢りは有り難い。 「いいんですか?」 俺は覚悟を決めた。 「もちろん。」 とニッコリ笑った新山さんが実は結構整った顔立ちなのだと初めて知った。 [*前へ][次へ#] [戻る] |